[FT]サウジとイスラエルの正常化、パレスチナ前進が条件

[FT]サウジとイスラエルの正常化、パレスチナ前進が条件
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『中東は変革のまっただ中にいる。そのかじ取りを担っているのはサウジアラビアのムハンマド皇太子だ――。2018年5月、当時のイスラエルの駐エジプト大使だったダビッド・ゴブリン氏は、自国の建国記念日を祝うためにカイロのホテル「リッツカールトン」に集まったゲストに、こんなメッセージを伝えた。

中東歴訪中のバイデン米大統領は、イスラエルの後にサウジアラビアも訪れる=ロイター

サウジの事実上の最高権力者であるムハンマド皇太子は石油資源に恵まれた保守的な王国を改革する計画に乗り出しており、数十年間にわたってイスラエルと敵対した後、米国メディアに対し、イスラエル人には自分たちの土地を持つ権利があるとも語っていた。

アラブ4カ国は国交を回復したが

ゴブリン氏の発言から4年たった現在、アラブ4カ国がイスラエルと国交を正常化した。一方で、イスラエル評論家の1人が「王冠の宝石」と評したサウジアラビアは国交の樹立に向けた慎重な構えを崩していない。

石油増産の確保を目指すために中東を歴訪中のバイデン米大統領は、イスラエルとの関係改善のタイムスケジュールについて、サウジ政府に強く働きかけると見られている。

だが、大統領は、イスラム聖地の守護者でありイスラム世界のリーダーであると自任するサウジからは「まだ用意ができていない」と伝えられるだろうと、あるサウジ関係者は語る。

サウジ高官らは公の場では、イスラエルがパレスチナとの紛争を解決した時に初めてイスラエルとの関係正常化が可能になると繰り返してきた。パレスチナ国家樹立と引き換えにイスラエルとの関係正常化を約束した02年の和平構想を主導したサウジ政府は、この立場は今も変わらないとしている。

王室周辺の考えをよく知るある関係者は、サウジを花嫁候補になぞらえ、王国はおおがかりなジェスチャーを求めていると話す。「ダイヤモンドの結婚指輪を用意してプロポーズする必要がある。それはパレスチナ問題の実質的な前進だ」と言う。

「サウジはイスラム、アラブ世界において譲れない特別な地位にあり、イスラエル側は表面的な変化だけで、サウジとの関係正常化に持ち込めると思わない方がいい」

だが、結婚願望は勢いを増しているようで、イスラエルもサウジも関係改善への興味を示している。バイデン氏は今回の中東歴訪で、エジプトが17年にサウジに譲渡した紅海の2つの島への多国籍軍の駐留についてイスラエル、エジプト、サウジの合意をまとめると見られている。イスラエルからアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、インドへ向かう民間機の上空通過を認めることに同意したサウジは、さらに多くのフライトの通過を認める方針だ。

両国共通の「宿敵」はイラン

欧米のある外交官によると、サウジとイスラエルが共通の敵であるイランと対峙するなか、両国は機密情報共有と安全保障関係も深めると見られている。イラン政府は、イエメンに対するサウジ主導の軍事介入に対抗する一方でサウジ国内の石油施設をも襲撃したイエメンの武装組織フーシ派を支援している。ムハンマド皇太子はイスラエルのことを「潜在的な同盟国」とまで踏み込んで表現した。

かつては超保守的な考えのイスラム教と激しい反ユダヤ主義の学校教科書で有名だったサウジアラビアにおける風潮の変化は、現地のテレビにまで及ぶ。ある番組では、サウジ男性がパレスチナ人のことを恩知らずと言及しながら、サウジはイスラエルと和平を結ぶべきだと発言した。

一部のインフルエンサーは日常的に、当局によって厳しく監視されているSNS(交流サイト)上でイスラエルとの和平のメリットを訴えている。

10年前、20年前であれば、イスラエルとの和平を口にしようものなら、サウジ人から不信の目、下手をすればあからさまな敵意を向けられた。この状況は変わった。特に、イランがとうの昔にサウジの宿敵としてイスラエルに取って代わったと広く認識されている。

しかし、首都リヤドのレストランが立ち並ぶ人気の大通りでは、サウジの若者たちはイスラエルに対して複雑な見解を抱いていた。

営業の仕事に就いている20代のラードさんは、イスラエルとの和平は「国の防衛にとってプラスになる」と話す。「どこかの国と同盟を組みたいのであれば、メリットがほしい。そしてイスラエルはイランと対立しているから、我々は恩恵を受ける」

若手銀行員のムハンマドさんは、イスラエルには反感を抱いていないと言い、「イスラエルを訪れたサウジ人がいるが、何の問題にも見舞われなかった」と話す。だが、友人のハレドさんは意見が違う。「イスラエルとかかわることには一切反対する。たとえ恩恵があるとしても、よそでも見つけられる。これは信念の問題だ」と語った。

保守派層に根強く残る懸念

反対派はムハンマド皇太子に懸念の目を向ける。映画館の設置解禁のほか、女性の運転や男女が同席するパーティーを認めた皇太子の改革は行き過ぎだ、とあるサウジ高官は言う。さらに、人口の大きな部分を占める保守派層のことを考れば、イスラエルとの条約は後回しでいいと付け加えた。

「UAEはイスラエルと関係を正常化させるまで、(UAEのムハンマド大統領が)12年間にわたって努力を重ね、筋道立てて国民を納得させなければならなかった。サウジの人々はそれ以上に懐疑的だという前提を信じるのであれば、(サウジのムハンマド皇太子は)大きく国民の心を動かさなければならない」。UAEの動きについて詳しい人物は指摘する。

サウジの消息筋は、イスラム世界における地位を考えると、サウジは20年にイスラエルと国交を正常化したUAE、モロッコ、スーダン、バーレーンよりも厳しい条件が求められると思うと話している。

それでも、サウジは徐々に外の世界に国を開いてきた。イスラエルのビジネスマンは、可能であれば別のパスポートを使うとはいえ、サウジアラビアをよく訪れるようになった。イスラエル人であることを隠そうともせず、サウジ国民ももう気にしていない。

「我々とビジネスをすることにどれほど前向きか、絶えず驚かされている。実際、非常に大きな励みになる」。イスラエルのあるビジネスマンは、最近サウジを訪れた後、こう語った。

リヤドでは、ユダヤ教超正統派の衣装をまとったイスラエル系米国人のラビ(指導者)、ジェイコブ・ヘルツォグ師の姿をよく見かける。同師は定期的にサウジを訪問し、市内を歩き回ることを好み、サウジ市民からよく一緒に自撮り(セルフィー)におさまってくれるようにせがまれる。「サウジ人からの反応は素晴らしい。みな敬意を示してくれるし、私は良い経験しかしていない」

By Samer Al-Atrush

(2022年7月13日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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