「一国二制度」死滅の香港が台湾へ与える影響

「一国二制度」死滅の香港が台湾へ与える影響
岡崎研究所
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/27372

『今日の香港においては、中国による人権抑圧が続いているとして、Taipei Timesの7月7日付け社説‘One country, one system’が「一国二制度」ならぬ「一国一制度」の状況を描写している。

Oleksii Liskonih / iStock / Getty Images Plus

 同社説は、かつて「一国二制度」の香港の形態が50年間続けば、それは台湾問題解決の前例になると中国は称していたが、習近平体制下において、すでに香港は「一国二制度」ではなく、「一国一制度」に変えられてしまった、と指摘する。その通りだろう。今日では、2300万人の台湾住民にとって「失われた香港」がもっていた魅力はすでに存在しないも同然と言ってよい。

 英国と中国の間で香港返還が決定したのは、1985年5月の「香港問題に関する英中共同声明」においてである。その中で「中国は香港の現実を50年間維持する」旨述べている。この英中共同声明の背景については当時、鄧小平が次のように述べていたことが知られている。(1984年10月中央顧問委員会)

 「一国二制度」というのは、中国の実際から出発して提起されたものだ。中国としては、一つは香港問題に直面し、もう一つは台湾問題に直面している。香港が中国に返還された後、50年間その形態を維持できれば、台湾問題もそれに倣って解決できるだろう。

 もはや「一国二制度」が香港において存続していないことの証として、上記Taipei Times社説が挙げた最近の実例の一つは、カソリックの元枢機卿(陳日君90歳)が「国家安全法」に反して、「外国勢力と共謀した」との理由で本年5月に逮捕されたケースである。逮捕される前に、枢機卿は「われわれは罠にかかった。香港はもはや香港ではない、中国のもう一つの都市にすぎない」と述べたという。

 また、ローマ協会の非公式な香港駐在代表のJavier氏は、2020年に「国家安全法」が科される前から、一部資料や文書を安全な場所に移しておいた、と述べている。』

『これに対し、香港返還25周年式典において、習近平は演説し、今後、長期にわたって資本主義制度や自治権を香港は維持できる、との趣旨の発言を行ったが、これは、香港で50年間、二制度を維持できると述べた鄧小平発言の実態とはその内容を大きく異にしている。
対中姿勢を変化させてきた台湾の「今」

 自由、民主主義、法の支配が定着した台湾では、中国と台湾の関係を如何に位置付けるかをめぐって、いくつかの変化を経験してきた。「特殊な国と国の関係」(李登輝総統の時期)、「一遍一国」(陳水扁総統の時期)「一つの中国、各自表述」(馬英九総統の時期)などを経て、今日の蔡英文総統時代の対中姿勢・対中政策がある。

 蔡英文の対中姿勢は、台湾はすでに主権が確立した独立国(中華民国、在台湾)であるが、敢えてそのことを強調して中国を挑発することなく、現状維持の枠組みの中で、対話を通じ問題を解決しようとしている。

 今日、2300万人の台湾人自身、中国が、一時考えたような「一国二制度」の台湾を希望する人――いわんや、中国の統治下にある「一国一制度」であることを受け入れる人――は、まずいないであろうと思われる。』