アジア最大REITも香港離れ リンクリート、投資分散急ぐ

アジア最大REITも香港離れ リンクリート、投資分散急ぐ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM01ARL0R00C22A6000000/

『【香港=木原雄士】アジア最大の不動産投資信託(REIT)、香港の領展房地産投資信託基金(リンクリート)が投資先の分散を急ぐ。中国本土やオーストラリアで資産取得を重ねており、ビジネスハブとして香港の魅力が低下するなか、投資先の香港比率を足元の75%から2025年に60%台に下げる。同社の戦略転換によって、香港以外で優良物件の獲得をめぐる競争が激しくなりそうだ。

中国本土や豪州にシフト

リンクは5月、中国の浙江省嘉興市と江蘇省常熟市にある3つの物流施設の取得を決めた。投資額は9億4700万元(約190億円)。21年10月にも上海周辺と並ぶ中国の物流ハブである広東省の2つの物流施設に投資したばかりだ。

同社の王国龍・最高経営責任者(CEO)は「電子商取引(EC)で拡大する物流産業の力強い成長を取り込める」と説明する。この1年余りで上海や広州、豪シドニーの商業施設やオフィスに立て続けに投資した。

さらに米ブルームバーグ通信は最近、リンクがシンガポールの商業施設への投資を検討していると報じた。投資見込み額は約3900億円と、実現すれば同社にとって最大の海外案件になる。

同社は日本経済新聞の取材に「豪州や英国、シンガポール、日本などで投資機会を探っている」と回答した。円安で割安感が強まる日本の物件取得も視野に入れる。

香港市場6割占める「巨人」

リンクは時価総額が170億ドル(約2兆3000億円)に上るアジア最大の上場REIT。1社で香港のREIT市場の6割強を占める「巨人」だ。これまで香港の老朽化した商業施設を改良して賃料を上げたり、テナントを入れ替えたりする手法を強みにしていた。
リンクリートのニコラス・アレン会長は資産の多様化を進める方針を示す(6月の決算会見)

初めて香港外の投資に踏み切ったのは15年。北京の商業施設だった。22年3月末時点の運用資産の内訳は香港75%、中国本土17%、豪州や英国が8%。25年には香港を60~70%に下げ、中国本土を20~25%、その他を10~15%にする計画だ。

投資分散に動く背景には、香港に特化した成長モデルに陰りが見えてきた事情がある。

国安法と「ゼロコロナ」で地盤沈下

05年の上場以来、16年連続で増配を達成したリンクだが、当初10%を超えていた分配金の伸び率は低下傾向が鮮明だ。上場以来ほぼ右肩上がりで一時は約10倍になった投資口価格(株価)も19年の大規模デモをきっかけに低迷が続く。

リンクは既存施設の改装や店舗入れ替えが一巡し、伸びしろが限られる香港の物件を売却し、海外資産に入れ替える戦略を採る。光大証券国際の伍礼賢ストラテジストは「新型コロナウイルスの感染拡大で商業施設が打撃を受けても、オフィスでカバーするなど、資産の多様化によって一極集中リスクを回避できる」と指摘する。

香港の不動産市場を取り巻く環境は厳しい。20年の香港国家安全維持法(国安法)施行後に子育て世帯の海外移住が増え、中国式の「ゼロコロナ政策」で金融やIT(情報技術)を中心に外資系企業の香港離れが始まった。

不動産コンサルタントのコリアーズ・インターナショナルによると、22年上期の香港の不動産投資額は289億香港ドル(約5000億円)と、前年同期比15%減った。直近ピークの18年上期のわずか2割程度。不動産サービス大手CBREのまとめでは、上位「グレードA」オフィスの6月の空室率は11.9%と、03年以来最悪の水準だ。

企業イメージもリスクに

リンクが保有する小売物件の収益性を示す期待利回り(キャップレート)にも影響が出ており、香港の3.1~4.5%に対して、中国本土は4.25~4.75%。オフィスも香港の3%に対して豪州は4.4%、英国は5.19%と相対的に魅力が大きい。

さらにリンク固有の域外シフトの事情として「リンクは香港で染みついた悪い企業イメージを変えたいのだろう」(不動産関係者)という見方もある。同社は香港社会で「地産覇権(不動産支配)」の代表格として知られ、零細企業に冷たいとの印象を持たれているためだ。

地元マーケットの運営を監視する非政府組織(NGO)によると、ある地域でリンクが運営するマーケットの食品価格は他に比べて平均23%高かった。高い賃料が消費者の負担増につながっていると批判する。

別のNGOの領匯監察も19日、商業施設の転売禁止やREIT規制の強化を求める提言を発表した。習近平(シー・ジンピン)指導部は香港の民生改善を重要課題にあげており、リンクへの政治的な批判が強まるリスクもゼロではない。

中国本土も競争激しく

もっとも、中国本土では優良物件の取得をめぐる競争が激しくなっている。リンクで最高財務責任者(CFO)を務めた経験がある翟迪強・順豊房地産投資信託基金(SFリート)CEOは「ECが急速に浸透し、ここ3、4年は物流関連の不動産への関心が急速に高まっている」と話す。

リンクリートが取得した中国の物流施設(江蘇省常熟市)

SFリートは6月に主要スポンサーの中国の宅配物流大手、順豊控股(SFホールディング)から中国内陸部・湖南省長沙の大型物流施設を4億9320万元で購入した。翟氏は「多くのファンドや投資家が物流関連に参入し、優良物件の価格が上がっている」と強調する。

三井住友DSアセットマネジメントの秋山悦朗リートグループヘッドはリンクの戦略転換について「成長期から成熟期に入り、投資先の分散によって安定志向に傾いている」と指摘。ただ「分散はどのREITもやっているので、中国本土で成長機会をつかめるかが重要だ」と話す。

【関連記事】

・香港の人口2年連続減 21年末740万人、域外に流出も
・香港、ゼロコロナで人材流出 シンガポールにシフトも
・香港、ハブ機能低下の兆し 外資の「地域本部」流出 』