[FT]解任された駐独ウクライナ大使の「けんか腰外交」

[FT]解任された駐独ウクライナ大使の「けんか腰外交」
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 ※ 立派に、祖国のために任務を果たした…、と思う。

 ※ 非常時には、こういう「人々の襟をつかんで、揺さぶる」態度も、必要なんだと思う…。

 ※ トップがそれでは、困るが…。

『解任されたウクライナのメリニク駐独大使は、時に行き過ぎた発言が目立った。例えば、ショルツ独首相には「そんな不機嫌な態度はやめてくれ」となじり、ある左派の政治家には「口を閉じろ」と命じるほどだ。

7月8日、ベルリンのドイツ連邦首相府前でロシアの侵攻に抗議するウクライナの人々=ロイター

だが、メリニク氏は、目的は常に手段を正当化するという思想の持ち主だ。「人々を揺さぶって目覚めさせたと思う」とフィナンシャル・タイムズ(FT)の取材で語っている。「いささか外交的でないやり方でやらざるを得ないこともあったが、やってよかったと思っている」

駐独大使を7年務め、先ごろ解任されたメリニク氏について、ドイツ政府関係者に印象を聞くと、最も多かった答えは「Nervensäge」だった。直訳すると「神経のこぎり」で、目の上のこぶのような存在をドイツ語でこう呼ぶ。

これは、ウクライナ政策を巡ってメリニク氏が絶えずドイツ政府を非難していたことを指している。同氏は外交辞令をまったく無視した批判を繰り広げた。ツイッターやトーク番組、ラジオや活字媒体での数え切れないインタビューを通じた同氏の「口撃」は、混み合った部屋に投げ込まれた爆竹のように鳴り響き、パニックや混乱、時に恐怖を引き起こした。
「人々を目覚めさせる」

メリニク氏は自身の「ショックジョック」(リスナーの怒りを買うような過激発言をするディスクジョッキー)的スタイルをこう擁護する。「人々を心地よい眠りから目覚めさせ、無気力な状態から抜け出させなければならない。無気力状態の人は『万事が順調なのに、この男は私たちに何を望んでいるのか。なぜ彼は私たちを挑発しているのか』としか言わない」

国際法や人権法の専門家で、ドイツ語が堪能なメリニク氏は、1997年にウクライナの外交官になったが、ロシアが22年2月24日にウクライナへの本格的な侵攻を開始するまで、その存在は世間一般に知られていなかった。それからは突如として至る所で名が知られるようになった。

テレビやソーシャルメディアでは、ドイツの指導者に対して苦境に立たされたウクライナの支援を要請する一方、重火器の供与を尻込みするドイツを揶揄(やゆ)し、ロシアのプーチン大統領を信頼した浅はかな過去を容赦なく責め立てるなど、一斉砲撃を繰り返した。

ドイツ連邦議会のツィマーマン国防委員長の言葉を借りれば、この過程においてメリニク氏は「外交官というより政治家に、騒々しく、厄介で、非常にけんか腰に」なった。

メリニク氏は多くの一線を越えたが、それも無理からぬことだとツィマーマン氏は話す。「彼は悲惨な戦争を経験している祖国のために、声を上げて戦った」

だからこそ、ドイツの政治家の間では、メリニク氏がたまにする失言を大目に見る空気があった。元左派議員のファビオ・デ・マシ氏に「左寄りの口を閉じろ」と言い、ウクライナの非軍事化を提案した学者を汚い言葉でののしったときでもだ。

メリニク氏の厚かましさは5月に最高潮に達した。ドイツのシュタインマイヤー大統領がウクライナ側から訪問を拒否され、ショルツ首相がこの侮辱を理由に同国を訪問しない方針を明らかにしたためだ。メリニク氏は当時、ショルツ氏のふるまいを「気を悪くしたレバーソーセージ」(ドイツ語で理由もなく不機嫌になった人の意)のようだと非難した。この発言については後に謝罪している。

だが6月には、一部の熱心な支持者にとってさえ行き過ぎた発言をした。あるインタビューで、ウクライナの独立運動を主導した政治家ステパン・バンデラについて見解を問われたときだ。バンデラ派は第2次世界大戦中にユダヤ人とポーランド人の虐殺に加担した。メリニク氏は史実に疑問を呈したもようで、バンデラと距離を置くことは拒否した。ポーランドとイスラエルはこれに強い憤りを表明した。

失言に後悔も

メリニク氏は振り返って過ちを犯したことを認めている。「私の言葉が一部の人を傷つけてしまったかもしれず、悔やんでいる。そんなつもりはなかった」

反ソ連を掲げる自由の戦士として一部のウクライナ人からあがめられる一方、反ユダヤ主義者やファシストとして非難されることもあるバンデラについては「外交官ではなく歴史学者」が扱うべき問題であって、必要なのは彼の役割を巡る「冷静かつ事実に基づいた」評価だったという。

この失言でメリニク氏の評判には傷がついたが、大使としての功績、例えば、ウクライナへの武器供与問題が「常に公の議論で真っ先に取り上げられ、政治課題の上位に位置づけられる」ようにしたことなどには誇りを持っているという。

しかし、メリニク氏が残したものは依然として物議を醸している。ドイツ政府内では、ウクライナ支援を拡大すべきだとする同氏の意見に共感する声が多かった。「しかし、彼の主張の仕方は自身のためにはならなかった」とある政府関係者はいう。「彼は結果的に多くの人を遠ざけ、ドイツにいるウクライナの真の友人たちに居心地の悪い思いをさせた」

メリニク氏にはやり残したことも多い。ドイツには「古い政策の名残がまだあまりにも多くあり」、ロシア政府との「特別な関係」を復活させたい政治家はあまりにも多く、そうした政治家は「(ドイツの)経済的成功の基盤であるロシア産のガスを入手し続けられるよう」願っているという。

「そうした幻想は捨てなければならない」と同氏は強調する。「ドイツに圧力をかけ続け」、ウクライナ問題で「弱腰にならないように」できるかは、後任の大使次第だという。

メリニク氏は、バンデラを巡る舌禍事件の直後に解任され、今後の身の振り方は不明だ。友人によると、外務副大臣への就任を打診されているが、本人は躊躇(ちゅうちょ)しているという。

メリニク氏は、目の上のこぶという評判がおそらく一生消えないことを分かっている。それでも声を上げる以外に選択肢はなかったという。

「私は本当にただ黙っていられただろうか。事態がどれほど悪化しているか、ドイツ人がどれだけ見境のつかない状況か分かっていたというのに。私にはどんな選択肢があったのだろう」

By Guy Chazan

(2022年8月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)

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