尹錫悦の「従中」に怒り出した米国 「合同演習」に続く踏み絵は「半導体同盟」

尹錫悦の「従中」に怒り出した米国 「合同演習」に続く踏み絵は「半導体同盟」
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/07221701/?all=1

『「親米」を唱えながら「従中」を続ける尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権。米国で非難の声があがり始めた。日本にも「甘い顔をするな」と米国からお達しが来るはずと、韓国観察者の鈴置高史氏は読む。

「3NO」を破棄せよ

鈴置:朝鮮半島専門家のV・チャ(Victor Cha)ジョージタウン大学教授が朝鮮日報への寄稿を通じ「尹錫悦政権は、文在寅(ムン・ジェイン)政権の従中路線を維持している」と指摘しました。チャ教授は米国の朝鮮半島問題の権威。米国の韓国観や、対韓政策に大きな影響力を持ちます。

 朝鮮日報への寄稿「A Welcome Return to Trilateralism」(7月11日、英語版)は、6月29日のマドリードでの日米韓首脳会談から書き起こします。

 5年ぶりに開かれたことは評価するものの、共同声明も発表されないなど内容がなかったと落胆してみせました。そのうえで、北朝鮮の核開発に対する3カ国の協力を情報共有にとどめず、軍事演習まで格上げせよと説いたのです。以下です。

・the three allies should consider more cooperation on missile defense. This should include not just information sharing, but also active exercising that tracks and intercepts a simulated North Korean missile.

 まさに、ここが韓国に立ち位置を問うポイントです。岸田文雄首相は「北朝鮮の核実験には、共同訓練を含め日米韓で対応したい」と3カ国合同軍事演習を提唱しました。米国の意向を受けての発言だったでしょう。

 ところが合同軍事演習には韓国が及び腰。そこで共同声明に盛り込むべきほどの合意もできず、それなしの首脳会談となったのです。

 韓国が3カ国の軍事演習を嫌がるのは、中国と結んだ「3NO」に抵触するからです(「『米国回帰』を掲げながら『従中』を続ける尹錫悦 日米韓の共同軍事訓練を拒否」参照)。

 そこでチャ教授は「文在寅政権が中国と約束した『韓米日の3カ国軍事協力への不参加』は無効だと尹錫悦政権は宣言せよ」と厳しく迫ったのです。

・the Yoon government must declare invalid the Moon Jae-in government’s promise to China not to engage in missile defense cooperation with Japan and the U.S. trilaterally.

「中国に立ち向かう」は口だけ

――「尹錫悦政権の弱腰」を米国が叱った……。

鈴置:その通りです。尹錫悦氏は大統領選挙戦中はTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)の追加配備などを公約、「中国に立ち向かう」姿勢を打ち出していました。

 ところが政権を取った後は、中国に脅され腰くだけに(『韓国民主政治の自壊』第3章第1節「猿芝居外交のあげく四面楚歌」参照)。THAADの追加配備の公約もどこかに行ってしまいました。

 在韓米軍基地に配備済のTHAADの運営の正常化も、実現するかは怪しい。文在寅政権は環境影響評価が終わっていないことを理由に、自称・市民団体の基地封鎖を正当化してきました。

 基地に勤務する米兵の人権問題を掲げ、米国防総省は韓国に重ねて改善を要求。これを受け、尹錫悦政権は前政権が放棄していた環境影響評価の実施を表明しました。

 しかし、自称・市民団体の反対を押し切ってまで「環境に悪影響なし」との結論を出すほどに腰は据わっていないと韓国では見られています。中国からの叱責も怖いのでしょう。基地への出入りを正常化するメドは依然、立っていないのです。

――「米国回帰」は口だけなのですね。

鈴置:口だけです。前政権からの「従中」はいっこうに変わらない。韓国人の中国に対する恐怖心には米国人や日本人の想像を絶するものがあります。

 陰で中国の悪口を言っていても、いざとなると中国の言いなりになる――これが韓国人です。「3NO」を破って日米韓の合同軍事演習を実施するなど、とてもできません。

 米国のアジア専門家も「尹錫悦政権が本当に米国側に回帰できるのか」とかたずを飲んで見守ってきた。次第に「やはり、従中のまま」ということが分かってきて、米国を代表してチャ教授が韓国紙を通じ「ちゃんと戻って来い」と警告を発した構図です。

 もちろんチャ教授の寄稿は韓国語版にも「最終的には韓米日『3カ国協力』に向かうべきだ」(7月9日)の見出しで載っています。』

『「お坊ちゃまで視野の狭い安倍」

――その警告は韓国人の耳に届いたでしょうか?

