対中制裁「対ロシアよりハードル高い」 帝京大・露口氏

対中制裁「対ロシアよりハードル高い」 帝京大・露口氏
大中国の時代・次なる危機 識者に聞く
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC25BKK0V20C22A7000000/

『米欧日によるロシアへの経済制裁は中国にとっても衝撃となった。外貨準備高の凍結、銀行の国際銀行間通信協会(SWIFT)からの排除にロシアは困窮し、改めて基軸通貨である米ドルの優位性を見せつけたからだ。有事に備え、中国はドル依存の緩和を急ぐ。日本銀行の初代北京事務所長を務めた露口洋介・帝京大教授に展望を聞いた。

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――中国は対ロ制裁をどう受け止めたでしょうか。

「ロシアによるウクライナ侵攻を受け、人民元の国際化に拍車をかけようと試みるだろう。関係が近い国と脱ドルに動き、自分たちにとって安全な通貨としての元の利用を増やす。中国は自国が関わる貿易の取引通貨を元に置き換えていけば、米国から金融制裁を受けた際の効果を減らせる」

「中国は安全保障の観点からも、他国との2国間取引ではドルの使用比率を引き下げようとしてきた。ただこれは元が世界で広く使われる通貨になることを意味しない。ドルには通貨同士の交換を媒介する『通貨の通貨』の役割がある。資本取引が規制された元は多くの国にとって使いづらく、世界中でドルの代わりにはなり得ない」

――対中制裁は何が焦点になりますか。

「中国に対して金融制裁を科すには、金融センターである香港を対象にしないと効果がないだろう。中国の貿易決済はいまだにドルに依存するが、すでに資本取引は約9割が元建てで、その約半分が香港を介する。中国にとって香港は対外投資や海外からのマネー受け入れの拠点だ。中国と香港間の取引は多くが元建てなので、SWIFTを使う必要もない」

「制裁が効果を生むには、ドルやユーロ、日本円が香港に流れるのを止めなくてはならない。香港はHSBCやスタンダードチャータード銀行など英系銀行が根を張り、英ロンドンや米ニューヨークに次ぐ国際金融都市でもある。世界の金融に混乱が及ぶ恐れを考えると、制裁の実行は対ロ制裁よりもハードルが高い」

――将来、元がドルに取って代わることは考えられますか。

「現時点では中国の戦略はドルのような覇権通貨を目指すものではなく、自国防衛の目的が強いとみている。米国の影響力を減らしたいが、逆に米国への影響力を強めたいとまでは考えていない。英ポンドからドルに覇権が移った際は、米国が興隆しただけでなく英国が没落した。米国の急速な衰退がない限り、基軸通貨の交代は起きない」

「ただ元の国際化が進むと、アジアなど限られた地域では、取引の2~3割が元建てに代わるようなこともありうる。元がアジアの地域的な媒介通貨になる可能性は考慮すべきだ。20~30年後には日本が中国から金融制裁を受ける事態も想定される。日本も円建ての貿易取引を増やすなど、円の国際化を進めておくことが安全保障につながる」

(聞き手は山田遼太郎)

大中国の時代 https://www.nikkei.com/theme/?dw=22012100 』