ペロシ米下院議長と台湾有事 ウクライナ侵攻から半年

ペロシ米下院議長と台湾有事 ウクライナ侵攻から半年
政治部長 吉野直也
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA0269S0S2A800C2000000/

『ペロシ米下院議長の台湾訪問と蔡英文(ツァイ・インウェン)総統との会談は台湾有事が日本有事であることを改めて認識させた。

ペロシ氏の訪台に「内政干渉」と反発する中国は台湾を取り囲むように軍事演習を始めた。日本の排他的経済水域(EEZ)も含む海域だ。

岸田文雄首相は5日、ペロシ氏と面会する予定。台湾訪問の話題を避けるのは不自然だが、どう触れるかは簡単ではない。台湾有事が日本有事につながる構図がここにも垣間見える。

自国の防衛を米国任せにしてきた日本を覚醒させつつあるロシアのウクライナ侵攻から24日で半年たつ。

許されざるロシアの侵攻は日本の国防の視点では参考になる。2014年のクリミア併合後、ロシア政府の債務残高は19年まで国内総生産(GDP)比で縮小傾向をたどり、10%台を維持した。

日本の債務残高は10年にGDP比200%を超え、21年時点で260%ほど。今から振り返ればロシアは財政余力をつくり、戦争への選択肢を確保していた。

いったん有事になれば、週ごとに兆円単位の支出も想定される。財政余力がなければ、持続可能な対応は難しくなる。

政府は7月29日の閣議で23年度予算の概算要求基準を了承した。防衛費は要求段階で前年度以下というような上限を定めないことにした。

自民党は4月、防衛費を5年以内にGDP比2%以上を念頭に増やすよう提言した。これが編成過程で目標になる。これまでは1%が目安だった。

日本は戦後、防衛の大部分を米国に委ね、その分の予算を経済に回して発展してきた。米国の衰退と中国の台頭で戦後の日米モデルの継続は困難になり、ロシアのウクライナ侵攻で決定的となった。防衛費の増額の起点はそこにある。

日本経済新聞の調査によると、中国は新疆ウイグル自治区の砂漠地帯に早期警戒管制機(AWACS)に似た模型を置き、その後、爆破した。

中国が日米に監視されているのを知りながら、台湾有事を見据えた準備を進めているのは明白だ。

こうした事実に目を背けて抑止力の強化に反対するのは無責任な態度になる。「空想的平和主義」と言われても致し方ない。

外交で戦争を防ぐ努力をするのは当然だ。並行して抑止力を拡充して他国に戦争を思いとどまらせるのである。

首相は関係省庁に米国防予算の研究を指示した。

笹川平和財団の渡部恒雄上席研究員は「米国の国防予算には国防総省やエネルギー省など複数省庁の予算を含む。『役所=1つの予算』ではない」と指摘する。

日本の予算編成は各府省庁の縦割りという構造的な欠陥を助長する。「防衛省の予算」として数字を積み上げても効果的な抑止力は期待できない。

ロシアの例にみられるように有事に向けた財政余力の議論も必要になる。日本の債務残高は新型コロナウイルス対策で一段と膨らむ。現状で有事に耐えうる財政余力はどのくらいあるのか。

財政は国防の根幹である。防衛費を増額しても財政余力が狭まれば、有事への対処には不安が残る。本来なら増額という歳出と国民の負担を伴う歳入の議論はセット。歳入について発言する政治家が見当たらないのは、世論に好感されないと思っているからだ。

その世論に通底するのは自国を自分たちで守るという意識の乏しさだ。国を守るには国民一人ひとりの自覚が欠かせない。政治家は国民の映し鏡である。

政治部長 吉野直也

政治記者として細川護熙首相から岸田文雄首相まで15人の首相を取材。財務省、経済産業省、金融庁など経済官庁も担当した。2012年4月から17年3月までワシントンに駐在し、12年と16年の米大統領選を現地で報じた。著書は「核なき世界の終着点 オバマ対日外交の深層」(16年日本経済新聞出版社)、「ワシントン緊急報告 アメリカ大乱」(17年日経BP)。ツイッターは@NaoyaYoshino

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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ひとこと解説

一連の出来事をみて、ふっと、この人が米国の大統領だったら、世界はどうなっているか、と思った。トランプは議会で演説したとき、議長として彼女はトランプと握手しようとして、トランプに無視された。その次の瞬間は彼女はトランプの演説原稿を破り捨てた。これこそ政治。アメリカの下院議長とはいえ、できることは限られている。しかし、今回の台湾訪問は間違いなく歴史に残る出来事。
2022年8月4日 7:52 』