[FT]イスラエル占領地のパレスチナ人、裁判20年の末退去

[FT]イスラエル占領地のパレスチナ人、裁判20年の末退去
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『ムハンマド・アユブさんにとって、灼熱(しゃくねつ)の太陽が照りつけるヒルベト・ファヘイト村は故郷だ。パレスチナ人農民のアユブさんは、これまでの46年の人生をほぼこの村で暮らし、周りを囲む荒地の斜面でヒツジやヤギ、ハトを飼いながら細々と生計を立ててきた。

マサーフェルヤッタ地区でイスラエル当局によって破壊されるパレスチナ住民の家屋(7月19日)=ロイター

だがイスラエル軍にとって、占領地ヨルダン川西岸の南端に位置するこの村は全く別の意味を持つ。数十年前から演習場にしようとしてきた約3000ヘクタールの「射撃区域918」の土地の一角なのだ。

20年にわたる法廷論争の末、イスラエルの最高裁判所は5月、軍の主張を認める判決を下した。最高裁は国民の祝日の前夜に示した判決で軍に対し、パレスチナ人の村8つを含む一帯を演習場として使い、約1200人の住民を立ち退かせることにゴーサインを出した。

この判決は、活動家や外交関係者によると過去数十年間で最大規模となる強制退去に道を開くものであり、1967年にイスラエルによる占領が始まったヨルダン川西岸に住むパレスチナ人への圧力を象徴している。強制排除の構えは国連や欧州連合(EU)の批判を呼び、アユブさんのような村人に不安な将来をもたらした。

「私たちはずっと不安に取りつかれている」とアユブさんは話す。「これからどうなるのか、彼らに追い出されるのか、私たちにはわからない。何もかもがあやふやだ」
当局は家屋を繰り返し破壊

南ヘブロン丘陵の尾根や巨岩の間を進む未舗装道路しか通じていないマサーフェルヤッタ地区に散在する村を巡る争いは、イスラエル当局が一帯を軍事封鎖区域に指定した1980年代に始まった。

イスラエル軍によると、指定は「スタッフによる作業」と「関連する様々な運営に関わる検討」、そして「当時、この地域に人は住んでいなかったという事実」を踏まえたものだという。

だが住民らは、何世代にもわたってこの地で暮らし、多くの人が牧畜で生計を立てきたと話す。厳しい気候をしのぐために、洞窟を掘って住む人もいるという。

イスラエルは1999年、マサーフェルヤッタ地区のパレスチナ住民約700人に立ち退き命令を出した。住民側は訴訟を起こした後、最終判決が出るまで帰還を認められたが、新しい構造物を造ることは事実上禁じられた。

その後の20年間は法的に中ぶらりんの状態となった。弁護団が立ち退き命令の合法性について争う一方、イスラエル当局は無許可で造られた違法建築物であるとして家屋や貯水槽などの取り壊しを繰り返した。

アユブさんも家を壊された一人だ。最初は1月、さらに建て直した家も5月に壊された。

5月の取り壊しの後、アユブさんは生まれてから29歳の時まで住んでいた洞窟に妻と6人の子どもを連れて移ろうかと考えた。この家屋の取り壊しは、最高裁の最終判決後に行われたいくつかの撤去の一つだった。
住民側は再審理に望み

最高裁は、パレスチナ住民側は演習場内の土地の所有権を持つことも、軍が演習場に指定する前にこの土地に定住していたことも証明できなかったとした。

また、イスラエル軍は封鎖地区に指定して無許可の立ち入りを禁じる権利を有し、強制移住を禁じる国際法はこの係争に適用されないとの判断も示した。

マサーフェルヤッタ地区住民の弁護団は法的論理に「誤りがある」と訴え、最後の手段として最高裁に再審理を願い出て逆転判決に望みを託した。

イスラエル公民権協会のロニ・ペリ氏は「ここは占領地であり、イスラエル軍は土地を(訓練のような)一般的な目的で使用することはできない。マサーフェルヤッタの村々はイスラエル軍の演習場にはなり得ない」と言う。

住民側は、判決は口実にすぎないとみている。「地域のこの一帯にパレスチナ人はもういないということにするための口実であることは極めて明白だ」とマサーフェルヤッタ地区で地元の評議会を率いるニダル・アブユーネス氏は話す。

住民側弁護団は法廷闘争において、1981年に当時のシャロン農業相が「アラブ農民が丘陵地から拡大」していることを踏まえ、イスラエル軍の訓練のために南ヘブロン丘陵の土地をもっと割り当てるよう提案した会合の議事録を提出した。

最高裁判決を受けて、この問題への国際的な関心が高まった。7月にはEUなどの外交官がマサーフェルヤッタを訪れて住民と面会した。住民はハレト・アサバア村で、イスラエル軍が最近行った実弾演習の流れ弾で破損したという家屋を見せた。

イスラエル軍は「初期調査において、演習中に使用された火器と構造物の破損部分の間に何の関係も見いだされなかった」が、今後の訓練には追加的な安全策が講じられるとしている。

マサーフェルヤッタ地区の住民の間には、国際的な関心の高まりによって立ち退きは回避されるかもしれないと期待する向きもある。だが、11人の子を持つ母で、ジンバ村に家屋と洞窟の両方を持つニジャ・ジャバリーンさんのように、さらに抵抗を続けようとしている住民もいる。

「もしも(イスラエル当局が)取り壊しに来たら洞窟に入り、壊せば私たちが生き埋めになるようにする。ここは私たちの祖父と祖母たちの土地だ。ここは彼らの土地であり、私たちは出て行かない」とジャバリーンさんは言う。「私たちの全財産、私たちが持っているものは全てここにある」

By James Shotter

(2022年7月24日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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