フィリピンのマルコス大統領「領有権譲らず」 中国念頭

フィリピンのマルコス大統領「領有権譲らず」 中国念頭
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM222B50S2A720C2000000/

『【マニラ=志賀優一】フィリピンのマルコス大統領が25日、就任後初の施政方針演説に臨んだ。南シナ海で中国などと対立する領有権について一歩も引かない姿勢を強調した。ドゥテルテ前政権が貫いた対中融和姿勢を修正する発言となった。

6月30日に就任したマルコス氏は、選挙戦中も具体的な政策をほとんど語ることはなかった。大統領候補者による討論会にも欠席を続けたため、施政方針演説での発言に注目が集まっていた。

外交政策では「フィリピンの領有権は、外国の圧力によって寸分たりとも譲るつもりはない」と力説し、南シナ海における自国の領有権を重視する姿勢を打ち出した。具体的な国名には言及しなかったが、南シナ海で海洋進出を続ける中国を意識したものとみられる。
国連海洋法条約に基づくオランダ・ハーグの仲裁裁判所が2016年7月に下した、中国の南シナ海における領有権の主張を否定する判決をマルコス氏は重視する姿勢を打ち出していた。

演説を通じて明らかになったのは、前政権から対中姿勢を修正していることだ。ドゥテルテ前大統領は21年の同氏にとって最後の施政方針演説で、仲裁裁判決について「本当の意味で仲裁というものはない」と強調。領有権問題で対立しながらも経済協力を優先して対中融和姿勢を打ち出したドゥテルテ氏の路線を変更している。

マルコス氏は「フィリピンは今後も全ての国に対して友人であり続ける。誰の敵でもない」とバランス外交を進める意欲を示した。一方で「我々が揺らぐことはない。フィリピンの国益を優先し、独立した外交政策を貫く」と話した。前政権は同盟国であり伝統的に協力関係を築いてきた米国と距離を置いたが、マルコス政権では連携を強化する可能性がある。

背景にあるのは、ロシアによるウクライナ侵攻の影響がアジアにも波及することへの警戒感だ。南シナ海で中国が海洋進出を継続し周辺国が反発しているうえ、台湾との統一を目指す中国のさらなる強硬姿勢も懸念する。

安全保障面で米国との関係を強化すれば、中国へけん制することにつながる。

反中の国民感情へ配慮した面もある。6月下旬に調査会社パルスアジアにより実施された世論調査で、仲裁裁の判決通りに西フィリピン海(南シナ海)の権利を主張すべきだと回答した比率は89%に上った。

排他的経済水域の領有権や海洋資源を守るため軍事能力向上に資金を投じるべきだと回答した割合も90%に達した。領有権を重視する姿勢を打ち出すことで、国民や親米派が多いとされる外務省や国防省の幹部の支持を取り込みたいマルコス氏の狙いもありそうだ。

演説ではエネルギー需要に対応するため「新たな発電所を建設する必要がある」と述べた。太陽光発電や風力発電だけでなく「原子力発電所の建設に向けた戦略も見直す」と語った。新型コロナウイルス対策について「もうロックダウン(都市封鎖)をすることはない」と話した。疫病管理などの対策を手がける組織の創設などを通じて体制を強化するとしている。

演説の実施にあたっては近年では最大規模の警備が敷かれた。警官ら約2万2000人が動員され、交通規制も講じられた。マルコス家に対しては、元大統領の父親の時代に敷かれた独裁体制や人権侵害に抗議・反対する団体も多い。

演説とは直接関係はないものの、24日にはマニラにあるアテネオ・デ・マニラ大学で銃撃事件が起きたこともあり、緊張感が高まる中で厳重な警戒態勢となった。』