鈴置:今のところ、届いていないようです。というか、耳をふさいでいると言った方が正確かもしれません。韓国紙はまだ、「尹錫悦政権は前政権の従中政策を軌道修正した」という虚構に沿った記事を載せ続けています。

 チャ教授の寄稿が韓国語版に載った4日後の7月13日、同じ朝鮮日報で鮮于鉦(ソヌ・ジョン)論説委員が「【ソヌ・ジョン・コラム】『イニ』と『晋ちゃん』がドブに放り投げた韓日現代史」(韓国語版)を書きました。

「イニ」「晋ちゃん」はそれぞれ文在寅氏と安倍晋三氏の愛称で、鮮于鉦氏は「幼稚な外交を展開した2人」を揶揄する言葉として使っています。

 日韓関係は共産主義に対抗するため両国の保守が協力して維持してきた。しかるに、「お坊ちゃまで視野の狭い安倍」が左派の文在寅と一緒になって関係を破壊した、との分析です。

 もっとも、この現実認識は根本的におかしい。韓国は朴槿恵(パク・クネ)政権(2013年2月―2017年3月)と、その後の文在寅政権(2017年5月―2022年5月)下で、離米従中路線を突っ走ってきました(『米韓同盟消滅』第2章「『外交自爆』は朴槿恵政権から始まった」参照)。

 第2次安倍政権(2012年12月―2020年9月)当時の韓国は日本が手を携える相手ではなくなっていたのです。鮮于鉦氏の言う「日韓保守の連帯」など、そもそも期待しようがありませんでした。

 鮮于鉦氏の主張――文在寅・安倍悪玉論は、要は尹錫悦善玉論なのです。「文在寅と安倍が壊した日韓関係を尹錫悦が修復に走る」との構図で書いているのですから。

 実際、サブタイトルに「文在寅と安倍が残した難題を尹錫悦政権が解き始めた」とあります。つまるところ、チャ教授の尹錫悦政権批判への反論なのです。

 現実を見れば「日米韓」を壊しているのは「文在寅と尹錫悦」なのですが……。左派と保守の違いはあっても、中国に従順なこの2人こそが、3カ国の合同軍事演習への障害なのです。

日本と同等のスワップが欲しい

――なぜ、韓国人は事実に基づかないことを言い続けるのでしょうか。

鈴置:彼らは自分に都合のいい自画像を、他人も信じるべきだと思い込んでいるところがあります。韓国は嘘でも言い続ければ本当になる社会だからでしょう。
 
 韓国語を学ぶ外国人がほとんどいない時代が長く続いたこともあると思います。韓国は「外」から評価されることが極端に少ない国だったのです。

「韓国が米国側に戻った」との認識を前提に「だから、日本と同等の為替スワップを与えられて当然だ」という主張も登場しました。

 韓国経済新聞にオ・ジョングン韓国金融ICT融合学会会長が寄稿した「イエレンの訪韓時に常時スワップを要求しよう」(7月15日、韓国語版)です。イエレン(Janet Yellen)財務長官は7月19日に韓国を訪れています。ポイントを要約します。

・韓国はIPEF(インド太平洋経済枠組み)に参加し、グローバル安保供給網構想での1つの軸として米国の重要な経済安保同盟国であることを示した。米国が推進する対中包囲網戦略で、日本と並び韓国は東アジアの重要な拠点である。
・米国は日本とは無制限の為替スワップを常設で結んでいる。経済が安定してこそ、友邦の役割を果たせる。重要な友好国として日本と同等の常時スワップを要求せねばならない。

 米利上げに伴い、韓国では資本逃避が始まっています。韓国銀行もウォン金利の引き上げで対応していますが、この副作用は大きい。

 不動産バブルの結果、韓国の家計債務は膨らんでいる。ここに急激な利上げ。借金が返せなくなれば金融システムが痛みます。これはこれで新たな資本逃避の原因になるのです。利上げしても地獄、上げなくても地獄――です。

 韓銀はウォン防衛に必死ですが、それにも限界がある。ウォン買いにはドルが必要ですが、現在の外貨準備で足りるかは怪しい。そこで韓国では米国か日本とスワップを結んでもらうしか手がない、との議論が盛んになっています。』

『「イエレン頼み」は空振り

――結局、イエレン訪韓時にスワップは与えられたのでしょうか。

鈴置:与えられませんでした。米国は日本のように甘い国ではありません。依然として「従中」を続ける韓国に命綱を投げる――スワップを与えたりはしないでしょう。

 もしスワップを付ければ、韓国は「この程度の従中は許される」と米国を舐め、ますます中国の顔色を見るようになるのは確実です。

 2011年10月、日本の民主党政権がスワップを結んだら、韓国は途端に掌を返しました。李明博(イ・ミョンバク)大統領が竹島に上陸するは、「日王は謝罪しろ」と罵倒するは……。日本に対しやりたい放題になりました(図表「通貨スワップを仇で返した韓国」参照)。

 なお、韓国の企画財政部はイエレン長官が秋慶鎬(チュ・ギョンホ)副首相兼企画財政部長官と7月19日に会談した際、「韓米両国が必要な時に流動性を供給する装置など、多様な協力方法を実行する余力があるとの認識をともにした」と発表しました。

 これをもとに一部の韓国紙は「スワップに含み」と書きましたが、米財務省からはスワップを匂わす発表は一切ありませんでした。
「chip4」が新たな踏み絵

――イエレン財務長官への期待は空振り……。

鈴置:イエレン長官はスワップを与えるどころか、韓国に対し「製品の供給網」でも米国側に立つよう求めました。尹錫悦大統領との会談に関する発表資料で触れています。「供給網の回復力の重要さで一致」という表現を使っています。

・Secretary Yellen and President Yoon also underscored the importance of bolstering supply chain resiliency to protect against costly disruptions that lead to higher prices and adversely impact American and Korean workers, consumers, and businesses.

