黒子役はデロイト、北海道に描くJカーブ水素経済圏

黒子役はデロイト、北海道に描くJカーブ水素経済圏
北のゼロカーボン都市~創業⑷
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFC255O90V20C22A7000000/

『北海道の地図を眺めながら、「鉄のまち」として栄えた室蘭市を起点に「紙のまち」の苫小牧市から札幌市まで線を引く。すると北海道の真ん中にあたかもアルファベットの「J」を描く形となる。

北海道のJカーブ経済圏。道内の産業や人口の集積地は函館市や旭川市、釧路市などに分散しているが、Jカーブの線上では都市が集中する。そこに二酸化炭素(CO2)を排出しない次世代エネルギーである水素を使った試みを重ねた「Jカーブ水素経済圏」構想を練り、企業と自治体を動かす黒子たちがいる。

「我々の得意としているのはグランドデザインだ。産業をまたぎ、国と自治体も巻き込みながら北海道の未来を変えていく」。デロイトトーマツグループの榎本哲也シニアマネジャーはこう語る。

「大学時代からロマンのある発電所など大型インフラに携わる仕事に就きたかった。頭を使い、官民連携によってグランドデザインを企画したかった」と榎本氏。新卒で大手銀行系シンクタンクに入社し、デロイトに中途入社した。

デロイトトーマツグループの榎本哲也シニアマネジャー

これまで10年以上にわたってエネルギー業界に特化し、150件以上のプロジェクトを手掛けた。米国シェールガス開発による石炭産業への影響調査など海外事業戦略の策定が自身の強みだ。今は北の大地にフィールドを移し、ゼロカーボン都市をバックアップしている。

最初の挑戦が「紙のまち」苫小牧だった。CO2を回収し貯留するCCSの大規模実証試験が2012年度から国家プロジェクトで進んでいた。19年11月までに30万トンの地下貯留に成功した。その年、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託を受けてCO2を有効活用する技術を検討し、経済産業省がロードマップを策定した。

苫小牧市ではCO2回収や貯留の大規模実証実験が進む

もう一人の黒子は「鉄のまち」室蘭で動いた。

水素利活用プロジェクトを統括する越智崇充シニアマネジャーも銀行系シンクタンクから転身した。「技術開発だけで世の中を変えるのは難しい。デロイトで世界を変えたい」と、これまで中央省庁の水素政策や水素利活用を進めている自治体の再生可能エネルギー政策に携わってきた。

「室蘭の水素ポテンシャルは日本ではトップレベル。水素利活用社会を実現していく」と、越智氏はみる。金属熱処理など工業用にも利用できる水素なら「鉄のまち」で応用しやすい。

18年に室蘭市で水素活用の事業がスタートした。CO2を回収し有効活用するCCUと水素のポテンシャル調査を開始した。将来、CO2を回収・分離し、水素と合成して天然ガスの成分であるメタンに変換し、加熱炉などで工業利用するシナリオを描く。

デロイトトーマツグループの越智崇充シニアマネジャー

「Jカーブ水素経済圏」はここから広がる未来予想図だ。

水素は燃焼してもCO2を排出せず、燃料電池車(FCV)や家庭用燃料電池「エネファーム」など幅広い用途で利用可能だ。将来は大都市や工業地帯で需要が大きく伸びると予想される。室蘭でつくった水素は札幌市のほか、海外への輸送も考えられる。逆に、他都市で水素をつくって室蘭の工業地帯に供給する選択肢もありうる。

北海道の鈴木直道知事は「ゼロカーボン北海道」を掲げて「地産地消」を基本とした水素サプライチェーンの構築を目指す。道全体で30年度までにFCVを9000台普及させた後、水素を使った発電設備などを導入し、水素を利活用しやすい環境整備を進めるという。

ゼロカーボン北海道も、デロイトの描くJカーブ水素経済圏も、大消費地である札幌を中心に展開される構想であり整合している。

榎本、越智両氏は「Jカーブ水素経済圏は他地域のモデルになりうる。全国、世界の先駆けにしたい」と口をそろえる。

(魚山裕慈)

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