ゼロコロナと不動産問題──ダブルの試練に見舞われた中国経済の行方

ゼロコロナと不動産問題──ダブルの試練に見舞われた中国経済の行方
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『 中国経済が急失速している。7月15日に発表された2022年4~6月期の実質国内総生産(GDP)は、前年同期比で0.4%増とほぼゼロ成長に。1992年以降で2番目に低い数字となった。ゼロコロナ政策によるロックダウン(都市封鎖)や行動規制の強化に加え、不動産市場の低迷が景気の回復を妨げている。
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崩れた「勝ちパターン」

2019年12月に武漢市で発生し、世界に広がった新型コロナウイルス・パンデミックに対し、習近平政権は感染経路の徹底追跡とロックダウンで応じ、ウイルスを封じ込めたはずだった。たとえ小さなクラスターでも広範囲、時には1000万人都市を封鎖するやり方は、「動態清零(ゼロコロナ政策)」と呼ばれる。他国から見れば厳し過ぎるが、これが中国の“勝ちパターン”として定着してきた。

ところが、21年の年末から22年の初頭にかけて感染力のより強いオミクロン株が登場すると、この勝ちパターンをもってしても感染防止が追いつかなくなり、大きなクラスターが飛び火し始めた。年末年始には西安市、3月には中国のシリコンバレーと称される深セン市、そして4月には中国最大の経済都市・上海がロックダウンとなった。

その結果、厳しい隔離政策の副作用が際立ってきた。上海でいえば、1日あたりの新規感染・発症者が2万人台に至るや、2400万市民が買い物にも出られない外出禁止措置が講じられた。この措置は6月1日に解除されたが、2カ月に及んだロックダウンがもたらした影響は甚大だった。

凍りついた上海の経済活動

上海市は、このロックダウンによって、経済も社会も2年前の武漢のように凍りついた。周辺の江蘇省、浙江省の各市も道連れとなり事実上のロックダウンかそれに近い状況が続いたほか、高速道路やコンテナ港などの物流インフラが広域にわたって停止した結果、中国経済の心臓部である長江デルタ地帯が麻痺状態に陥った。

上海港は世界最大のコンテナ港であり、中国経済と世界経済をつなぐ大動脈だ。その上海港がストップした影響は、サプライチェーンを経由して世界経済にも及んだ。日本では、中国からの部品配送が攪(かく)乱され、自動車、家電製品、IT機器などの製造業が操業時間の短縮や部品調達先の調整を余儀なくされた。

こうした事態を受けて、中国政府は4月から自動車、医薬医療、電子、生活物資などの重点企業666社の物流を優先的に取り扱う「ホワイト・リスト」制度を導入するなど、「円滑な物流の促進、サプライチェーンの安定化」を図る対策を打ち出した。この結果、工場生産や物流は5月以降、徐々に回復している。

しかしながら、ロックダウンによるダメージは簡単に癒(い)えるほど浅くはなかった。
中国国家統計局が7月15日に発表した2022年4~6月期(第2四半期)のGDPは、前年同期比0.4%増という低さで、1~3月期の4.8%増から大幅に減速した。

とりわけ上海は前年同期比13.7%減、周辺の江蘇省と浙江省もそれぞれマイナス1.1%、プラス0.1%と、中国経済の心臓部である華東地域全体が落ち込んでしまった。また、上海のロックダウンほど極端ではないにしても、北京も厳重なコロナ対策が講じられた影響から2.9%のマイナス成長と、中国の中心都市は軒並み大打撃を受けた。

グローバル・サプライチェーンが被る影響

上海におけるロックダウン措置は、世界的に見れば「奇異」と呼べるほど厳格なもので、ここまで事態が深刻化したのは「人為的事象」とも言える。では、今後の世界経済にどのような影響を及ぼすだろうか。

現行の国際分業体制において、中国内外の各企業が被る影響は、業種によって異なると思われる。

例えば、電子機械等の業種においては、中国国内に部品・素材などのインダストリアルチェーンが世界に比類のない規模と稠(ちゅう)密さで形成されているため、生産拠点を海外に移するのは簡単ではない。また、自動車のように中国が世界最大級の市場になっている製品でも、市場シェアを維持するためには消費地生産が欠かせない。これらの業種も今回のロックダウンで大きな打撃を受けたが、海外移転が難しい以上、今回の“ゼロコロナ事件”で直ちに生産拠点が中国から移転するなどの影響は出ないだろう。

一方で、中国国内での生産が必須ではなく、条件次第では他国での事業展開も検討可能な業種(例えば、ハイテク製品でも最終組立だけの工程など)においては、生産コストの急速な上昇、人手不足などに加えて、経済安全保障意識の高まりなどから、すでに生産拠点を海外に移転する動きが起きている。これらの業種にとっては、今回の出来事で、中国での事業継続に対するマイナス評点がまた一つ増えたと考えられる。実際、ロックダウン解除後、中国を離れる外国人が増加しているという。

