エジプト パンの値上げは政治的なタブー

エジプト パンの値上げは政治的なタブー ウクライナ穀物輸出再開に向けた4者協議は週内に合意署名か – 孤帆の遠影碧空に尽き
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『【すでに上昇していた小麦価格はウクライナ侵攻で更に高騰、「小麦戦争」へ】
周知のように食料輸出大国ウクライナとロシアの戦争状態によって世界の食料需給は大きな影響を受けています。
特に影響が大きいのが多くの国でパンなどの主食に使われる小麦価格の高騰です。

食料品価格はウクライナ侵攻以前から上昇傾向にあって国際的問題となっていましたが、ウクライナ侵攻を受けた更なる高騰で一部の国では飢餓の危機や政情不安を惹起する状況にもなっています。

****ウクライナ侵攻で世界は「小麦戦争」へ****
農業大国ウクライナに対するロシアの侵攻は、世界の小麦市場に深刻な混乱をもたらしており、一部の国では飢餓を引き起こしかねないと懸念されている。

■世界の主食
「Feeding Humanity(人類への食料供給の意)」と題する著書がある経済学者のブルーノ・パルマンティエ氏は、「小麦は世界中で食べられているが、どこでも生産できるわけではない」と指摘する。

 輸出できるだけの小麦を生産している国も、十数か国しかない。中国は世界一の生産国だが、14億の人口を養うために小麦を輸入している。

 小麦の輸出大国は、ロシア、米国、オーストラリア、カナダ、ウクライナ。輸入国の上位は、エジプト、インドネシア、ナイジェリア、トルコなどだ。

■価格高騰の理由
穀物価格は、2月にロシアがウクライナ侵攻を開始する前からすでに高騰していた。背景にはいくつかの要因がある。

まず、新型コロナウイルス流行による打撃から経済が立ち直るにつれ、燃料価格が上昇し、窒素ベースの肥料の価格も高騰した。またコロナ関連規制の解除に伴い、あらゆる製品の需要が急増し、世界のサプライチェーンに大きな混乱を来した。さらに昨年の熱波で、カナダでは農作物が壊滅的な被害を受けた。

■ウクライナ侵攻が事態を悪化させた訳
ロシアのウクライナ侵攻開始後、小麦価格はさらに高騰。5月の欧州市場では1トン当たり400ユーロ(約5万5000円)超と昨夏の2倍となった。開発途上国にとってはあまりにも大きな変化だ。

侵攻開始前、欧州の穀倉地帯と言われるロシアとウクライナは、世界の穀物輸出の30%を占めていた。また国連食糧農業機関によると、30か国以上が小麦の輸入需要の30%を両国に依存している。

■ウクライナへの影響
ロシアの海上封鎖によって、ウクライナでは2500万トン相当の穀物が輸出できず、農場や港のサイロに足止めされ、鉄道や車両で出荷された分は、海上輸送の6分の1にとどまっている。

また侵攻が続く中、小麦の種まきをする時期を迎えた農家は、防弾チョッキを着て作業したり、地雷などの除去を専門家に依頼したりする必要に迫られた。ウクライナの穀物協会UGAによると、今年の小麦の収穫高は前年比40%減と予想されている。

米国のアントニー・ブリンケン国務長官は、ロシアによる封鎖は「武力による脅しだ」と非難。世界の国々を「屈服」させ、対ロシア制裁の解除を狙うウラジーミル・プーチン大統領の意図的な戦略だと述べた。
経済学者のパルマンティエ氏は「戦時下において、生産大国は文字通り他国の運命を握る」と言う。

■今後の見通し
他の小麦生産大国に目を向けても、中国は在庫を放出する見込みがなく、熱波で不作のインドは輸出を一時禁止している。

2022〜23年度の世界の小麦生産高は約7億7500万トンで、前年度より450万トン減ると、米農務省は予測している。同省は、ウクライナなどでの減産分は、カナダ、ロシア、米国での増産によって「一部」相殺されるとみている。