 これだけでは何のことか分かりにくいのですが米国は今、日本、台湾、韓国を巻き込んで半導体同盟「chip4(チップ4)」作りに乗り出しています。

 米国は半導体の設計と製造装置に圧倒的な強みを持ちます。台湾はロジック半導体、韓国はメモリーの生産能力と技術が図抜けている。日本は半導体製造用の素材が得意。

 この4カ国が協力関係を密にすることで「安定的な半導体・同素材の供給網を作る」のが目的です。が、それはもちろん建前。本音は半導体産業でも台頭が著しい中国への技術移転に歯止めをかけ、成長を阻止することです。

 米国は「chip4」に参加するかどうかを8月末までに決めるよう求めており、日台は参加することを決める一方、韓国政府は判断を下しかねています。

 毎日経済新聞の「韓国、米主導の半導体同盟参加検討へ 悩み深まるサムスン・SKハイニックス」(7月20日、日本語版)など、韓国各紙が報じました。

 韓国の半導体産業にとって、中国は最大の市場であると同時に重要な生産拠点。中国政府との関係が悪化し、報復されるのを恐れているのです。

 中国外交部報道官は7月19日の会見で「当事者が公正な立場で自身の長期的な利益を考えるよう望む」と述べ、韓国などの「chip4」参加を強く牽制しています。』

『内側からIPEFを壊す

――だから米国の財務長官が韓国の大統領に「供給網」への参加を求めた……。

鈴置:米国は半導体大国の韓国は自陣営に取り込んでおきたいところ。ところが韓国は中国にいい顔をし始めた。IPEFの設立総会にリモートで参加した尹錫悦大統領も「開放性・包容性・透明性」を訴え、中国排除に公然と異を唱えたのです(「『東アジアのトルコ』になりたい韓国、『獅子身中の虫』作戦で中国におべっか」参照)。

 少なくとも「chip4」に参加を表明するまで、米国は韓国にスワップをつけるなど甘い顔はしないと思います。尹錫悦の韓国は合同演習などの軍事面に限らず、半導体同盟など経済面でも米国側に戻ってはいないのです。

――となると、「日本は韓国に譲歩しないと米国に怒られる」という説は……。

鈴置:日本人を騙すために韓国が作ったフェークニュースです。韓国の意向を受けて動く日本の専門家もそう言って走り回っていましたので、信じ込んだ日本人もいましたが(「尹錫悦はなぜ『キシダ・フミオ』を舐めるのか 『宏池会なら騙せる』と小躍りする中韓」参照)。

 もし、韓国が中国側に行くことが明白になれば、米国は韓国を経済面で徹底的に追い詰めるでしょう。1997年の通貨危機の時も、中国に傾く韓国にお仕置きしようと米国は韓国にドルを貸さず、日本にも助けないよう命じました(『米韓同盟消滅』第2章第4節「『韓国の裏切り』に警告し続けた米韓」参照)。

 日本は今、韓国に譲歩する必要もなければ、下手に譲歩してもいけないのです。それこそ米国に怒られます。合同軍事演習や「chip4」で韓国が米国の言うことを聞く前に、日本が韓国にスワップを与えようとしたら、米国から「やめろ」と言われる可能性が高い。

 半導体関連の3品目に関しても、案件ごとの輸出審査が不要ないわゆる「ホワイトリスト」待遇に韓国を戻そうとすれば、米国から「少し待て」と言われるかもしれません。
ホワイトリストに戻せ

――韓国がホワイトリストに戻せと日本に要求するのも……。

鈴置:米国を裏切った時のお仕置きとして使われるであろう武器を、日本から取り上げておきたいのでしょう。もし、日本政府が半導体素材の対韓輸出を1件ごとに時間をかけて審査し始めたら、韓国の半導体生産はたちまち支障をきたします。
 
 それは通貨危機をも呼びかねません。韓国の半導体輸出が滞れば、ウォンを防衛する際に必要なドルも稼げなくなるからです。

 朴振(パク・ジン)外交部長官が7月中旬に訪日した際「ホワイトリストへの復帰」を日本に要求したと韓国メディアは報じました。対立を深める米中の間で、韓国は死に物狂いなのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部 』