中国南部の経済圏構想が再始動 デモやコロナで停滞感

中国南部の経済圏構想が再始動 デモやコロナで停滞感
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM294WT0Z20C22A6000000/

『中国南部の広東省や香港、マカオを巨大な経済圏に見立てて連携を深める「粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)構想」が再始動する。税優遇や雇用促進で地域間の人材の交流と融和を加速する。習近平(シー・ジンピン)指導部が力を入れてきた大湾区構想だが、香港デモや新型コロナウイルス流行に起因した停滞感は否めず、てこ入れが急務になっている。

「責任と使命をもって、香港とマカオが国家発展の大局に融合していくことを支える」。6月29日、郭永航・広東省広州市長は国務院(政府)がまとめた同市郊外南沙区の産業振興策「南沙方案」について意気込みを語った。7月1日には習国家主席が香港返還25年の記念式典に出席しており、直前の発表は祝賀ムードに花を添えた。

たとえば南沙区内の試験エリアで「奨励産業」の企業を対象に最高で25%の税率を15%に減らす。加えて香港やマカオの人が南沙区で働く場合、個人の税負担を香港・マカオでの水準を超えないよう配慮する。香港とマカオからカネとヒトを呼び込む狙いがある。

また9月には香港の名門大学、香港科技大学の分校を南沙区で開校する。国際色豊かな香港の教育ノウハウを本土へ持ち込むほか、学術交流により若年層の融和を進める。

広域経済圏構想の枝葉となる取り組みは広東省全体に広がっている。深圳では2021年、公務員採用で初めて香港・マカオ出身者枠を設けた。外国語や外国企業への理解が深い香港やマカオの人材を呼び込んで一帯の国際化を加速させる。

大湾区構想はもともと10年代半ばに議論が立ち上がり、19年2月に共産党中央委員会と国務院が計画綱要を公表して本格始動した。35年までに「世界一流のベイエリアを全面的に確立する」計画で、22年は「基本的骨組みを形成する」目標だ。抽象的な表現だけに現時点での達成度を評価することは難しいが、この3年間を振り返ると多くの障壁があった。

まず計画を公表した19年、香港では刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡せるようにする逃亡犯条例改正案へ反対する大規模デモが勃発した。反対派が活動を重ねるにつれ警察の取り締まりは苛烈さを増し、20年には香港国家安全維持法(国安法)が施行、多くの民主派団体が解散に追い込まれた。民主化運動は霧散したが、社会分断の記憶はいまなお鮮明だ。

また新型コロナも大きな障壁となった。厳格な感染対策「ゼロコロナ」をとってきた中国では地域を越える移動が制限されることが多かった。香港で感染拡大が深刻化した際には本土との往来が大幅に減った。大湾区構想は始動直後につまずいてしまったと言わざるを得ず、まき直しが必要だ。

それだけに南沙方案では先立つものについても盛り込まれている。各種プロジェクトに関わる債券の発行規模を増やす。22年から24年にかけて、毎年100億元(約2000億円)ずつ地方政府の債務限度額を積み増すという。

大湾区、特に本土側としては広域経済圏の構築を急がなくてはならない事情もある。各地では地域経済の成長やインフラ整備を当て込んだ不動産開発が進むため、大湾区計画が遅れれば不動産プロジェクトの資金回収も滞る。住宅などデベロッパーは政府の業界締め付け強化を発端とした不動産市況の冷え込みに見舞われており、大湾区で期待される地価上昇は数少ない希望のひとつだ。

(広州=比奈田悠佑)』