[FT・Lex]英国保守党党首選、最優先すべきは財政再建

[FT・Lex]英国保守党党首選、最優先すべきは財政再建
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB140M40U2A710C2000000/

『英与党・保守党の党首選はテレビアニメシリーズの「チキチキマシン猛レース」(原題は「Wacky Races」)に似ている。個性豊かな登場人物が自国の経済エンジンを加速させようと画策する。各候補はブレーキから足を離し、数百億ポンドもの減税を公約に掲げて競い合っている。

財政規律を強調するスナク前財務相は13日の保守党党首選第1回投票で首位に立った=ロイター

減税願望は理解できる。税負担は約70年前のアトリー政権以来の高水準に迫っている。インフレによって財務省には財政的な余裕がある。そのうえ公共部門の効率化で100億ポンドを節約したので400億ポンドの減税の余地があると、13日の党首選直前にレースから撤退したジャビド前保健相は主張していた。

だが、財政の余裕を減税で使い果たすのは危険だ。公務員給与の大幅な削減が必要になる上、国防費増額やエネルギー価格高騰対策など他の要求に対応する余地が限られてしまうからだ。

減税してもほぼ採算は合うと主張する候補もいる。確かに、法人税減税は投資を促すかもしれない。2013年の財務省のモデルによると、成長が押し上げられれば長期的には減税のコストが45~60%減る。ただし、短期的な見返りはない。企業は当然ながら、利益が下がっている時期の減税には懐疑的だ。

財政政策の緩和は経済を刺激するが、インフレが加速してイングランド銀行(中央銀行)が利上げを余儀なくされれば、それが財政への打撃となる。量的緩和の遺産があるとすれば、金利変動に対する感受性が増したことだ。昨年3月の英予算責任局の発表によると、金利が1%上がるごとに国債の利払い費用が208億ポンド増加する。

際立つスナク前財務相の存在感

財政規律を強調するスナク前財務相の存在感は際立っている。同氏は複数の財務相経験者や同省の元幹部から支持を受けている。スナク氏のライバルとなるのはサッチャー元首相の後継者ではなく、トルコのインフレ率を80%近くまで押し上げる政策を推進したエルドアン大統領の弟子の方だと断じる者もいる。

非効率的な税制が成長にブレーキをかけるのは確かだ。とはいえ早い時期に減税しても英経済は困難から抜け出せないどころか、悪化する可能性さえある。党首選でどんな公約が掲げられるにしても、最優先すべきは財政再建だ。

(2022年7月13日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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伊藤さゆり
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究理事
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ひとこと解説

党首選の決選投票にのぞむ候補者絞り込む保守党員による第一回投票で首位に立ったスナク氏。
しかし、決戦投票で票を投じる保守党員を対象とするユーガブの世論調査では、モーダント貿易担当閣外相の人気が高く、スナク氏は誰が決戦投票の相手でも勝てないという結果が出ている。保守党員の間では歳出削減と減税への支持が高く、スナク氏が掲げる財政健全性回復のための増税への抵抗は強いということなのだろう。
本コラムはスナク氏を高く評価するが、FTの著名なコメンテーターのマーチン・ウルフ氏は、スナク氏が財務相として実施した増税は家計の不安感を強め、負担軽減措置も不十分だったため、インフレを助長したとして批判的だ。
2022年7月14日 12:25 』