英後任首相、スナク氏とトラス氏が決選へ

英後任首相、スナク氏とトラス氏が決選へ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR2013A0Q2A720C2000000/

『【ロンドン=中島裕介】辞意を表明したジョンソン英首相の後任を選ぶ与党・保守党の党首選は20日、候補者を絞り込む保守党議員による5回目の投票が行われ、スナク前財務相とトラス外相が決選投票に進んだ。この後、16万人超の一般の保守党員による郵便投票を経て9月5日に新党首が発表される。2候補は物価高騰や、亀裂が深まるEU外交などの難題を争点に論戦を重ねる。

スナク氏が勝てば英国史上初のアジア系首相が、トラス氏なら史上3人目の女性首相が誕生する。

相次ぐ不祥事で辞意を表明したジョンソン首相の後任レースには8人が立候補した。13日の初回投票以降、得票下位の候補者を除外しながら保守党の下院議員による投票を5回繰り返し2人に絞り込んだ。

スナク氏は20日の投票で137票を獲得し、5回連続で首位を維持して決選投票に進んだ。ここまで3位が続いていたトラス氏が5回目の投票で初めてモーダント貿易担当閣外相を追い抜いて2位に滑り込んだ。トラス氏は前回から27票増やして113票、モーダント氏は13票上積みの105票だった。19日に敗れたベーデノック前住宅担当閣外相の票をトラス氏が多く奪った結果だとみられる。

決選投票では一般の保守党員が投票するため議員投票とは支持動向が異なる可能性がある。英調査会社ユーガブが18~19日に保守党員に聞いた調査ではトラス氏への支持がスナク氏を上回っている。

党首選の議論で英国民が最も注目するのが、足元でインフレ率が9%を超える生活費高騰への対応だ。特に首相就任後に減税に着手するかで意見が割れている。

スナク氏は現段階で幅広い減税を実施すれば需要の増加で余計にインフレが過熱すると訴える。減税はインフレ沈静化後に検討するとの立場だ。テレビ討論会では減税を主張する候補に「インフレ対策で国が借金するのは計画ではない。おとぎ話」だと攻撃した。

トラス氏は正反対の訴えだ。党首選の序盤に英紙に「首相就任初日から減税に取り組む」と寄稿した。スナク氏が財務相時代に決めた2023年に法人税率を19%から25%に引き上げる計画の凍結や、4月に実施した国民保険料の引き上げの停止を訴える。

欧米など国外からは対EU政策の姿勢に注目が集まる。英国は20年1月末にEUを離脱したが、その後もジョンソン政権とEUの摩擦は絶えない。

トラス氏は現政権の立場をそのまま引き継ぎそうだ。EUとの離脱協定に含まれる英領北アイルランドの通商ルールを一方的に変更する法案の議会への提出を外相として主導した。足元でのEUとの最大の対立要因になっているが、トラス氏は首相就任後も法案審議を進める見通しだ。

一方のスナク氏はジョンソン内閣で、EUとの決定的な対立を避ける立場にあったとされる。スナク首相が誕生すれば、EUとの亀裂を一定程度修復しようとする可能性はある。

ウクライナ支援に関わる対ロシア外交ではどちらが首相になっても、強硬路線は変わらない見通し。対中政策では、トラス氏が西側諸国による台湾海峡の防衛強化を主張するなど、やや強硬寄りの立場にあるとみられる。
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小平龍四郎
日本経済新聞社 上級論説委員/編集委員
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別の視点

スナク氏とトラス氏を対比させた表をみると、ある共通点に気づきます。ともに40歳代という「若さ」です。プラグマティズムの国、英国の党首選びで決定的に重要なことは「選挙に勝てるかどうか」。若手だろうと女性だろうと、非白人だろうと、選挙に勝てるリーダーなら構わないという割り切りがあります。保守的なお国柄と想像されがちな彼の国で、サッチャーやブレア、キャメロンなど個性的で精力的な首相が輩出される理由も、プラグマティズムにあると見ています。今回の軍配が上がるのは、初のインド系か3人目の女性か。ジョンソン首相の大失態で始まった党首選ですが、それなりに興味深い展開です。
2022年7月21日 8:11
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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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ひとこと解説

保守党の党員投票で決着がつくまで、まだ時間がかなりある。世論調査ではトラス外相が現状優位だが、失言などで情勢が変わる可能性もあり、予断を許さない。スナク前財務相は、ジョンソン首相に最後に引導を渡したことや、インド系であることが、一般党員の判断にどう影響するか。一方、トラス外相については、経済政策の面で不安があることが金融市場では意識されている。テレビ討論で、インフレ抑制に成功している他国の例として日本を挙げたようだが、日本はデフレ脱却がなかなかできない国というのが一般的な見方。また、イングランド銀行を批判しつつ、インフレ抑制に向けてマネーサプライへの目標設定も示唆したが、時代錯誤の感がある。
2022年7月21日 7:48
鈴木一人のアバター
鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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分析・考察

スナク元財務相は議員の間では評価が高いが、20万人いるといわれている保守党の党員の中ではあまり人気がない。トラス外相も必ずしも人気のある候補というわけではないが、どちらかと言えば優位にある。トラス外相が首相となれば、ロシアに対してボリス以上に強硬な立場を取るだろうが、それがウクライナとの関係をどう変えていくのかという点は気になる。またBrexitに関してもトラスはかなり強硬な立場を取るとみられるので、これまで同様にEUとの関係はあまり良いものにはならないだろう。ボリスと人格の点では大きく異なるが、政策には大きな変更はないという結果になりそう。
2022年7月21日 1:14 』