中国政府は今も「動態清零(ゼロ・コロナ政策)を堅持する」と再三表明しているが、一方で今回甚大な代償を払ったことから、同様の混乱を繰り返さないように努めるはずだ。それでも再発するようなことがあれば、中国での事業展開が必須とは言えない業種においては、投資環境に対するマイナス評価が閾(しきい)値を超えて中国からの撤退に拍車をかける恐れがある。

もう一つの疾患、不動産問題

2022年4~6月期の中国経済が大きく落ち込んだ原因は、上海ロックダウンばかりではない。昨年後半から続く不動産不況が中国経済全体に深刻な影響を及ぼしている。人間の健康にたとえると、ゼロコロナ政策による経済の落ち込みが「急性疾患」とするなら、不動産市場が抱える問題は「慢性疾患」と言える。

中国は、コロナ感染爆発で大きく落ち込んだ経済を回復させるために、20年4~6月期から財政・金融を総動員した景気対策を打ち出した。このため同年夏には不動産バブルが再燃。憂慮した政府は、不動産デベロッパーに対する融資を厳しく引き締める措置を開始した。ところが、この引き締め措置もまた、上海ロックダウンと似て度を越した厳しさであり、そのせいで21年後半には不動産市場全体が厳しい不況に陥ってしまった。

事態の深刻さに気付いた政府は、同年暮れ以降、金融引き締めの行き過ぎを是正し、地方政府にも住宅ローンの条件緩和を許すなど不動産市場のテコ入れを図っている。しかし、厳し過ぎた引き締めの後遺症は重かった。

22年上半期の住宅販売は、面積ベースで対前年同期比26.6%減、金額ベースでは31.8%減。新規着工面積は35.4%減、土地仕入れは48.3%減と惨憺(さんたん)たるもの。不動産は中国の経済成長の4分の1を稼ぐと言われてきただけに、この落ち込みの影響は大きい。
気がかりな「負の連鎖」

さらに深刻なのは、この不動産不況から負の連鎖反応が2方面に広がっていることだ。

第一は、土地払い下げによる地方政府の収入が大きく落ち込んでいること。地方政府の全歳入の3割を占める土地払い下げ収入は、上半期に31.4%も落ち込んだ。加えて、今は景気対策のために、歳入面では付加価値税の大幅減税、歳出面では景気浮揚のための公共工事を増発している最中とあって、地方政府の財政難はいよいよ深刻化している。22年後半には景気浮揚を図らなければならないというのに、こうした地方財政難は大きな懸念材料だ。

第二は、デベロッパーの資金繰りが悪化して、販売済みマンションの工事が中断していることだ。これに不安を感じた購入者たちが、マンション購入のために組んだ住宅ローンの返済を集団で拒む動きが全国に広がっている。

本稿執筆時点で、ローン不払いが確認された物件は全国で320件に上っており、今後さらに増加しそうだ。そうなると不安心理がさらに広がり、不動産市場がますます冷え込むばかりでなく、銀行が抱えるローン債権が不良債権に転化する恐れも出てくる。
中国不動産バブルは崩壊するのか?

これまで中国政府は経済成長のために安直な“不動産頼み”を続け、不動産バブルに有効な対策を講じてこなかった。その結果、不動産価格が非常識なほど高値となり、「持てる者と持たざる者」の資産格差が米国並みに広がってしまった。

一方、中国家庭の持家比率は今や9割を超えている。各家庭の資産の3分の2が不動産という実態から考えると、不動産価格が大幅に値下がりすれば、国民が大きな不満を持つのは必至だ。だから中国政府はこうした事態を何としても防ごうとするだろうし、政府が持つ強力な権限と財力から見て、中国で不動産バブルの崩壊はまず起きないと考えられてきた。

ところが、不安材料が徐々に増えているのも事実だ。特に大手デベロッパーの破綻や上述したローン支払い拒否の原因となっている購入マンション引き渡し問題に対して、今後も明確な対策を打ち出せないままだと、中国不動産市場はさらに冷え込み、不安定化する。財政難に苦しむ地方政府は、これまでのように機動的に対策を打つことができるだろうか。
2022年後半の中国経済の行方

公約に掲げていた通年で5.5%の経済成長は、達成が極めて難しくなった。国民の悲観心理も強まる中、不動産市場の回復も消費の力強い回復も期待薄である。ウクライナ危機の影響も出ている。今後の世界経済がインフレや利上げで減速することを考えると、今年上半期好調だった輸出に頼ることもできない。

だが、今年秋には習近平主席の3選を決める第20回党大会が控えている。そうした中で経済成長率が2~3%まで落ちるような事態は何としても避けたいだろう。だとすれば、残るは財政出動しかない。中国では今、大幅な財政拡大への期待の声が高まる一方で、「もしそうすれば、過剰債務問題など中長期的な問題がいっそう深刻化する」との懸念の声も出ている。

どの道を通っても「あちら立てればこちら立たず」──間もなく3期目を迎える習近平政権の前途には茨(いばら)の道が続いている。

バナー写真:北京市内に林立する高層マンション群。中国では不動産開発の行き詰まりで未完成のまま放置されたり、入居者が集まらずに廃れるマンション群が出現し、社会問題化している AFP=時事 』