ジョンソンの〝遺産〟Brexitの今後が政治の焦点

ジョンソンの〝遺産〟Brexitの今後が政治の焦点
岡崎研究所
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/27445

『7月7日、英国のジョンソン首相はついに保守党党首を辞任した。ただし、次期党首が選出されるまで、首相としては暫定的にとどまる。
Panorama Images/iStock/ Getty Images Plus

 ジョンソンが首相に選出される前、英国のフィナンシャル・タイムズ紙やEconomist誌は彼が首相の資質を欠くことを散々書いた。Economist誌は、保守党は窮地に陥ると異端者に賭けるという大博打を打って来たが、ジョンソンは危険な賭けである――リスクがこれほど高く、上手くいく可能性がこれほど低いことは近年なかった――と警告した。不幸にして不安は的中した。

 ジョンソンの転落の原因は彼の政治に対する誠実さ・真剣さの欠如にある。奇矯な行動、奔放なルール破り、嘘と誤魔化し、国際約束の軽視がそれである。

 7月5日、スナク(財務相)とジャビド(保健相)が相次いで辞任してダムが決壊した。その後に閣僚や政府高官の辞任が奔流となるに至ったが、彼には適材をもって空席閣僚ポストを埋める術がなく、実際上、政権維持の道を断たれることとなった。

 7月7日のジョンソンの辞任演説に悪びれたところは微塵もなく、彼は「過去数日間、政府を交替せしめることは常軌を逸している(eccentric)と同僚の説得を試みた」「しかし、群れ(herd)は強力で動く時には動く」「政治においては誰しもおよそ必要不可欠ということはないのだ」と述べたが、彼の怒りの表現のようである。他方、フランスの財務相ル・メールは「彼を惜しむことはないだろう」と述べたが、欧州連合(EU)全体の感情を代弁するものであろう。

 ジョンソンの遺産の最大のものはBrexitである――彼にBrexitが国益だとの確信があったかは疑問であるが。予見し得る将来、EUへの復帰が議論になることはない――7月4日の講演で労働党党首キア・スターマーは労働党政権において「英国はEUに戻ることはしない」と述べ、Brexitを機能させる提案(Make Brexit Work)を行った。』

『フィナンシャル・タイムズ紙のロバート・シュリムズリーによる7月7日付け論説‘Boris Johnson goes, but what comes next?’は、党首選挙の候補者の間にBrexitに関して政策に大きな差はないと予測しているが、Brexitに伴う混乱(特に、北アイルランド議定書の問題)を収拾することは優先度の高い課題と言うべきであろう。
後継首相候補らが進めようとするものは?

 もう一つの大きな遺産は、Brexitを最終的に確かなものにした2019年12月の下院選挙における保守党の地滑り的勝利である。「Brexitを片付ける(Get Brexit Done)」というスローガンが政治の膠着に飽きた有権者に浸透した。

 ウェールズからイングランド北東部に跨る労働党の牙城に切り込む戦略が功を奏した。この遺産を継承し、この地域の議席(red wall seats)を繋ぎ止めるためには地域の底上げの公約を実現する必要があるが、それに要する高水準の財政支出が保守党本来の減税と抑制された歳出の方針と衝突することはこの論説に説明がある。いずれにせよ、有権者の関心は生活費にあり、党首選挙の焦点は経済・財政政策になるようである。

 候補者は乱立気味であったが、7月21日には保守党議員による投票で、スナク前財務相とトラス外相の2人に候補が絞り込まれた。スナクは財政規律を重視し、トラスは外交的にタカ派である(ウクライナ戦争に積極的でありかなりの対中強硬派でもある)。

 党員投票を経て、9月5日に議会が再開される前に後継首相が決まる予定である。世論調査等では、今のところ保守党員の支持はトラスに大きく傾いているようだ。』