ロシア原油に「洗浄」疑惑 インドで精製、欧米に輸出

ロシア原油に「洗浄」疑惑 インドで精製、欧米に輸出
制裁の抜け穴に懸念
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC078RW0X00C22A6000000/

『ロシア産原油を石油製品に精製して輸出する「オイルロンダリング(原油洗浄)」の中継拠点としてインドの関与が浮上してきた。制裁で行き場を失ったロシア原油を大量に買い、ガソリンなどに精製して一部を欧米への輸出に回している。精製過程で原油の原産地を証明するのは難しく、制裁の抜け穴になりつつある。

金融情報会社リフィニティブによると、6月にインドに到着したロシア原油は前年同月比4.2倍の2056万バレルだった。5月は同8.1倍の2376万バレルで、ロシアのウクライナ侵攻後に急増している。売却額は単純計算で5月だけでも19億ドル(約2600億円)近いとみられ、プーチン政権の重要な収入源となっている。

インドはロシア原油を国内消費だけでなく、石油製品に精製して輸出する。一大拠点とみられるのが、インド財閥企業のリライアンス・インダストリーズの旗艦製油所などが近い西部の都市シッカ(グジャラート州)だ。

4~6月だけでロシアからシッカに約2600万バレルの原油が到着した。前年同期比の5.3倍という急膨張ぶりだ。シッカに海路で届いた原油のうち、ロシア産は2割を占める。同時期にシッカの港から輸出された石油製品は約7500万バレルで、うち20%が欧米向けだった。

2021年のインドの海路での石油製品の輸出は4.2億バレル。このうち欧米向けは18%だった。比率は足元でもほぼ同じだが、原料にロシア原油を混ぜた「メード・イン・インディア」のガソリンなどが欧米で使われている可能性が高い。

日本の石油元売り大手は「原油は調達国別にタンク貯蔵されるわけではない。厳密に原油の輸入元を追跡するのは不可能に近い」と話す。欧米向けの石油製品の原料にロシア原油が混ざっている可能性について、リライアンスは日本経済新聞の取材に対してコメントを拒否した。

インドのジャイシャンカル外相は6月、同国が「積み替え拠点」として制裁の抜け穴になっているとの指摘には「ナンセンスだ」と主張。「ロシアの石油を買いに行けと送り出しているわけではない。最も良い(条件の)石油を買っているのだ」と話す。ロシア産の欧州向け中心の主力油種「ウラル」の価格は、国際指標の北海ブレント原油などより1バレル当たり30~40ドル安い。

米欧にとっても「疑わしい」だけで輸入を止めるのは難しい。米国はコロナ禍の需要減に対応しようと古い製油所の稼働を相次ぎ止めた。経済回復に伴い、国内の生産能力だけで需要を満たせずにいる。ガソリン価格を集計する全米自動車協会(AAA)によると、全米のガソリン平均価格は6月に1ガロン5ドルを突破して過去最高を更新した。

欧州も似通う。国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は独シュピーゲル誌の取材に「軽油やガソリン、パラフィンなどで欧州でボトルネックが発生する可能性がある」と語った。脱炭素の流れが強まるなか、製油所への新規投資は難しく海外産の石油製品に頼らざるを得ない。

制裁の抜け穴を突くのはインドだけではない。中国の5月のロシア産原油輸入は前年同月比55%増と大幅に増えた。中国はロシアから天然ガスの輸入も増やしている。

主要7カ国(G7)は6月に実施した首脳会議(サミット)で、ロシア産原油の価格に上限を設定する方針で一致した。15日にインドネシアで開幕する20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でもロシアへの制裁が議題となる。米欧日は着実な履行を訴えるが、中国やインドをはじめ新興国の一部はロシアに配慮して制裁から距離を置く。英シェルのベン・ファン・ブールデン最高経営責任者(CEO)は「(制裁が)どのように機能するのか、全く分からない」と懐疑的だ。

ロシア経済は制裁の影響でじわじわ縮む可能性が高い。国際通貨基金(IMF)によると、22年のロシアの国内総生産(GDP)成長率はマイナス8.5%と1995年以降で最悪となる見通し。外資の撤退や物価高による国内消費の低迷が響く。一方、エネルギー市場の需給逼迫を映し、原油や石炭などの輸出は新興国向けを中心に底堅い。

第三国を経由した原油の原産地を証明するすべは現時点でない。萩生田光一経済産業相はロシア原油のロンダリングについて「各国ともアンテナを高くあげて、いろんなシミュレーションをしていかないと、結果として我々がやっていることが何のための制裁だったのかということになってはならない」と語った。ロシア以外の産油国に代替先を広げ、制裁の網をG7の外にきちんと張る。もう一段の協調が欠かせない。

(外山尚之、ムンバイ=花田亮輔)

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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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ひとこと解説

マネーロンダリングならぬ「オイルロンダリング」がインドで行われている疑惑をとりあげており、興味深い。米欧などが実施中の対ロシア経済制裁には抜け穴がいくつもあり、効果に限界があることが、あらためて実感される。原油を精製してガソリンや軽油などの石油製品にしてしまうと、その原産国はあいまいになる。原油には重質油や軽質油など、産地によってそれぞれ特徴があるのだが、それらを混ぜた上で精製処理をして家計や企業が使える製品になってしまうと、どのような原油から作ったのかはわからないだろう。プーチン大統領はウクライナ戦争に関し、このところ強気の発言をしている。経済制裁はかなり乗り越えたという自信もあるのだろう。
2022年7月14日 7:53

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益尾知佐子
九州大学大学院比較社会文化研究院 准教授
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分析・考察

国際政治におけるインドの立ち位置を、日本は再確認した方が良いと思います。日本では「インドは反中でロシアの武器が必要だからロシアを非難できない」という見方が一般的ですが、私がインド人たちと中国問題を議論してきた中で感じたのは、そんな単純なものではないということです。インドは西側が構築した西側に有利な国際秩序に深い疑問を持っています。アメリカがアフガンやシリア、さらにイランなどに行ってきた行動を暴挙だと思っています。ロシアがウクライナで行っている「悪」の程度は、その意味ではたいしたことない、というのが彼らの理解です。インドは八方美人外交を行っており、QUADはインドにとっては便宜的なものです。
2022年7月14日 10:35

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高橋徹
日本経済新聞社 編集委員・論説委員
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分析・考察

これは当たり前です。インドが突如として石油製品の輸出を拡大したわけではありません。もともと石油製品の輸出大国で、仕向け地には米欧向けも含みます。「原材料」となるロシア産原油の輸入を増やせば、それを使った石油製品の輸出につながるのは当然です。真剣に問題視するなら、ロシア産原油の輸入という行為に対して制裁を科すしかないでしょう。インドをロシアにこれ以上接近させないよう、あの手この手でインドにすり寄っているいまの米欧や日本に、そうした覚悟があるのでしょうか。
2022年7月14日 9:24 (2022年7月14日 9:26更新) 』