だが専門家は、収穫が始まったここ数週間で価格は下落しているものの、市場がウクライナ侵攻の影響を織り込み、不況の懸念が高まっていると指摘している。

ロシアの黒海封鎖によるウクライナからの穀物輸出停止をめぐり、両国は今週、仲介国トルコで国連関係者を交えて3月以来となる対面協議を実施した。トルコのフルシ・アカル国防相は、一定の進展があったとし、来週の再協議で最終合意に至る可能性を示唆している。 【7月16日 AFP】
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【世界最大の小麦輸入国エジプトの苦境 問題は統治の在り様にも】
小麦など食料品価格の高騰は地域的には、ウクライナ・ロシアからの輸入に頼る割合が高い中東・アフリカで大きくなっており、また、紛争地域の国際支援も打撃を受け飢餓に直結する事態にもなっています。

パンの価格の値上がりは、中東各地で政治問題になっており、イランでは5月、小麦関連の政府補助金の削減をきっかけに、小麦を原料としたパスタやパンの価格が3倍になって各地でデモが起きました。イラクやレバノン、スーダンなどでも、小麦やガソリンの価格高騰に怒った市民のデモが伝えられています。

小麦の世界最大輸入国でもあるエジプトも小麦調達・価格高騰に苦しんでいます。

****エジプト、庶民にパン供給の重圧 小麦の増産に躍起****
世界最大の小麦輸入国エジプトが国産小麦の増産を急いでいる。ロシアのウクライナ侵攻で両国に8割を頼っていた輸入小麦の調達がにわかに難しくなり、自給率の向上を迫られている。

小麦の確保は、手厚い補助金で庶民にパンを安く届ける仕組みの大前提。主食を割安に供給する重圧が政権を突き動かしている。

6月初め、首都カイロ近郊のギザにある集荷所に、周辺の農家が収穫したての小麦の袋を続々と運び込んでいた。「小麦は畑の3割だったが、次の作付けは9割に増やそうと思っている」と農家のアリ・タンタウィさん(69)は話した。「国の安定のため、協力するのは当然だ」

エジプト政府は3月、小麦農家に増産奨励策を打ち出した。小麦1アルデブ(150キログラム)につき65エジプトポンド(約460円)を上乗せ支給すると決めた。買い取り価格が1割弱高くなる。小麦農家には肥料の調達も優遇し、高騰している市場価格より大幅に安く売り渡す。

エジプトの2021年の小麦の輸入量は国内需要の半分強に当たる約1200万トン。このうちロシア産が6割、ウクライナ産が2割を占めた。2月にロシアがウクライナに侵攻すると黒海からの出荷が滞り、ルーマニアなどからの代替調達に追われた。遠くインドからも小麦をかき集める事態に追い込まれた。

収穫量の6割は政府に売り渡すよう義務化
政府は「小麦の在庫は4カ月分ある」と民心の安定に躍起だが、輸入依存度を下げようという機運は今回の危機で高まった。

シシ大統領は5月、「国民のニーズに応えるという難題に直面している」と認め、増産に向けた「未来プロジェクト」を打ち出した。1990年代に当時のムバラク政権が着手し、その後停滞していた南部トシュカの農場開発計画の推進にも意欲を示した。ムサイラヒ供給・国内通商相は「24年までに国内需要の65%を賄えるようにする」との目標を掲げる。

小麦農家には優遇策の「アメ」を強調する一方で「ムチ」もある。今年の収穫量の6割を政府に売り渡すよう義務付け、違反者を逮捕した。許可なく民間に売るのも禁じた。

政府の買い取り価格は一律だ。交渉次第で高値になる民間業者向けより、どうしても割安だという。カイロ近郊の農家アブドラさん(65)は「政府への出荷は強制されるべきではない」と声を潜めた。小麦より果物や葉物野菜を大消費地のカイロに新鮮なまま出荷する方が稼げる、というのが近郊農家の本音だ。

政府が小麦の調達に腐心するのは、安価にパンを提供する現行制度に不可欠だからにほかならない。低所得者向けに政府が補助金で価格を抑えた平たいパンは、1枚当たり0.05エジプトポンド。10枚買っても約4円という安さで、製造コストの10分の1にも満たないとされる。人口の約7割が恩恵を受けている。

「アエーシ」と呼ぶ平たいパンは「生活」を意味するアラビア語の語源通り、エジプトの食卓に欠かせない。人口の3割が貧困層で、小麦の国際価格がウクライナ危機で高騰しても、政府はこのパンの価格を維持する姿勢を変えていない。低所得者とは違い、専用のカードを持たない高所得者らはこの安値では買えないが、政府は補助金なしのパンも3月に小売価格を固定した。

