[FT]新興国、空前の資本流出 景気後退観測と米利上げで

[FT]新興国、空前の資本流出 景気後退観測と米利上げで
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『新興国での海外資本の流出超過が5カ月連続となり、過去最長記録を塗り替えた。景気後退懸念と金利の上昇が発展途上国の経済を揺るがしていることを物語る。

エルサルバドルの市場でマスクを付けて買い物を運ぶ女性=ロイター

国際金融協会(IIF)がまとめた速報値によると、新興国の株式・債券市場からの海外資金の流出額は7月、105億ドル(約1兆4000億円)に達した。この5カ月間の総流出額は380億ドル超。統計が始まった2005年以降で最も長期間の流出超過となった。

資本の流出は、途上国全般で深まる金融危機を一段と悪化させるおそれがある。この3カ月で、スリランカがデフォルト(債務不履行)に陥り、バングラデシュとパキスタンは国際通貨基金(IMF)に支援を要請した。投資家は、他にも危うい新興国が増えていくと懸念を募らせている。

多くの低・中所得国は、米連邦準備理事会(FRB)の利上げに起因する通貨の下落と借入費用の増加にも苦しんでいる。米国では2四半期連続のマイナス成長が明らかになった。

ジェットコースターのような年

「新興国にとって、実に、実にクレージーなジェットコースターのような年だ」と話すのはカナダの決済会社コーペイのシニアストラテジスト、カールティック・サンカラン氏だ。

米金融大手JPモルガン・チェースのデータによると、投資家は年初以降、先進国の金融市場で起債される新興国の外貨建て債券を運用対象とするファンドからも300億ドルを引き揚げている。

JPモルガンのデータをもとにフィナンシャル・タイムズ(FT)紙が分析したところ、少なくとも20のフロンティア・新興国の外債が米国債よりも10%幅以上高い利回りで取引されている。これほど大きな格差は、重大な信用逼迫とデフォルトリスクを示すものと見なされることが多い。

21年末から22年初めにかけて、多くの投資家が新興国にコロナ禍からの力強い回復を見込んでいたが、その空気は一変している。4月の時点でもブラジルやコロンビアなど、1次産品を輸出する新興国の通貨、債券などはロシアによるウクライナ侵攻後の原油など国際商品価格の高騰を追い風に、良好な状態だった。

だが、世界的な景気後退とインフレ、米国の積極的な利上げ、中国経済の減速への懸念から、多くの投資家が新興国の資産から資金を引き揚げている。

IIFのエコノミスト、ジョナサン・フォーチュン・バルガス氏は資金引き揚げの動きについて、これまでになく途上国全体に広がる異例の展開になっていると指摘する。過去のケースでは、1つの地域から流出した資金が部分的に他地域へ流れ込んでいたという。

「悲観ムード一色」

「今回は悲観ムード一色に傾いている」とフォーチュン・バルガス氏は言う。

アナリストらは、従来と違って世界経済のなかに、新興国を有利にする条件がほとんど見通せないと警鐘を鳴らしている。

「FRBの姿勢が過去の局面と非常に異なっているように見える」と英調査会社アブソリュート・ストラテジー・リサーチの新興国担当エコノミスト、アダム・ウルフ氏は言う。「米国の景気後退と金融市場の不安定化というリスクを冒してでも、インフレの抑え込みを優先しようとしている」

世界最大の新興経済国、中国に景気回復の兆しがほとんど見えないことも懸念材料であるとウルフ氏は指摘する。輸出と資金調達の両面で、中国がその他の新興国の経済回復を主導することが難しくなるためだ。

7月31日に発表された統計は、中国経済の回復の足取りの強さに対する懸念を浮き彫りにした。企業幹部を対象に生産や新規受注などの項目について調査する製造業購買担当者景気指数(PMI)は、6月の50.2から49.0に低下した。

この数字は、新興国の大きな成長エンジンでもある中国の広範な製造業が縮小の領域に入ったことを示唆する。米金融大手ゴールドマン・サックスのエコノミストチームは「市場における需要の低迷とエネルギー集約型産業の生産調整」が原因としている。

スリランカの次はどこに?

一方、スリランカの対外債務のデフォルトを受けて、多くの投資家が次に債務再編に入るのはどの国か神経をとがらせている。

例えばガーナの外債は、デフォルトや債務再編のリスクが価格に織り込まれたため、米国債に対する利回り格差が年初以降、2倍超に拡大している。ガーナは債務返済コストが大きく膨らみ、外貨準備高が21年末の97億ドルから6月末時点の77億ドルへと減少している。1四半期で10億ドルの減少ペースだ。

このままいけば「外貨準備は4四半期のうちには、突然、市場が真剣に心配し始める水準になるだろう」と話すのは英資産運用大手Abrdn(旧スタンダード・ライフ・アバディーン)の投資ディレクター、ケビン・ダリー氏だ。ガーナ政府が22年の財政目標を達成できないことはほぼ確実で、外貨準備の減少は続く見込みだという。

ブラジル、メキシコ、インド、南アフリカなどの主要新興国も借入費用が増加しているが、相対的に小幅にとどまっている。その多くはインフレ抑制のために先行して対策を取り、外部的なショックから自国を守るための政策を固めてきた。

主要新興国の中で唯一懸念されるのはトルコだ。利上げを拒みながら通貨リラを支えようとする政権の政策が、財政に重くのしかかっている。トルコ政府は国内のリラ建て預金者に対し、リラ下落による目減り分を補填すると約束している。

このような措置がうまくいくのはトルコの経常収支が黒字である場合だけで、そんなケースはまれだとウルフ氏は指摘する。「国外での資金調達が必要な状況になれば、いずれそうした仕組みは破綻する」

だが、他の主要新興国も同様の圧力にさらされているとウルフ氏は見る。借入資金に頼ることは、政府がいずれかの時点で国内需要を抑え込まざるを得なくなることを意味し、景気後退の危険が生じるという。

フォーチュン・バルガス氏によると、資金流出はほぼ逃れようがない。「驚くのは投資家心理の豹変ぶりだ」と同氏は言う。「ほんの数週間前まで、1次産品の輸出国は投資家にもてはやされていた。その人気は消え去った」

By Jonathan Wheatley

(2022年7月31日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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