[FT]ドラギ政権崩壊に失望の有権者 「裏切り党」に反発

[FT]ドラギ政権崩壊に失望の有権者 「裏切り党」に反発
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『イタリア首相の辞任を表明したマリオ・ドラギ氏が、9月に実施される総選挙に長い影を落としている。同氏は政界から身を引くのかもしれないが、多くの有権者が同氏の辞任表明はタイミングの悪い間違いだったと考えているためだ。

多くの有権者がドラギ氏の辞任表明はタイミングの悪い間違いだったと考えている=ロイター

2カ月という異例の短期間の選挙戦に向け、各政党はドラギ政権の崩壊につながった責任の所在を巡って応酬を繰り広げている。ドラギ氏が1年半にわたって率いた挙国一致政権は7月、深刻な経済・地政学上の試練のさなかに崩壊した。

ドラギ氏と、欧州連合(EU)が資金提供する同氏の経済改革案を支持していた政党や著名政治家は、政権崩壊を非難する人と距離を置いている。この崩壊劇は、小党が乱立するイタリア政局に混乱をもたらしている。同国で多数派政権を発足させるには、いくつもの党からなる政治同盟をつくることが不可欠だ。

議会解散招いた与党

英サリー大学のダニエル・アルバタッツィー教授(政治学)は「ある意味で王を殺した者と、王を救おうとした者との間に、非常に明確な境界線がある」と指摘する。

欧州中央銀行(ECB)前総裁のドラギ氏は2021年2月、公職から引退していたにもかかわらず、請われてイタリア首相に就任した。ロシアのウクライナ侵攻によってさまざまな課題が生じるなか、新型コロナウイルス禍後のイタリア経済を回復の軌道に乗せようとした同氏は国民の支持を得た。

しかし、反エスタブリッシュメント(支配層)を掲げる左派の「五つ星運動」と、ベルルスコーニ元首相率いる中道右派の「フォルツァ・イタリア」、サルビーニ元副首相が党首を務める極右の「同盟」(いずれもドラギ氏率いる連立政権を構成)は7月20日、ドラギ氏の信任投票を棄権し、同氏の辞任と翌日の議会解散を招いた。

現下の危機は、物価高で打撃を受けた国民への救済措置を巡る7月14日の議会採決に五つ星が参加しなかったことに端を発する。同党の党首を務めるコンテ前首相は、支持率が低迷する自党内の分裂を懸念していた。採決のボイコットを受け、ドラギ氏は辞意を表明したが、マッタレッラ大統領は辞任の申し出を受け入れず、議会で信任を問うよう指示した。

ドラギ氏は議員に向けた厳しい演説の中で、連立与党のメンバーは合意した改革を覆そうとしていると非難したが、各党が改革課題に再び取り組むのであれば辞任を見送る方針だと述べた。しかし、五つ星とフォルツァ・イタリア、同盟が離脱し、ドラギ政権は事実上の終焉(しゅうえん)を迎えた。

政党間の信頼にも変化

アナリストによると、3党の裏切りは9月25日の選挙に影響するとみられている。影響は有権者だけでなく、イタリアの政治システムにおいて政権の樹立に重要な役割を果たす政治同盟にも及ぶという。

世論調査会社ユートレンドを創設したロレンツォ・プレグリアスコ氏は「ドラギ政権の崩壊に関する記憶は、有権者の選択の一部をなすだろう」と話す。「首相辞任につながった力学は非常に政治的なものであり、今後数週間の選挙戦を方向づける可能性もある」という。

世論調査では、ドラギ政権下の野党で極右の「イタリアの同胞」と、フォルツァ・イタリアや同盟との右派連合が、選挙での決定的勝利に向かっているとみられている。

ただ、フォルツァ・イタリアと同盟を含め、ドラギ氏を見捨てた3党に対する国民の支持は、政権崩壊以降にやや低下していることもうかがえる。

「世論のかなりの部分は、ドラギ政権には問題がないと考えていたし、今回のような事態を好まない」とアルバタッツィ教授はみている。「問題は、これで多くの票が動くかどうかだ」という。

ドラギ氏の唐突な失脚劇は政党間の信頼をも揺るがしており、単独で行動するより他党と手を組む政党の方が有利な政治システムにおいて展望は一変している。

イタリア議会の3分の2の議席は比例代表制で選出され、全国での得票率が低い小党も形ばかりの議席を確保できるが、残りの3分の1は小選挙区制がとられるため、候補者を一本化した幅広い連合が有利になる。

政権崩壊後、忠実なドラギ支持を掲げる中道左派の「民主党」は、五つ星との提携を打ち切った。五つ星は直近の議会で第1党だったが、議席数を大きく減らすとみられている。支持率でイタリアの同胞に迫る民主党はその代わり、中道派の小党と提携し、支持の得られる連合の発足を目指している。

右派では、フォルツァ・イタリア出身の大物閣僚2人、マーラ・カルファーニャ氏とマリアステッラ・ジェルミーニ氏が、ドラギ政権を崩壊に追い込んだベルルスコーニ党首の役割に愛想をつかして離党した。離党後は、カルロ・カレンダ氏率いる中道派政党「アツィオーネ」に加わっている。同党は、フォルツァ・イタリアに幻滅し、イタリアの同胞に警戒感を抱く穏健派の有権者を取り込もうとしている。

低投票率ならば左派に有利

「五つ星はすでにドラギ氏の辞任表明の影響を実感しているが、フォルツァ・イタリアはドラギ政権を崩壊させた決断に最も苦しめられるだろう」とプレグリアスコ氏は指摘する。「この1年、フォルツァ・イタリアは中道右派の理性的な代弁者として、親EUのリベラル派として、自党を位置づけようとしてきた。彼らの方向転換を有権者が理解するのは容易ではない」

同盟とフォルツァ・イタリアが支持を失っているにもかかわらず、急速に支持を伸ばすイタリアの同胞のメローニ党首を中心に、中道右派が議会の最大勢力に浮上することは引き続き確実視されている。しかし、右派の政権獲得はまだ一筋縄ではいかない可能性が高い。低い投票率は左派に有利と考えられており、多くの有権者が政治に幻滅して投票を棄権するようなことがあれば、なおさら困難だろう。

「イタリア国民の大多数は依然として、解散総選挙は間違いであって、イタリアにとって悪いことだと考えている」とプレグリアスコ氏は語った。

By Amy Kazmin

(2022年8月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)

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