[FT]新興国に迫る債務危機 カギ握る主要な貸し手・中国

[FT]新興国に迫る債務危機 カギ握る主要な貸し手・中国
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『世界銀行がリスクについて語るときは、気をもむように曖昧な表現にしがちで、具体的な破滅の予言を口にすることはそうそうない。そのため世銀が3月、「怒濤(どとう)の債務危機」が新興国に押し寄せているというリポートを公開したことは、ちょっとした事件だった。

ザンビアは莫大なインフラ整備費用にくわえ、主要産品である銅の輸出減少がデフォルトの原因となった=ロイター

世界が相次ぐデフォルト(債務不履行)の寸前にあるということは、それほど驚くような話ではない。

長期に及んだ世界的な超低金利時代はすでに終わりを迎えていたが、そこに新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が経済成長に打撃を与えた。

さらに、ロシアのウクライナ侵攻は大きな不確実性をもたらした。これに起因する燃料・食料の価格急騰はとりわけコモディティー(商品)純輸入国を動揺させ、通貨ドルの上昇は、ドル建て債務の急激な膨張につながった。

ザンビア、スリランカはデフォルト

この問題はあくまで大きな流れとしてとらえ、無責任な途上国政府への警鐘を鳴らすような訓話にはしないことが重要だ。新興国はパンデミック以前、大挙して借り入れをしていたわけではなかった。

怒濤と表現される危機も津波のように絶え間なく押し寄せるものではない。世銀は1980年代の中南米危機や2000年代の「重債務貧困国(HIPC)」現象に匹敵するような事態にはならないとみている。

それでも、債務に脆弱な国や政策運営でミスを犯した国は確かに危機に見舞われている。西側諸国の経済制裁を受けているロシアを別にすると、アフリカ南部ザンビアとスリランカなどがすでにデフォルトした。

両国の場合、莫大なインフラ整備費用が重荷となった。また、ザンビアは主要産品である銅の輸出減少、スリランカは観光業の収入減少が打撃となった。特にサハラ砂漠以南のアフリカでは、さらに多くの国が同じ方向へ向かっている。

デフォルトの波が押し寄せる時、金融機関や国際通貨基金(IMF)のような国際機関はこうした問題を建設的かつ経済成長を犠牲にせずに解決する準備ができているのだろうか。

数十年、いや数世紀も練習を積んだ後、債権国はソブリン債(国債や政府機関債など)を再編する予測可能な合理的な手法を編み出しているはずだと思うかもしれない。

そう思っている人は国際的な資本フローが変化したことと、債権者がまとまりを欠いていることを見落としている。しかも今回は、中国という大きな新しい要因が存在する。

債権者の間で公正な負担の分担を達成するために、ソブリン債再編を規則化する試みは過去に何度もあった。1976年、国の借り入れの大部分が銀行融資だった時代に商業銀行の債権者機関「ロンドンクラブ」が立ち上げられ、80年代の中南米債務危機の最中に多用された。

だが、借り入れが資本市場へ移行した後、ロンドンクラブは本質的にあまり意義を持たなくなっている。公的な債権者の負担軽減については56年、ほかならぬデフォルトの「常習犯」であるアルゼンチンの債務危機に対処するために「パリクラブ」が創設された。

パリクラブはHIPCの債務救済措置のような危機の解決で重要な役割を担った。しかし、民間部門の債権者にも国家債務の損失処理負担を強いることでは常に苦労してきた。

IMFは20年前、民間投資家にも損失を負担させる公的な破産手続き(「国家債務再編メカニズム」)の立ち上げを果敢に試みたが、あえなく失敗した。

借り手は次第にソブリン債の契約にリストラを容易にする条項を加えるようになったが、対象の範囲と効果は不完全だ。

国家破綻は、公的な救済措置と民間債権者がからむ場合は今でも場当たり的に解決されており、競合する債権者委員会が複数存在することもある。債務危機にある国のソブリン債で稼ぐ債券投資家が訴訟を起こした場合、解決には特に時間がかかりがちだ。

欧州連合(EU)は2010年、ユーロ圏債務危機の真っただ中に民間債権者を再編に巻き込む独自の公式な枠組みを立ち上げようとした。だが、独仏首脳が打ち出した債務再編案「ドービル提案」は公的な救済プロセス全般と同様におざなりにされ、やがて廃案となった。
主要20カ国・地域(G20)は20年、パンデミックの最中に「債務措置に係る共通枠組み」を立ち上げたが、確実な結果をもたらす仕組みとしては曖昧すぎる。

西側の民間債権者も問題

このため新たなデフォルトの波が起きた場合、いつものような急ごしらえの債権者枠組みで解決されることになる。これに加え、重要な二国間債権者に台頭した中国という不確実性が加わる。

中国はパリクラブの一員ではない。同国は先進国が率いるグループへの参加には一貫して消極的だった。

中国による融資は、それぞれアプローチが異なる多様な政府機関経由で実施されており、なかには広域経済圏構想「一帯一路」のインフラ開発など、政治的な思惑が絡んでいるものもある。中国は債務減免を個別に、二国間で、しかも内密に交渉することを好む。

力を増してきた中国は取引内容の不透明さや多国間主義の原則の無視、ルールを守らないことなどをよく批判されてきた。中でも、債務危機の解決は世界貿易機関(WTO)のルール違反と並び、中国が話題にされることが多い分野だ。

多くの場合は妥当な批判だが、豊かな国も自分たちが策定した債務再編のルールを守ってきたと自慢できるわけではない。アフリカ数カ国では、中国の国家債務の保有比率が高いとされるが、西側諸国の民間債権者の保有比率のほうが高いことが多い。西側諸国はこうした民間債権者を十分に監督しているとは言えない状況だ。

難しい交渉、必至か

迫りくる新興国の債務危機の解決は、中国が関係するようになった今、今まで以上に時間がかかり、より大きな苦痛を伴うことになるだろう。今は官民双方のすべての債権者を縛る体系的な債務処理の仕組みを作る好機だ。

だが、債権問題以外の政策協議の場における中国の態度と、中国が主要債権国になる前から続く同国の協調姿勢のなさをみるに、新たな枠組みの策定は期待できないだろう。デフォルトする国は先行き、難しい交渉を覚悟しなければならない。

By Alan Beattie

(2022年7月20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)

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