ミャンマー弾圧、強まる批判 ASEAN外相も非難へ

ミャンマー弾圧、強まる批判 ASEAN外相も非難へ
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『【ヤンゴン=新田裕一、プノンペン=大西智也】2021年2月にミャンマー国軍がクーデターで全権を掌握してから1日で1年半となった。市民への弾圧で2100人以上が死亡し、7月には民主派活動家ら4人の死刑を執行した。今週の東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議でも軍政への非難が広がるのは必至だ。

ASEANは3日、カンボジアの首都プノンペンで外相会議を開き、日本や米国、中国などの閣僚も加わって一連の会合を開く。ミャンマー国軍の閣僚は主要会議から排除されており、今回も欠席する。

日本経済新聞社が入手したASEAN外相会議の共同声明案は「暴力の即時停止とすべての当事者が平和的な解決を模索するため、建設的な対話と最大限の自制を求めた」との表現を盛り込んだ。

民主派活動家らの死刑執行について、ASEAN外相会議の議長国カンボジアは「深く失望した」と国軍を非難する声明を発表した。3日の外相会議でもミャンマー情勢が主要議題になるとみられ、会議後に発表する共同声明の中身はさらに厳しくなる可能性がある。

ミャンマー国軍は暴力の即時停止や全当事者の対話など、21年4月に加盟国首脳で決めた5項目の合意をほとんど履行していない。共同声明案には「国軍が履行していないことに深く遺憾の意を表明した」との表現が記載された。国軍との距離の近さを生かして事態打開に動いてきた議長国カンボジアへの風当たりが強まっている。

国軍トップのミンアウンフライン総司令官は1日、国営テレビを通じて演説し「昨年は新型コロナウイルスの感染拡大や国内の暴動への対応で、5項目合意の実行が難しかった」と弁解。「今年は状況が改善したので可能な限りのことをする」と述べたが、実現は疑わしい。

民主化指導者アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)が大勝した20年11月の総選挙で、国軍は大規模不正があったと主張し「自由で公正な選挙の実施」を政権奪取の大義名分に掲げる。

ミンアウンフライン氏は演説で「総選挙を行うには国内の平和と安定が不可欠だ」と述べた。民主派の亡命政府である挙国一致政府(NUG)と連携している少数民族武装勢力が「人員や武器・弾薬を提供している」と指摘した。武装化した市民グループや少数民族の抵抗が続くなか、武力で押さえ込む意図が垣間見える。

経済情勢も混沌としている。携帯通信事業者のノルウェーのテレノール、天然ガスを採掘していたフランスのトタルエナジーズはミャンマーから撤退した。国軍系企業との合弁でビール事業を手掛けていたキリンホールディングスは、合弁会社に株式を引き取らせる形で投資引き揚げを決定した。22年4~6月の外国投資認可件数は10件、2200万ドル(約30億円)にとどまった。

外国直接投資が減少した結果、外貨不足も深刻だ。現地通貨チャットの価値はクーデター前の半分まで下落した。中央銀行は4月、居住者が入手した外貨を強制両替させる通達を出した。国内にある外貨をかき集め、ガソリンなどの輸入にあてているとみられる。

国軍は7月31日、非常事態宣言を6カ月間延長した。憲法の規定ではこれが最後の延長だ。市民の間では「弾圧の犠牲になった人々を忘れず、国軍と戦い続ける」と誓約を立てる動きが広がる。

日本政府はミャンマー国軍を批判する一方で、対話を通じて民主化プロセスの回復を働きかける独自路線をとる。歴史的に国軍とのパイプも持ってきた経緯があり、国際社会でミャンマーが孤立すれば中国の影響力が強まるとの懸念もある。

民主派活動家ら4人の死刑執行を巡っては、日本を含む主要7カ国(G7)の外相らが7月28日に「強く非難する」との声明を発表した。一方、日本が単独で出した林芳正外相の同25日の談話は「深刻に憂慮する」との表現にとどめた。

ミャンマーには安倍晋三元首相の国葬を開く方針も伝えた。国軍関係者は「ミャンマーからは派遣しないが(国軍の統制下にある)駐日大使を参列させる予定だ」と述べた。

防衛省はクーデター後も防衛大学校など自衛隊の教育機関に留学生を受け入れている。岸信夫防衛相は「留学生が帰国後に市民への暴力行為に関与しないことが前提だ。適切に対応していく」と話す。

とはいえ国軍の全権掌握から既に1年半がたった。野党議員が中心の超党派議員連盟は7月27日、政府に「より強力かつ効果的な制裁・圧力を行使するよう強く求める」と訴える声明をまとめた。

日本の外交方針が事態の打開につながっているとは言い難い。米国務省は「経済的、政治的圧力をかけるよう求める」と各国に呼びかける。このままでは弾圧が改善に向かう見通しは低く、国際社会が連携して圧力を強める必要がある。

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吉田徹
同志社大学政策学部 教授
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ひとこと解説

ロシアのウクライナ侵攻で影に隠れてしまったミャンマーの民主化勢力弾圧、同様に国際社会にとって憂慮すべき事態だ。国軍は、手を緩めるばかりか、ますます強権的になっている。権威主義体制は、一度強権化すると対話路線に転じるのは難しい特徴があり、落しどころはまだみえない。記事にあるように、日本は制裁一辺倒の西欧諸国とはスタンスを異にする選択はしたが、それは「独自のパイプ」を活かすため、と当時説明された。しかしクーデタから1年以上が経って、どのようにそれが活かされているのか、判然としない。しかも、先にはドキュメンタリー作家の久保田徹さんが拘束されたばかり、開放を日本が欧米と距離をとったことの果実としたい。
2022年8月2日 12:22

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高橋徹
日本経済新聞社 編集委員・論説委員
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貴重な体験談

かつての民政移管後の2011年~13年にかけ、当時のバンコク支局でミャンマーを担当した私は、同国に30回近く出張しました。当初は報道ビザの取得が大変で、しかも入国審査で「ジャーナリストが何の用で来た!」と大勢に囲まれて詰問されるなど、緊張の連続でした。徐々に入国のハードルは下がり、現地では欧米や日本企業の広告看板が急速に増え、人々の表情は明るくなっていきます。「民主化とはこういうことか」と実感したものです。1年半前のクーデターとその後の市民弾圧で、それらをすべて奪った国軍。愚かとしか言いようがありませんが、先般の約半世紀ぶりの政治犯の死刑執行は「ついにそこまで…」という絶望感が拭えません。
2022年8月2日 7:45』