米国・ロシア「欧州の冬」で火花 中東訪問で駆け引き

米国・ロシア「欧州の冬」で火花 中東訪問で駆け引き
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『ウクライナに侵攻したロシアと、これを秩序への挑戦とみる米国がエネルギー市場で火花を散らしている。ロシアは欧州で暖房需要が高まる冬をにらみ、天然ガス供給削減による布石で先行する。有力産油国サウジアラビアを先週訪れたバイデン米大統領に対抗し、プーチン大統領は反米のイランを訪問した。試練の冬を前に民主主義陣営の結束が問われる。

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ロシアの国営天然ガス会社ガスプロムは、ロシア北西部からドイツに至るガスパイプライン「ノルドストリーム」を通じた天然ガスについて「不可抗力」により供給を保証できないと欧州の契約企業に通告した。

国外で修理中のタービン返却の遅れや定期点検など、あの手この手で蛇口を絞ろうとする戦略が見え隠れする。欧州の暖房需要が急増する冬をにらみ、夏のあいだに欧州の在庫水準をぎりぎりまで落とすねらいがある。バッファーなしに欧州を冬に突入させたい立場だ。

欧州連合(EU)は2030年までにロシア産化石燃料への依存から脱することをめざしている。エネルギー制裁はロシアへの打撃が価格上昇で一部相殺される一方、少なくとも短期的には欧州が受ける打撃が大きい。ルーブル建て支払い要求を受け入れた企業もあり、ロシアは欧州域内の相互不信を醸成しようとしている。

ロシア出身のエネルギー専門家、セルゲイ・バクレンコ氏は、天然ガス市場が「欧米とロシアの地政学の対立の主戦場のひとつ」になりつつあるという。

同氏によると、スペイン、ポルトガルと島しょ国をのぞく欧州大陸の冬場(10月~翌年3月)の天然ガス需要は2700億立方メートルで、4~9月の倍以上にふくらむ。EUはおよそ1000億立方メートルとされるガスの貯蔵について11月までに8割を満たすことを目標にする。現在は6割程度で達成は可能とEU当局者はみているようだ。

EUは各地から天然ガスを買い集め、冬に備える。米国は1~4月の液化天然ガス(LNG)輸出の74%を欧州に振り向けた。前年同期は34%だった。EUは非加盟のノルウェーから調達を増やし、ドイツやフランスにある施設の貯蔵量を少しずつ高める算段だ。

だが、思わぬ伏兵も現れた。スペインなど南欧の記録的な熱波で冷房の消費が増えたことや、6月の米テキサス州のLNGプラント事故による稼働停止が長引き、欧州向け輸出に影響がおよんだ。

プーチン大統領は19日、イランを訪問した。2月のウクライナ侵攻後、旧ソ連圏以外の国を訪れるのは初めてだ。プーチン氏はイランのライシ大統領だけでなく、北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるトルコのエルドアン大統領とも会談する。

プーチン氏はサウジアラビアとイランが覇権争いを繰り広げる中東の対立構図を利用し影響力を強めようとしている。バイデン氏は先週サウジアラビアを初訪問して原油増産を要請したばかりだが、プーチン氏は米との核合意復帰交渉が一向に進まないことにしびれを切らすイランを引き込む戦術だ。

サウジ政府に批判的なサウジ人記者の殺害事件に関与したとされる皇太子との面会を巡っては、米国内で与野党を問わず「人権軽視」との不満がある。バイデン氏は信念であるはずの人権外交を事実上棚上げにしてまでサウジに増産協力を要請した。イスラエル機を念頭においたサウジの領空開放などの譲歩は引き出したが、肝心の原油協力ははっきりしないままだ。

ただし、中東諸国のロシアへの態度は複雑だ。トルコはウクライナに攻撃用無人機(ドローン)を提供した。イランが求める核合意の再建は今年初めに成立寸前まで行ったとみられたが、ロシアのウクライナ侵攻を機にふたたび暗礁に乗り上げた。サウジは新型コロナ禍による需要減のさなかの20年、減産提案を受け入れないロシアに反発して増産し、価格崩壊を引き起こした。

プーチン氏が期待するのは、内部対立による混乱だろう。貯蔵量が不十分で冬の寒さが厳しくなれば、各国が自国のエネルギー確保を優先し、仲間であるはずの北半球の国々も欧州向けの輸出をしぼる可能性がある。新型コロナ感染で欧州各国がワクチンの囲い込みに走った争奪戦の再現となれば、ロシアのつけ込むスキが広がる。

(編集委員 岐部秀光)

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