【新刊紹介】中国の台湾侵攻が現実のものとなったとき、日本はどうなるか

【新刊紹介】中国の台湾侵攻が現実のものとなったとき、日本はどうなるか:岩田清文・武居智久・尾上定正・兼原信克著『自衛隊最高幹部が語る台湾有事』
Books 安保・防衛 政治・外交 2022.07.09
https://www.nippon.com/ja/japan-topics/bg900430/

滝野 雄作 【Profile】

いたずらに台湾有事を騒ぎ立てることには組みしたくない。しかし、理想的平和主義を唱えるだけでは、いざ危機が目の前に迫ったときに、何の役にも立たないだろう。台湾有事のリアルは是非、知っておくべきなのだ。軍事の専門家による本書は、そのことを理解するためにかっこうの手引となるであろう。

本書の第一部は、想定される台湾有事の4つのパターンのシミュレーションである。これは昨年8月、政府の国家安全保障に近年までかかわってきた高級官僚、防衛問題に造詣の深い現職国会議員、自衛隊から退官まもない陸海空将官、さらに有事の際に関係してくる外務省、経産省の元幹部ら20数名によって行われた研究会での討議がもとになっている。
そこでは、

第3次台湾危機(1995~96年)では、中国が台湾総統選挙に台湾沖ミサイル発射演習をもって軍事的に介入する形で起こったが、次回の台湾総統選挙(2024年)でも、中国は軍事的に介入する可能性がある。

という前提に立っている。

シナリオ①は、直接的な武力行使は行わないが、グレーゾーンの戦いを中国が仕掛けてくるというもの。台湾が独立を画策しているとのフェイクニュースを流して台湾国内を混乱させ、武力介入の口実を探る。サイバー攻撃でインフラや基幹産業の稼働を止め、さらに台湾海峡とバシー海峡に海上臨時警戒区を設置、継続的に大規模な軍事演習を繰り返すことで諸外国の自由な航行を妨害する。

シナリオ②は、中国が台湾で新型ウイルスが発見されたとのフェイクニュースを流し、検疫と隔離政策をとるという名目で台湾全島を孤立させる。その際、サイバー攻撃、海底ケーブルの切断によって外部との通信手段をはく奪。中国海軍による海上封鎖の長期化で、台湾国内は混乱、対中融和政権の誕生を画策するというもの。

シナリオ③は、直接的な武力行使である。総統選挙で独立志向の強い候補が圧勝、危機感から中国は軍事進攻を開始する。どういう攻撃を中国は仕掛けてくるか。詳しくは本書を読んでほしいが、中国陸軍は台湾上陸を果たし、中台の衝突は全土を巻き込んで、さらには海上の戦域は日本の領土におよぶ。結果的に日本は防衛力が手薄な尖閣諸島と与那国島を占領されてしまう。

そうなったらどうなるか。

それがシナリオ④で、米軍は自衛隊とともに本格的な参戦を決意する。しかし、中国本土へのミサイル攻撃が開始される前に、中国は国連安保理に停戦決議を提案。現状で停戦がなると、尖閣・与那国の占領は固定化されてしまう。その前に、奪還作戦を遂行できるのか。アメリカは台湾本土の防衛に全力を注ぐので、日本は自力で事態を打開しなければならない。

台湾・中国本土の在留邦人救出は困難

第二部では、こうしたシミュレーションをふまえて、著者である元職の陸幕長、海幕長、航空自衛隊補給本部長と内閣官房国家安全保障局次長らが討論した座談会が収録されている。自衛隊の装備や法制度など、そこで浮き彫りにされる日本の国防の問題点は何か。

総じていえば、悪夢が現実のものとなったとき、日本の備えはあまりにも脆弱だということだ。ミサイルの射程や数といった日中の戦力差(中国の短・中距離弾道ミサイル約1600発が南西諸島全域を射程に収めている)という以前にそもそも問題がある。少しだけ紹介しておく。

頼りにすべき米国との間で、台湾有事に対処する共同作戦計画は手つかずのまま、具体的に検討されていない。中国の海上・航空戦力に対するに、日台間に軍事に関する通信連絡の仕組みがない。いまや近代戦ではサイバー攻撃が常識になっているが、日本にはサイバー攻撃者を特定する能力も反撃能力もない。

邦人保護も心もとないものだ。戦端が開かれたら台湾の在留邦人2万5000人、敵性国家の国民となる中国本土の在留邦人11万人をどうやって避難させるのか。自衛隊の限られた輸送能力だけでは絶対に救出できない。この対策が、一番、肝要であるように思う。

『自衛隊最高幹部か゛語る台湾有事』

新潮社
発行日:2022年5月20日
新書版:295ページ
価格:990円(税込み)
ISBN:978-4-10-610951-5

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書評家。大阪府出身。慶應義塾大学法学部卒業後、大手出版社に籍を置き、雑誌編集に30年携わる。雑誌連載小説で、松本清張、渡辺淳一、伊集院静、藤田宜永、佐々木譲、楡周平、林真理子などを担当。編集記事で、主に政治外交事件関連の特集記事を長く執筆していた。取材活動を通じて各方面に人脈があり、情報収集のよりよい方策を模索するうち、情報スパイ小説、ノンフィクションに関心が深くなった。