習近平氏「刃を内にむけよ」 3期目へ異分子をけん制

習近平氏「刃を内にむけよ」 3期目へ異分子をけん制
迫る中国共産党大会(1)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM14D530U2A710C2000000/

『7月上旬、中国で5年間忘れ去られていた大富豪の名が突然、話題となった。2017年に香港で中国の公安と思われる一団に拉致され、消息を絶っていた投資家の肖建華だ。カナダ国籍も持つ肖に関し在中国カナダ大使館が「上海で裁判が始まった」と公表した。

肖は中国の元国家主席、江沢民(ジアン・ズォーミン)の「白手袋」(マネーロンダリング役)として知られ、江側近の元国家副主席、曽慶紅とも近い。中国共産党草創期の幹部らの子孫で現在の特権階級である「紅二代」の資産運用も幅広く手掛けていた。

中国の国家主席である習近平(シー・ジンピン)が異例の党総書記3期目を狙う5年に1度の中国共産党大会が秋に迫る。党長老や幹部が河北省・北戴河の避暑地に集まり、最高幹部人事や重要政策を話し合う例年の「北戴河会議」も始まる。

5年も消息不明だった肖の汚職裁判がこのタイミングで行われる背景について、ある共産党員は「習の権力拡大をはばもうとする紅二代への警告としか思えない」と声を潜める。
12年に党総書記に就いた習は自らの1強体制を固めるため経済・社会への統制を強めてきた。その一方、習体制の10年で中国の国内総生産(GDP)は約2倍となり、米国に次ぐまでになった。

経済成長を裏付けに盤石に見えた習の3期目に、不協和音が生まれ始めた。新型コロナウイルスを巡る「ゼロコロナ対策」で経済は打撃を受け、4~6月の実質GDPは前年同期比0.4%増にとどまった。多くの庶民が仕事を失い、政権への不満もくすぶる。

格差是正を掲げた「習路線」の影は薄くなった。昨年は毎日のように国営メディアに登場した「共同富裕」という言葉は今やほとんど聞かれない。

アリババ集団や騰訊控股(テンセント)など巨大IT企業への締め付けも弱めたかにみえる。5月中旬に開かれた会議で副首相、劉鶴(リュウ・ハァ)は「プラットフォーマーの経済、民営企業の健全な発展、デジタル企業の国内外の資本市場での上場を支持する」と述べた。

党大会を目前にして習に生まれた「隙」をみて、習政権下で不満を抱えていた勢力がうごめき始めた。習の3期目はほぼ確実としても、首相や最高指導部の党中央政治局常務委員(チャイナセブン)など他の人事は定まっていないためだ。

「アンチ習」の象徴として注目を集めているのが首相の李克強(リー・クォーチャン)だ。

「第2四半期は経済成長を保ち、人々の失業率を下げる」。5月、李は国務院(政府)主催の全国テレビ電話会議で、こう呼びかけた。注目されたのはその規模だ。10万人超の政府職員が働く全国2800以上の地方政府を対象にした中国でも例を見ない大会議となった。李は景気回復を訴える一方、習政権が重視するはずのゼロコロナには触れなかった。

国務院や経済運営の統括を任されながら、習政権下ではないがしろにされてきた李のリーダーシップが、経済失速を機ににわかに復活した形だ。習をけん制したい勢力は李の能力をもてはやし、習の「失点」を際立たせる。

習も譲歩しているだけではない。

「反腐敗闘争は決して負けることのできない重大な政治闘争だ。刃を内にむけよ」。習は6月に開いた党中央政治局の学習会でこう訴えた。

反腐敗闘争は習が数多くの政敵を葬ってきた政治闘争の手段だ。その再開を告げた習の言葉を受け、党中央規律検査委員会は「徹底的に反腐敗闘争に取り組む」と宣言した。党中央弁公庁も新たな規定を出した。党や政府幹部の家族らによるビジネスに制限と報告義務を設け、違反した場合は「相当の処分」にするというものだ。

紅二代の一族は党や政府の高官を輩出し、コネや財産を生かして様々なビジネスを展開している。政権のさじ加減次第でだれもが容易に処分対象になりうる。「逆らえば許さない」。党長老や幹部らへのこんなメッセージがにじむ。(敬称略)

習氏が党内の異論を封じ込めれば党大会で完全な1強体制が固まる。毛沢東時代とも重なる社会主義色の濃い政権運営が加速し、その影響は世界に及ぶ。揺らぐ中国の経済や社会の姿を追う。

北戴河会議で議論される人事や習近平3期目政権の行方について桃井裕理中国総局長と興梠一郎・神田外語大教授が議論するライブ配信イベントを開きます。本日7月26日(火)18時~19時00分。お申し込みはこちらです。https://www.nikkei.com/live/event/EVT220701604

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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ひとこと解説

専制政治の一番困るのは政権交代のとき。選挙で選ばれないため、必ず犠牲者が出る。今までの10年間は今年の秋のために、準備してきたはずだが、あまりにも目立った成果が出なかった。本人も不安で仕方がないのではないか。そして、独裁者は往々にして信用のわなに陥る。それは金融と関係のない話。すなわち、周りの取り巻きは一生懸命迎合してくれるのだが、誰が信用できるか、あるいは信用できないか、疑心暗鬼になる。人と人の関係を制度でバックアップしていないから、幹部同士の信用・信頼が成り立たない。これからの中国政治は悲劇か喜劇かわからないが、幕開けされる
2022年7月26日 8:26 』