[FT]インドIT、早期に減速の見方 離職率高く賃金上昇

[FT]インドIT、早期に減速の見方 離職率高く賃金上昇
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『インド経済の大きな原動力となってきたIT(情報技術)サービス業の減速見通しが、投資家の間で懸念されている。

インドIT(情報技術)サービス大手は経済のけん引役を果たしてきた=ロイター
IT関連のバックオフィス業務を受託するインド企業のうち、時価総額2位のタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)の株価は年初来14%安。インドの大手企業で構成する株価指数のニフティ50指数全体では6%安にとどまっている。

競合のインフォシスは、7月に好調な業績を発表するまで年初来20%安に低迷していた。

だがTCSのN・ガナパシー・スブラマニアム最高執行責任者(COO)は、フィナンシャル・タイムズ(FT)とのインタビューで、悲観的な見方を否定した。「世界にはハイテク人材が必要で、現時点では足りていない。インドには技術力の優れた人材が世界で最も多く集まっている」

ITサービスはインドの「外向き経済」を代表する存在で、巨大グローバル企業の数々を取引先としている。TCSの顧客には、英製薬大手アストラゼネカから米金融大手シティバンク、米マイクロソフト、英小売り大手マークス・アンド・スペンサー(M&S)までが名を連ねる。ITサービス業界全体が高技能人材にとっての主要な就職先でもあり、500万人以上が働く。TCSだけでも2022年3月卒業の新卒者を11万8880人採用した。

TCSの従業員数は60万人超と、民間企業の中で世界屈指の人員規模を抱える。独自動車大手フォルクスワーゲンの67万3000人には及ばないものの、米物流大手UPSの53万4000人をしのぐ。

離職率高く賃金負担が重荷に

ところが一部のアナリストは、とりわけ世界的に景気が後退する場合、ITサービスの力強い成長が続くか疑わしいと考えている。また、離職率の高さで賃金が押し上げられやすいことも不安視している。

野村は今年に入ってから、インドのITサービス業の成長鈍化時期が「当初より早まりそうだ」との見方を示し、「IT関連支出にとって厳しい日々が待ち受けている」と指摘した。米JPモルガンは、同業界の「成長のピークが過ぎた」と断定した。

TCSが7月上旬に発表した22年4~6月期決算で、売上高は前年同期比10%増の67億ドル(約9000億円)と、アナリスト予想に届かなかった。営業利益率は23.1%と、前年同期から2.4ポイント低下した。

同社のサミール・セクサリア最高財務責任者(CFO)は「コスト管理の観点で難しい四半期だった」と明かした。営業利益率の悪化は「年間給与引き上げの影響、人材の離職への対応で膨らんだコスト、徐々に正常化しつつある出張費を反映している」

他のITサービス企業も投資家の期待に応えられていない。ウィプロは複数の金融機関によって投資判断が下方修正され、株価が年初来40%安となっている。テック・マヒンドラは41%安だ。

インフォシスが7月に公表した22年4~6月期の売上高は17.5%増の44億ドルと、市場予想を上回った。ただ、業界の主要指標として注目される利益率は20.1%と、前年同期の23.7%から縮小した。

クラウドコンピューティングへの移行に活路

悲観的な見方ばかりではない。豪マッコーリーは最近、TCSやインフォシスなどが景気悪化を乗り切るのに有利な地位にあると分析した。「もてはやされても結局はコスト削減の打撃を真っ先に受ける人材派遣企業だった2000年代とは違い、インドのトップITサービス企業は戦略的パートナーになっている」

スブラマニアム氏も同様の見解で、顧客が「ある程度の再調整」を行うことはあり得るものの、「支出自体が減るとは思わない」と述べた。また「ハードウエアは売れないかもしれない」との認識を示しつつ、クラウドコンピューティングへの支出拡大の可能性を見込んでいる。

ただ懸念材料はある。スブラマニアム氏によると、TCSは生産性の向上と値上げがかなわない場合、為替差益を通じてコスト増の影響を埋め合わせてきた。しかし今回は「ルピーが対ドルで下落している半面、他通貨に対しては上昇している」ため難しいと話す。

ロックダウン(都市封鎖)の解除で出張費が再び増加したことに加え、人件費の膨張も営業利益率を圧迫している。22年3月期の営業利益率は25%と、TCSが目標とする26~28%に及ばなかった。

それでもスブラマニアム氏は、人件費の上昇が「一時的な変調」にすぎないと言明した。
「やがて落ち着くだろうというのがわれわれの感覚だ。ただ当面、少なくとも2~3四半期の間は、誰かを雇用しようとする時に今より30%多い報酬を支払うことを余儀なくされるだろう」

スタートアップとの人材獲得競争に

同氏は離職率もピークを迎えたとみる。だが新入社員の多くがリモート勤務で、「TCSの文化を知らずにいる」ことを憂慮している。

技術力を備えた新卒者にとって、TCSやインフォシスがかつては最も人気の高い就職先だった。ところが今では、ベンチャーキャピタル(VC)から資金を得て高い報酬を約束するスタートアップ企業と人材を奪い合っている。

データプラットフォームのフィントラッカーによると、インドのスタートアップ企業への投資額は21年に380億ドルとなった。これは前年の3倍に相当する。

スブラマニアム氏は「スタートアップ企業が提示する給与と同じ額は決して出せない」と語りながらも、今年はVCからの出資が鈍ることで雇用市場が「いくらか正常化する」だろうとの考えを示した。

こうした中、1968年創業のTCSは、より多くの柔軟性と選択肢を求める比較的若い世代の社員と、働き方の改革を議論している。

スブラマニアム氏は「在籍10年以上の役職者はオフィスに来たがるが、これより若い人々は『出社を強要しないでほしい』と思っている」と説明する。比較的若い世代は「自分の働き方と時間管理に関する柔軟性と決定権をもっと大幅に高めたがっている」ため、「(役職者の)考え方を変えなければならない」と強調した。

By Chloe Cornish

(2022年8月2日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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