米国、「景気後退」巡り論争過熱 判定に平均7カ月

米国、「景気後退」巡り論争過熱 判定に平均7カ月
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『【ワシントン=高見浩輔、ニューヨーク=斉藤雄太】2022年1~6月にかけて2四半期連続のマイナス成長に陥った米国が、景気後退に入ったかどうか論争が起きている。政策失敗の烙印(らくいん)を恐れるバイデン米政権が、躍起になって否定しているためだ。景気後退入りの判定にかかる期間は過去の平均で約7カ月。11月に中間選挙を控え、議論は過熱している。

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28日公表の4~6月期の米国内総生産(GDP、速報値)は、実質成長率が2四半期連続でマイナスになった。2期連続のマイナス成長は国際的にテクニカルリセッションと呼ばれ、機械的には景気後退とみなされる。1949年以降に10回起きたが、後日すべて正式に景気後退と認定された。例外となれば終戦後の47年以来、75年ぶりとなる。2期連続のマイナス成長がない景気後退は60年と01年の2回しか起きていない。

「3カ月で110万人も雇用が増えている」「経済学者らが定義する景気後退ではない」。GDPが公表された28日の午後、イエレン米財務長官は記者会見で強調した。「責任逃れの言葉遊びだ」。野党・共和党のテッド・クルーズ上院議員はツイッターでこう糾弾した。

米国で景気の拡大・後退の転換点を判定するのは民間団体の全米経済研究所(NBER)だ。様々な経済指標が高水準に達し、その後に落ち込んだ場合はピークの月を景気の「山」、低迷していた経済指標が持続的に持ち直した場合は大底だった月を「谷」と事後的に判定している。山から谷に向かう期間を、経済活動が縮小した景気後退期(リセッション)とみなす。

「リセッション」 8人の有力学者が認定

具体的には8人の有力学者で構成する景気循環の判定委員会が協議して景気の山谷を決める。スタンフォード大のロバート・ホール教授が委員長で、元米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長でカリフォルニア大バークレー校のクリスティーナ・ローマー教授らが名を連ねる。かつては米連邦準備理事会(FRB)議長に就任する前のベン・バーナンキ氏も委員を務めた。

参照するのは物価変動の影響を除いた実質ベースの個人所得や個人消費支出、非農業部門の就業者数、鉱工業生産などだ。中でも特に重視されるのが雇用情勢とされる。イエレン氏の主張はこの点を踏まえたものだ。米経済は新型コロナウイルス禍を背景にしたベビーブーマーの早期退職などで人手不足が深刻だ。供給制約が生み出した歴史的な低失業率を景気循環のなかでどう位置づけるかが鍵を握る。

「GDPはノイズの多い指標だ」。米財務省はGDP発表前の25日にこんな論評まで出した。1~3月期にプラス成長だった実質国内総所得(GDI)と乖離(かいり)が生まれているのがおかしいという。GDPは自動車部品のような「中間財」の生産を反映していない点に問題があったと結論づけた。

強い雇用、景気後退にそぐわず

政権側でなくても、今回が景気後退に当たらないという指摘は多い。「すでに不況かといえば、ほぼ間違いなく違う」。PNCフィナンシャル・サービシズのガス・ファウチャー氏はこう主張する。雇用の拡大が続くことが最大の理由で「非常に強い労働市場を勘案すれば年内に景気後退に陥る可能性は低い」とみる。JPモルガン・チェースのマイケル・フェローリ氏も「NBERが注目する指標のなかで、雇用の伸びは景気後退(の判断)と最も相いれないものだ」と指摘する。

焦点はNBERが結論を出す時期だ。コロナ禍直前の20年2月が景気の「山」だという判断は4カ月で公表されたが、07年12月からリーマン危機にかけて景気後退入りしたという判断は12カ月かかった。80年以降の6つの「山」は平均すると7カ月で結論に至っている。

仮に22年1~3月期のどこかが「山」になれば、判定は11月の中間選挙前になる可能性もある。「景気後退ではない」と主張するバイデン政権には逆風だ。景気後退の認定は、野党が政権・与党を攻撃する材料にして政治的な問題になりやすく、市場の思惑も招きやすい。NBERの委員会は拙速な判断は避けようとする傾向にあり、今回の判定は一段と遅くなる可能性もある。結論の出ない論争はさらに長引きそうだ。

判定前に深刻な不況入りシナリオも

浮上するのは、1~6月が景気後退だったかどうか結論が出る前に米経済が深刻な不況に陥るシナリオだ。米債券運用大手ピムコのティファニー・ワイルディング氏は2期連続でマイナスになった実質成長率の「質」の悪化に着目する。

住宅販売など経済活動の一部は鈍化が鮮明になっている=AP

需要の強さに伴う輸入の急増など特殊要因が招いた1~3月期のマイナス成長と異なり、「4~6月期は根本的な経済の勢いが著しく鈍った」と指摘。自動車などの耐久消費財や設備投資、住宅投資といった金利上昇に敏感な分野が軒並み落ち込んだことを挙げ「景気後退入りが近づいている」と警鐘を鳴らす。

現状を景気後退と呼ぶかどうかよりも、インフレが高止まりしたまま迎える経済減速にどう対応するかを議論すべき時期にさしかかっている。

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