名古屋市並みの都市が毎年生まれるのと同じ
ウクライナ危機の長期化で小麦価格が高止まりするほど、政府は財政負担が膨らみ「逆ざや」問題に苦しむ。政府は2021年度予算でパンの補助金に約450億エジプトポンドを割り当てた。22年度は大幅な増加が避けられない。

中東で最大の人口を抱えるエジプトは20年に1億人を突破し、年2%のペースで増え続けると国連は推計している。1年で200万人も増え、名古屋市に迫る規模の都市が毎年出現する計算になる。食糧調達の切迫感は強い。

11年前にエジプトでムバラク政権を倒した民主化運動「アラブの春」は、食糧高への庶民の不満が一因だった。中東には未整備の社会保障制度を補うかのように、食糧価格を補助金で安く抑える国が多い。この暗黙の社会契約が破綻すれば、市民の不満の矛先は為政者に向かいかねない。

既に野菜など価格統制の対象外の食品は大きく値上がりし、エジプトの5月のインフレ率は前年同月比15%を上回った。「どうしてキュウリがこんなに高いの?」「シシに聞いてくれよ」。露天の市場で大統領を名指しして不満を垂れる人も珍しくなくなった。強権的な体制の国では異例のことといえる。物価高の波が主食にまで及べばどうなるか。シシ政権が小麦の調達に奔走するのは、危機感の高まりの裏返しだ。【6月20日 日経】
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上記記事にある11年前にムバラク政権を倒した民主化運動「アラブの春」だけでなく、1977年、サダト大統領(当時)がパンの価格を引き上げ、激しい暴動が起きています。その教訓から、パンの値上げは歴代政権にとって政治的なタブーだとなっています。

エジプト・シシ政権が小麦価格高騰に苦しむのは単に小麦需給動向という外的要因によるだけでなく、そもそもエジプトの、軍部や権力周辺だけが甘い汁を吸い、国民全体の利益がないがしろにされてきた統治にも大きな問題があるとも指摘されています。(このあたりはエジプトだけの話ではなく、食料問題で悩む国の多くは、基本的に統治に問題があることが多いと思われます。)

****食料危機でも腐敗は横行 政情不安のエジプトとレバノン****
ウクライナ戦争による小麦の輸入難で中東、アフリカ諸国は食料危機に直面しているが、中でも小麦の輸入世界一のエジプトと破綻国家レバノンは窮地に陥っている。だが、その背景には「両国の支配勢力が国民そっちのけで私腹を肥やす〝腐敗の構造〟がある」(中東アナリスト)ようだ。

パンの値上げが暴動に直結
(中略)政府がパンの価格へ特別に注意を払っているのは、これが政情不安に直結する問題だからだ。エジプトでは70年代からパンの値上げがあるたびに反政府暴動が繰り返されてきた。  

30年の長期にわたって支配してきたムバラク元政権が「アラブの春」で打倒された要因の一端はパンの価格に対する国民の不満があった。このためクーデターで政権を奪取したシシ大統領は30億ドル(約4000億円)もの補助金でパンの価格を維持、生活苦に対する国民の怒りを抑えてきた。  

だが、ウクライナ戦争後のパンの価格の高騰に政府批判も高まり、ネット上では、〝飢えの革命〟〝シシよ、去れ〟など政権にとっては危険なハッシュタグまで現れた。政府はこうしたネット上の投稿を即刻削除し、批判の取り締まりを強化。同時に富裕層ら50万人からパンの配給を受ける権利などをはく奪、対策に躍起になっている。
 
シシ政権誕生直後は同氏がエジプトの英雄ナセル元大統領に雰囲気が似ていることもあって支持が高かったが、軍指導部や大統領の取り巻きなど一部だけが利権を享受している現実に失望感が広まった。今回の食料危機の対応を誤れば、人口2200万のカイロなどでいつ暴動が起きてもおかしくないだけに、政権の懸念は強い。

甘い汁を吸う軍部
食料危機が深まったのはシシ政権が国民の生活改善や政治・経済改革を怠ってきたことが大きな要因だ。2016年にはIMFから改革を約束して120億ドルの支援を受けたが、国民の生活向上にはつながらなかった。それどころか、国家の借金は10年以降膨らみ、それまでの4倍である3700億ドルにまで増えた。  

