スリランカ再建、新大統領に中国債務「2割」の壁

スリランカ再建、新大統領に中国債務「2割」の壁
編集委員 高橋徹
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD214K80R20C22A7000000/

『1948年の独立以来、最悪の経済危機に見舞われているスリランカの新大統領にラニル・ウィクラマシンハ首相が選出された。通算で6度も首相を務めてきたベテラン政治家が、焦点である国際通貨基金(IMF)からの支援を取り付けるには、実質的な最大債権者である中国との債務軽減交渉がハードルとなる。

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経済失政で5月に当時のマヒンダ・ラジャパクサ首相が辞任した後、ウィクラマシンハ氏は約2年半ぶりに首相職へ復帰した。7月半ば、マヒンダ氏の弟のゴタバヤ・ラジャパクサ大統領が国外脱出して辞任すると、後任に名乗りをあげた。
再反乱のリスク消えず

首相復帰後は財務相を兼ね、IMFとの折衝に当たっており、協議の継続性は保たれる。ただ、前大統領の公邸に乱入した反政府デモ隊は「ラジャパクサ一族の支配の延命に手を貸した」としてウィクラマシンハ氏の辞任も求めてきた。
反政府デモ隊はラジャパクサ大統領の公邸になだれ込み、占拠した(7月9日)=ロイター

大統領は本来は有権者の直接投票で決めるが、今回は任期途中で空席となったため、国会が選んだ。新大統領が足元の民意を反映しているとは言い切れない。

最大都市コロンボの6月の消費者物価指数は前年から55%上昇し、燃料、医薬品、食料などの生活必需品にも事欠く。国民の再反乱を防ぐ意味でも、IMFとの交渉は時間との勝負だ。5月からデフォルト(債務不履行)状態にあり、緊急融資の前提として対外債務の再編を求められている。

中国との交渉で最大の問題は不透明な融資状況だ。

スリランカ財務省の公表数字では、昨年4月末の対外債務(351億ドル=約4.9兆円)のうち対中国は10%にすぎない。が、それは政府間融資に限られるとの指摘がある。

「借金棒引き」恐れる中国

実態を知るうえでスリランカの経済学者2人が6月にまとめた報告書が参考になる。財務省への情報公開請求を踏まえ、国有銀行からの商業融資も含めて推計したところ、対中国は昨年末で20%を占めた。小口に分散する国際ソブリン債(36%)を除けば、アジア開発銀行(15%)や世界銀行(10%)、日本(9%)を上回る最大の債権者だ。

にもかかわらず、中国は少額の人道支援に応じただけで、スリランカが求める25億ドルのつなぎ融資や信用枠供与にすら冷淡だ。国際危機グループのスリランカ担当上級コンサルタント、アラン・キーナン氏は「借金棒引きの前例をつくりたくないのだろう」とみる。
深刻な燃料不足を受けて、給油所は国軍兵士が警備にあたる(コロンボ)=ロイター

経済協力開発機構(OECD)に未加盟の中国は、対外援助の情報をほとんど公開せず、債務再編で共同歩調をとった経験もない。「中国が応じなければ、我々が債権を放棄しても、中国への返済に回るだけ」と日本の援助関係者は話す。

親中のラジャパクサ兄弟と違い、インドや欧米に近いとされるウィクラマシンハ氏は、強硬な相手から譲歩を引き出す手腕を問われる。

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中空麻奈
BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長
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ひとこと解説

今年2022年は、米国金利上昇、中国の景況感低迷に加え、ロシアによるウクライナ侵攻により、新興国の問題が大きくなっていた。実際、5月にスリランカがデフォルトした後も騒がしい。たとえばエジプトはIMFからの資金の取り付けが8月末までに決まりそうで、そうなるとデフォルトは回避できる見込みだが、相変わらず薄氷を踏むが如くではあるし、トルコなどの金利上昇も凄まじく、ともすればこれらが政治リスクに転嫁しかねない勢いでもある。また資金提供者としての中国の存在が返済スケジュールを複雑にしていることもスリランカだけではない。スリランカを含めた新興国リスクはまだ観察が必要だ。
2022年7月22日 14:05 』