アメリカ・中国、長い覇権争いの始まり

アメリカ・中国、長い覇権争いの始まり
本社コメンテーター 秋田浩之
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD037G70T00C22A8000000/

『米中は互いにひけない対立のトンネルに入った。台湾問題はその元凶というよりも、結果だ。両大国が争っているのは世界秩序の主導権であり、緊張は10年、20年の単位で続くだろう。

米当局者や識者が語る対中観はこの2年半で大きく変わった。2019年末ごろまではサイバースパイや軍拡、人権の抑圧といった「行動」を批判する声が中心だった。

20年に新型コロナウイルスの感染が広がるにつれ、共産党の「体質」への批判も多く聞かれるようになった。言論の自由を認めない体制が、感染初期に現場の隠蔽を許し、ウイルスを世界に広げたとの怒りからだ。

そして今、米国の警戒心は中国がめざす「秩序観」にも注がれる。中国はウクライナ侵略を続けるロシアをかばっている。戦後、米欧が主導した秩序を壊し、中国主導に変えるつもりだ、と米側は強く疑う。

中国側の不信感も極まっている。米国はなんだかんだ言って、中国の台頭を阻もうとしている。人権や民主主義を振りかざすのは口実にすぎない……。共産党幹部や中国メディアの論調からは、こんな怒りがあらわだ。

人間関係でいえば、互いの行動が原因のケンカなら仲直りは可能だ。しかし、相手の体質や世界観を信用できず、許せないとなれば、和解は難しい。これが米中の現状であり、今後、世界秩序の主導権を巡る覇権争いが熱を帯びるだろう。

台湾海峡の緊張はこうした争いの延長線にある。米国の台湾支援は単にハイテクや民主主義の拠点として大事だからではない。アジアを中国圏に染めないためには、台湾の現状を守らねばならないと考えている。

米中は経済で深く結びついており、冷戦時代の米ソとは異なる。だが、経済や海洋の権益にとどまらず、イデオロギーや秩序観にも対立が及んでいる点で、新型の冷戦に近い。かつての米ソのように、戦争を防ぐための危機管理を整えることがまず急務だ。(本社コメンテーター 秋田浩之)

【関連記事】

・ペロシ氏「米台は団結」蔡総統と会談 台湾離れ韓国到着
・挑発いなせぬ「脆き大国」 中国、ペロシ氏訪台に猛反発
・米国、台湾支援へ超党派新法 「政治の季節」強硬に傾く

多様な観点からニュースを考える

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

川島真のアバター
川島真
東京大学大学院総合文化研究科 教授
コメントメニュー

分析・考察

習近平政権は、2049年にアメリカに追いついて、台湾統一を含む「中華民族の偉大なる復興の夢」を実現するとする。中間点は2035年だ。中国の世界観は確かに先進国のそれとは違う。ただ経済の相互依存が強い点でかつての冷戦とは異なる。中国は先進国の秩序や価値観を批判するが、国連や国際法は受け入れると言う。だが、その位置付けや解釈は独自のものだ。中国は、先進国を「時代遅れの少数派」とし、自らは世界の多数から支持される「正しい」存在だとしたい。だが、新型肺炎、ウクライナ戦争、今回の台湾海峡の緊張と、旗色はよろしくない。習近平三期目で軌道修正ができるか。ペロシ議長訪台が逆効果にならないことを期待したい。
2022年8月4日 6:37 』