[FT]タリバン支配のアフガン市民「空腹をどう満たすか」

[FT]タリバン支配のアフガン市民「空腹をどう満たすか」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB022NB0S2A800C2000000/

『アフガニスタンの首都カブールに住むナージャ・ラシドさんと夫のラハトゥラ・カランダリさんはイスラム主義組織タリバンの統治に不安を抱いて暮らしているが、最も心配なのは6人の子どもたちの次の食事をどうするかだという。
カブール市内の検問所にタリバン旗を設置する戦闘員。タリバンは政権復帰後、全政府機関にタリバン旗を使うよう命じた=ロイター

2021年8月にタリバンが復権するまで、2人はカブールの官公庁でそれぞれ託児所職員と警備員をしていたが、現在はともに失業中だ。一家は食事を切り詰め、宝飾品を売り払い、今は援助団体や近隣の人たちの支援に頼っている。

「タリバン復権がいいか悪いかなど私にはどうでもいい」。タリバンの超保守的な世界観にくみしないラシドさんはこう話した。「問題は私たちの空腹をどう満たすかだ」

北大西洋条約機構(NATO)の駐留部隊が撤退しイスラム教スンニ派の過激派組織タリバンが1年前に政権を奪取してから4000万の国民の生活は一変した。経済が破綻し、国民の貧困、飢餓状況は悪化した。
「次の冬がとても心配」
全身を覆うブルカを着用して市場を歩くアフガン女性。タリバン政権下で女性は様々な権利を奪われ、制限を受けている=ロイター

国連世界食糧計画(WFP)アフガニスタン事務所のシャオウェイ・リー副代表は「次の冬がとても心配だ」と述べ、食料の緊急援助や幅広い投資プログラムが必要だと訴えた。「国民が今の生活から抜け出すためには経済を再生する必要がある」

タリバン復権に対する受け止め方は地域や民族、性別によって大きく異なる。タリバンによる20年にわたる反政府活動の末に訪れた比較的平穏な状況を生活再建のチャンスと歓迎する人がいる一方、迫害の恐怖におびえて暮らす人や、10代の女子が教育を受ける権利などようやくつかんだ自由を奪われた人もいる。

タリバンは1990年代後半に全土を支配したが、2001年に侵攻した米国主導の有志連合に政権を追われ、その後復権を目指して長い闘争を繰り広げてきた。

欧米の支援を受けた政権が21年8月に崩壊すると、ラシドさんとカランダリさん夫婦のような人々は一夜にして日常生活を奪われた。だが一方で、タリバンによる腐敗の摘発を歓迎する人たちもいる。

貿易業を営むハジ・ハマヨンさん(56)は十数年前、内戦を受けて中部ワルダク州の村から避難してカブール郊外へ移転した。日用品の輸入業務で収賄が妨げになっていたが、タリバンが摘発してくれたという。

大半のタリバン戦闘員と同様、ハマヨンさんも最大民族のパシュトゥン人で、イスラム信仰もタリバンと共通している。4人の妻と娘たちは仕事に就いておらず、公共の場では顔を覆い隠す。

「日々の食事などどうでもいいくらいタリバンには感謝している」とハマヨンさんは言う。「タリバンは大歓迎だ。軍閥や抑圧者や人殺したちが皆いなくなったのだから」

欧米主要国は実権を掌握したタリバンを孤立させるべく制裁措置を発動し、90億ドル(約1兆2000億円)に上る外貨準備を凍結したほか、前政権の政府予算の75%を占めていた政府援助を停止した。

だが、こうした措置ではタリバンを抑え込めず、一般国民に打撃を与えただけだとの批判も出ている。
2000万人が深刻な食料不足に
学校に通えなくなり自宅で読書をするアフガンの少女=ロイター

国連開発計画(UNDP)の推計によると、アフガンの国内総生産(GDP)は21年にマイナス20%となり、22年も5%減る見通しだ。約2000万人が深刻な食料不足に陥っているという。

貧困率が高まるなかで、タリバン指導部は厳格なイスラム法解釈に基づく社会改革に乗り出した。社会活動を厳しく規制して女性には顔を覆い隠すよう命じ、10代女子の学校教育を禁じた。

カテラさん(35)とハサナートさん(16)母娘はタリバン復権でとんだ災難に見舞われた。カテラさんはカブールの学校の教職を追われ、ハサナートさんは21年8月から通学できなくなった。

「それまでハサナートは人なつこい子で、よく外出し、とても開放的だったのに、今は家に閉じこもるだけで体重が減り、頭痛に悩まされている」とカテラさんは顔をしかめた。

「ニカブ(顔を覆うスカーフ)を着用するのは構わないから、学校や職場に戻してほしい」

タリバンは政権奪取後、女子の中等教育を再開し新たなカリキュラムも準備中だと繰り返してきたが、進展は見られず、女子教育を全面的に禁じた1990年代の政策を再び導入するのではないかと危ぶむ声も高まっている。

人権団体はタリバンが反政府活動や以前の統治時代によく見られた残虐行為に再び手を染めていると非難する。
160人を裁判なしで処刑
カブール市内のモスクを警備するタリバンの戦闘員。国連によると、タリバンは160人を裁判なしで処刑したほか、200人近くを恣意的に拘束し、数十人を拷問にかけた=ロイター

タリバンは2021年に前政権や政府軍の関係者に恩赦を与えると発表したが、国際監視団によると、その約束はほとんど順守されていない。

国連は7月、タリバンが支配を始めた21年8月から翌年6月までの人権状況をまとめた報告書を公表した。それによるとタリバンは軍や前政権の関係者に対し少なくとも160人を裁判なしで処刑したほか、200人近くを恣意的に拘束し、数十人を拷問にかけた。

タリバンのムジャヒド報道官はこうした疑惑をプロパガンダだと退け、「誰であれ殺人や拘束を恣意的に実行した者はイスラム法の裁きを受ける」とツイッターに投稿した。

国連によると、同じ期間にテロ攻撃で約700人の民間人が死亡、1400人が負傷した。主に少数民族のハザラ人が犠牲になっており、タリバンと対立する過激派組織「イスラム国」(IS)の地元組織の犯行とみられている。

かつてイスラム教シーア派を異端者として迫害したタリバンも、今では少数派を保護する責務があると主張している。とはいえ、タリバンに強い不信感を抱くハザラ人は多い。

カブールに住むあるハザラ人の男性(25)は「前政権下では差別があったが、最近は偏見が少し薄らいできた」と話した。

多くの国民にとって最大の問題は相変わらず家計のやりくりだ。カブール在住の商店主ラジャブ・アリ・ユセフィさん(35)は、主食の売り上げが半減し、家賃を払うためにやむなく借金をした。

「景気は悪くなる一方だ。以前は一袋ずつ買った人たちが、今は半分の量しか買ってくれない」

人道援助により大規模な飢餓を何とか免れているとはいえ、経済的な打撃がさらに深まれば社会的弱者は耐え切れないだろうと援助機関は危惧する。

「1日中仕事を探し歩いても、一向に職にありつけない」と冒頭のカランダリさんは肩を落とした。「もはやお手上げ状態だ。パンを買うカネさえ尽きてしまった」

By Benjamin Parkin

(2022年8月1日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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