ロシア産ガスの早急な禁輸「非現実的」 欧州経済団体

ロシア産ガスの早急な禁輸「非現実的」 欧州経済団体
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR2508R0V20C22A7000000/

『【ロンドン=中島裕介】欧州連合(EU)域内の産業界がロシア産天然ガスの動向に懸念を深めている。欧州の経済団体ビジネスヨーロッパのマークス・ベイヤー事務総長は日本経済新聞のインタビューで、ロシア産ガスの欧州への輸入停止は中期的な課題とすべきだと語った。再生可能エネルギーなどの代替策を講じる前の早急な禁輸はEU経済に打撃となり「現実的ではない」と指摘した。

EUはウクライナに軍事侵攻したロシアへのエネルギー面での制裁として、ロシア産の石炭を禁輸するほか、年末までに90%の同国産石油の輸入を止めると決めた。ロシアの戦費調達を封じるために、主要な外貨調達手段をふさぐ狙いだ。

ベイヤー氏は制裁について「制裁の悪影響を欧州の経済界が背負うのは明らかだ」と語った。欧州の経済界は「ロシアの侵略と不法行為に対する制裁は全面的に支持している」と指摘する一方、今後の制裁が「必要以上に経済力を損なわないように設計されることを期待する」と語った。

EUは2027年までにロシア産化石燃料への依存から脱却することを掲げる。天然ガスに関しては、一部の加盟国のロシア産依存度が高いため、具体的な輸入削減のスケジュールを提示できていない。米英両国はロシア産天然ガスの禁輸方針を示しており、EUにも禁輸や大幅削減を求める声がある。

これについてベイヤー氏は早期のロシア産ガスの調達停止は「現実的でない政策だ」と訴えた。「ガス供給が止まればドイツ経済は明らかに不況に陥るとの分析もある」と述べ、早期の禁輸は欧州経済への悪影響が大きすぎると強調した。

一方で「中期的であれば、ロシア産ガスの供給停止は達成可能であるとも明言したい」と語った。そのための液化天然ガス(LNG)の備蓄能力の増強や再生可能エネルギーの普及拡大の必要性を訴えた。

特に再エネに関しては「コスト回収を早めるために風力発電の建設の許認可の迅速化が必要だ。EU指令により、地域によっては建設に慎重になっている水力発電の活用も重要だ」と指摘。欧州委員会や加盟各国政府による規制緩和が欠かせないと説いた。

ロシアは強硬姿勢を続けるEU各国にエネルギーの供給不安をあおり、加盟国の結束を揺さぶる姿勢をみせる。ロシア国営ガスプロムが、ドイツと結ぶパイプライン「ノルドストリーム」の供給量を8割減らすと表明したのもその一環との見方がある。

対応策としてEUは7月26日に自主目標に近い形式で、加盟国が天然ガスの消費を過去5年の平均に比べて15%減らすことで合意した。ベイヤーは「ガスの消費を10%減らすと、製造業の生産高が5%減るとの試算がある」と語った。

Markus Beyrer 母国オーストリアではEU加盟交渉に関わった。首相の首席経済顧問の経歴も。12年から現職。56歳。

対中関係、「分断」は解決策ではない

日本経済新聞とマークス・ベイヤー事務総長のインタビューでの主なやりとりは次の通り。

――欧州連合(EU)は制裁としてロシア産石炭の輸入禁止と、年末までに90%の同国産石油の禁輸を決めました。

「制裁の悪影響を欧州の経済界が背負うのは明らかだが、ロシアの侵略と不法行為に対して制裁を全面的に支持している。今後も制裁は対象を絞り、必要以上に経済力を損なわないように設計されることを期待する」

――天然ガスも早期に禁輸すべきだとの意見もあります。ロシアはガス供給を絞って、欧州各国を揺さぶる構えを見せています。

「欧州経済に広範囲に及ぶ悪影響なしに、早急にガス禁輸を実現することはできない。ガスの消費を10%減らせば、製造業の生産高は5%減るとの試算もあるし、ガス供給が止まればドイツ経済は明らかに不況に陥るとの分析もある。これは現実的でない政策だ」
「一方で中期的にはロシア産ガスの供給停止は達成可能であるとも明言したい。そのためにはLNGの基地の増設やパイプラインの増強、洋上風力発電の建設などEU諸国での様々な変化が必要だ。風力発電ではコスト回収を早めるために許認可の迅速化も必要だ。EU指令により、地域によっては建設に慎重になっている水力発電の活用も重要だろう」

――EUの対中関係は改善が見られません。経済界はどう見ていますか。

「中国は今でも主要な貿易相手で有望な市場ではあるが、同時に国のシステム上の競争相手でもある。この点では我々の中国への認識は大きく変わった。ただデカップリング(分断)は解決策ではなく、気候対策や自由貿易など共通の関心事項に関しては引き続き中国と関係を持つことが重要だと思っている」

――合意に至ったEU・中国間の投資協定は欧州議会の批准がなされないまま凍結状態です。

「出資比率の制限緩和や技術移転の強要の禁止など経済界の要望が盛り込まれており、良い合意だった。しかし新疆ウイグル自治区の人権侵害の問題を巡る制裁合戦で、欧州議会の一部の議員が中国の制裁を受けており、これが解除されない限り議会で批准されないことは明らかだろう」

――欧州委員会は加盟国の政府借り入れを抑制するルールの適用を23年も停止する方針です。

「23年の財政ルールの停止は理にかなっている。だが経済が改善し次第、ルールを再開し、加盟国の持続可能な財政を見失わないようにする必要がある」』