「エジプトは近年、支配層の2%が甘い汁を吸い、残りの98%が苦しい生活を余儀なくされてきた。この構図はシシ政権でも全く変わっていない」(中東アナリスト)。特にシシ大統領の出身元である軍部は支配勢力の中核的な存在で、さまざまな企業を経営するコングロマリットでもある。  

その軍部とシシ政権がエジプト復興の起爆剤として一体となって取り組んでいるのが新首都の建設だ。カイロの人口は50年までには2倍の4000万人に急増するとの予測があり、建設事業で経済を活性化し、人口密集問題も解決しようという試みだ。  

新首都の建設地はカイロ東方45キロメートルにある砂漠地帯のど真ん中だ。政府の30に上る省庁や各国の大使館などが移転し、完成すれば650万人が住む都市となるというのが青写真だ。建設費用は約400億ドル(5兆円)。だが、「問題はこの新首都建設で得をするのは誰か、ということだ」(同)。  

メディアなどによると、建設を推進する都市開発公社の株式の51%は軍が保有、新首都圏の土地や不動産の売却などを取り仕切っている。しかも省庁が移転したカイロの跡地はみな一等地にあるが、この跡地の売却も事実上、同公社が独占しており、大きな利益が軍部に転がり込む勘定だ。軍に対する監査は一切ない。(後略)【6月18日 WEDGE】
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【トルコ・イスタンブールでの4者協議、週内にも合意署名か】
トルコ・イスタンブールでのロシアとウクライナの軍事代表と、仲介するトルコ、国連の4者で行われている穀物輸出再開を目指す協議では輸出航路の安全確保などで合意したと報じられています。

ウクライナからの小麦などの輸出がストップしているのはロシアが海上封鎖する黒海沿岸の港湾からの輸出ができなくなっているためですが、ロシア側は「我が国は最高レベル(プーチン大統領)で、輸出に何の支障も無いことを表明していた」「機雷は敷設した側が除去する必要がある。ウクライナ側が港に仕掛けた」(ロシアのベルシニン外務次官)と、責任は機雷を敷設したウクライナ側にあるとしています。

ウクライナ側には機雷を取り除けばロシアがそれを利用して港などへの攻撃を仕掛けてくるとの懸念があります。

ウクライナからの輸出再開のためには、この問題の解決が必要ですが、協議でこの問題がどのように扱われているかは定かではありません。

****穀物輸出巡る4者協議、週内に合意書署名も ロ・トルコ首脳19日会談****
トルコのアカル国防相は18日、ウクライナに滞留している穀物の輸出再開を巡るロシア、ウクライナ、トルコ、国連の各代表団による協議が週内に再び開かれる公算が大きいという認識を示した。

各代表団は先週イスタンブールで開催した会合で、輸出航路の安全確保などで合意した。ただ、国連のグテレス事務総長は、戦争終結に向けた和平交渉の実現には「長い道のり」があると述べていた。

国連報道官によると、グテレス氏は18日、ウクライナのゼレンスキー大統領と現在進められている穀物輸出再開に向けた協議について話した。

アカル国防相は「穀物や食料の輸送に関する計画や原則を巡り合意に達した。これを受けた会合が今週中にも開かれる見通し」と述べた。

別のトルコ政府高官は「複数の小さな問題点を巡り交渉は続ている」としつつも、「今週中に合意書に署名されることが期待されており、私も楽観視している。最終的な合意に至るまで、さほど時間はかからないだろう」と述べた。

また、ロシアのウシャコフ大統領補佐官は、プーチン大統領が19日にイランのテヘランでトルコのエルドアン大統領と会談し、ウクライナの穀物輸出を巡り協議すると明らかにした。

会談にはイランのライシ大統領も同席し、シリア情勢に関する協議も行われるという。【7月18日 ロイター】
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“週内に合意書署名も”ということはあと数日ですが、仮に穀物輸出で合意できても、ウクライナの停戦交渉とはまた別ものとも。

****ウクライナ穀物輸出巡る合意、停戦交渉再開につながらず=ロシア交渉担当者****
ウクライナとの停戦交渉に参加したロシアののレオニード・スルツキー議員は15日、ウクライナの穀物輸出を巡る合意が得られたものの、これがロシアとウクライナの交渉再開につながることはないと述べた。ロシアのタス通信が報じた。

ウクライナとロシア、国連、トルコは13日、ウクライナの穀物輸出の再開に向けた協議をトルコのイスタンブールで開き、輸出航路の安全確保などで合意した。【7月16日 ロイター】
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