中国人民解放軍に募る焦燥 共産党大会前に「手柄争い」

中国人民解放軍に募る焦燥 共産党大会前に「手柄争い」
迫る中国共産党大会(4)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM018JA0R00C22A6000000/

『7月8日、中国人民解放軍機が台湾海峡の停戦ライン「中間線」を越えて台湾側に侵入した。台湾軍の地対空ミサイルシステムが異常を察知し、偵察機がただちに現場へ向かった。

中国軍が台湾への圧力を強めている。2022年版防衛白書によると、中国の台湾も射程に入れる中距離・準中距離弾道ミサイルの保有数は21年に278基と前年より24基増えた。弾頭部分を極超音速滑空体にした新型ミサイルも含まれる。

米中央情報局(CIA)長官のバーンズは5月、ワシントン市内で開かれた英紙フィナンシャル・タイムズ主催の会合に出席し、ウクライナ侵攻でのロシアの苦戦を目の当たりにした総書記の習近平(シー・ジンピン)が「動揺している印象を受ける」と指摘した。習指導部の台湾統一計画が遠のく可能性にも言及した。

米国はハイテク兵器を売却し、台湾の「軍事要塞化」を進める。要人の訪問も増やし米台の結束を深めようとしている。

5月、1人の中国軍人を糾弾する文書が中国共産党内で出回った。名指しされたのは階級最高位の上将で、国防大学政治委員を務めた劉亜洲だ。

「政治的投降の思考の軌跡」と題する文書は、劉がかつて米国を「唯一無二の超大国」と評価し、台湾の武力統一に反対したことを責め立てた。「必ず批判を加え、粛清すべきだ」と結んだ。著者は退役軍人だ。

習と劉はかつて親しい間柄で知られた。なのに非難文書が出回るのはなぜか。内情に詳しい関係者は「台湾問題の解決が遠のきかねない状況に、軍内で不満が募っている」と話す。

軍のいらだちを示す動きはあちこちで起きている。5月に南シナ海上空でオーストラリア軍の哨戒機の前を中国軍の「殲16」が横切り飛行を妨害した。6月には同海上で米軍の輸送機に中国の「スホイ30」が異常接近した。朝鮮半島の近くでカナダ軍の哨戒機が中国軍機から威嚇される事態も起きた。

安全保障を担う日本政府関係者は「このタイミングで軍事的緊張を高めることは必ずしも最高指導部の意向と一致しない。党と軍の人事を決める党大会が迫り、軍が手柄争いをしているのではないか」と分析する。

習政権の3期目をにらんだ思惑が交錯するなか、党幹部や長老らが集まる夏の北戴河会議が始まる。(敬称略)

中国総局の桃井裕理、川手伊織、多部田俊輔、羽田野主が担当しました。

【ルポ迫真「迫る中国共産党大会」記事一覧】

・習近平氏「刃を内にむけよ」 3期目へ異分子をけん制
・中国「対米休戦を急げ」 景気浮揚へ制裁関税撤廃狙う
・ジャック・マー氏、つかの間の安息 ネット統制に恭順

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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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ひとこと解説

ロシアの対ウクライナ軍事作戦の長期化を見て、中国の習近平国家主席は憂慮しているだろう。武器を含むロシアへの積極的支援は見送っているようであり、自国に火の粉が飛んでくるのを回避したい様子がうかがえる。一方で、「一つの中国」原則は絶対に譲れない一線。米国が台湾に武器を売却するなど肩入れしている状況は座視し得ず、厳しいコメントが中国から出ている。そうした中、記事によれば、中国人民解放軍の一部は指導部の舵取りに不満を抱いているようであり、独断専行的な行動に出ているという。以前に北朝鮮の軍部隊についても同様の話が出ていたが、現場の跳ね上がり的な行動は、不測の事態につながりかねないリスク要因である。
2022年7月29日 7:42 (2022年7月29日 7:43更新) 』