バイデン米大統領の中東訪問  サウジとの手打ち、石油増産要請、さらには中東全域の協力体制なども

バイデン米大統領の中東訪問  サウジとの手打ち、石油増産要請、さらには中東全域の協力体制なども – 孤帆の遠影碧空に尽き
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『【アメリカ ウクライナ情勢を背景に、「脱・中東」から「中東再関与」へ】
アメリカは自国内石油産出の増大もあって、イラク戦争など深く関与してきた中東から身を引き、台頭する中国との対決を主軸とする戦略に専念したい考えでしたが、ロシアのウクライナ侵攻で再びロシアとも対決を余儀なくされ、中国とロシアの二正面作戦、あるいは関係を深める中国・ロシアの協力体制と対立という構図になりつつあります。

更に、ウクライナ戦争に伴うロシア制裁によってエネルギー問題が表面化し、サウジアラビアなど中東に石油増産を求める必要が生じるという、中東への再関与も迫られています。

****バイデン氏中東歴訪へ、中東「再関与」、中露に対抗****
バイデン米大統領は12日、就任後で初となる中東訪問のため、ワシントンを出発する。13〜16日にかけてイスラエルとヨルダン川西岸のパレスチナ自治区、サウジアラビアを歴訪。

バイデン政権はこれまで、「戦略的ライバル」である中国との競争に注力するために「脱・中東」を図ってきたが、ロシアによるウクライナ侵攻を受けた原油高などの現実に直面し、中東への「再関与」を打ち出す。

バイデン氏は、エルサレムや西岸でイスラエルのベネット首相やパレスチナ自治政府のアッバス議長らと会談する。その後、サウジ西部ジッダで湾岸アラブ諸国にイラク、エジプト、ヨルダンを加えた「湾岸協力会議(GCC)+3」の首脳会合に参加するほか、サウジのサルマン国王や、その息子で同国の実質的指導者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子らとも会談。エネルギー価格の抑制に向け、湾岸諸国に石油増産を働きかける見通しだ。

「インド太平洋と欧州の地政学的な競争が激しくなる中で、中東の重要性を増している」。11日に記者会見したサリバン大統領補佐官(安全保障問題担当)は中東訪問の意義をこう要約した。

米国は近年、エネルギー自給率の向上を背景に、中東アラブ諸国への関与を縮小。バイデン政権はその分の資源を中国との競争に振り向けるとしてきた。

だが、ロシアのウクライナ侵攻を受けたエネルギー市場の不安定化で事情が一変した。バイデン政権は、エネルギーを輸入に頼る欧州やアジアの同盟・パートナー諸国との連携を保つためにも、世界有数の石油地帯である中東の安定に関与する方向へかじを切った。

これは同時に、バイデン政権が外交の中心に据える人権や民主主義といった価値観を、少なくとも中東ではひとまず棚上げすることも示している。

バイデン氏は2020年の大統領選で、18年に起きたサウジ人記者殺害事件をめぐり、「サウジに代償を払わせる」と主張。就任後は、皇太子が殺害を承認していたとの分析を公表し、同国と距離を置いた。

会見でサリバン氏は「人権重視に変わりはない」と強調したものの、バイデン氏自身による訪問そのものが、原則を曲げてでも同国との関係修復を急ぎたいとのメッセージを帯びるのは必至だ。人権問題で中東諸国に批判的な与党・民主党内の左派から突き上げを食らうリスクもある。

バイデン氏は10日付の米紙ワシントン・ポストに「なぜ私はサウジへ行くのか」と題する文章を寄稿。「私の決断に多くが反対していることは知っている」としつつ、中露への対抗上、サウジを含む戦略的重要性の高い国々に「直接関与する必要がある」と訴えた。【7月12日 産経】
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【イスラエル・パレスチナでは「2国家共存」の枠組みを再確認】
上記のようにメインはサウジアラビア訪問による湾岸諸国への石油増産の呼び掛けになりますが、イスラエルとパレスチナについては、トランプ前政権及びイスラエルの保守強硬派ネタニヤフ政権時代に暗礁に乗り上げた「2国家共存」の枠組みを中道路線のイスラエル・ラピド新首相やパレスチナ自治政府・アッバス議長と再確認する運びになると思われます。

****バイデン氏、13日から初の中東歴訪 サウジと関係修復目指す****
(中略)サウジに先だってバイデン氏は13〜15日にイスラエルとヨルダン川西岸を訪れる。イスラエルでは、地域で拡大するイランの脅威に対抗するためイスラエルとアラブ諸国の連携拡大を模索する。

イスラエルは20年、米国の仲介でUAEなど一部アラブ諸国と国交を正常化し、対イランで連携を開始している。イスラエルのガンツ国防相は6月20日、イランの無人航空機(ドローン)やミサイルに対抗するため、米国や一部アラブ諸国と「中東防空同盟」を作り、防衛協力を進めていると明らかにした。

サウジはイスラエルとの国交正常化に慎重姿勢だが、バイデン氏の相互訪問で両国が接近する可能性もある。

ヨルダン川西岸では、バイデン氏はパレスチナ自治政府のアッバス議長と会談する。極端な親イスラエルの立場をとったトランプ前政権の中東政策からの転換をアピールし、パレスチナ国家樹立を前提とする「2国家共存」の支持を改めて明確にする方針だ。【7月12日 毎日】
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ただ、「2国家共存」の枠組みを再確認したとしても、新たな具体的動きがすぐに見られるような状況でもないように思われます。

【人権や民主主義といった価値観を“棚上げ”するサウジ訪問へ米国内では反対も】
話をメインのサウジアラビア訪問及び湾岸諸国への石油増産の呼び掛けに戻すと、上記記事にあるように人権や民主主義といった価値観を“棚上げ”する形にもなり、与党内や人権活動家の反発もあります。

****米大統領のサウジ行きに批判殺到 首都に「カショギ通り」****
バイデン米大統領の7月のサウジアラビア訪問計画に国内外から批判が殺到している。人権活動家らはムハンマド皇太子の関与が疑われるサウジ人記者殺害事件を不問に付すことになりかねないと反発。

米首都のサウジ大使館前の道路は今月、記者の名前を冠した「ジャマル・カショギ通り」と命名され、事件にも改めて注目が集まっている。【6月17日 共同】
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バイデン大統領は9日、米紙ワシントン・ポストに「なぜサウジに行くのか」と題した寄稿で「ロシアの侵攻に対抗し、中国を打ち負かすためにベストな環境を整え、世界の重要な地域をより安定させなければならない」と強調。

また、会談の相手はサルマン国王であり、人権問題がつきまとう実力者ムハンマド皇太子は同席するだけだとしてはいますが・・・苦しい弁解にも聞こえます。「人権問題も議題に」とも。

****サウジ訪問で「人権問題も議題に」、バイデン氏が理解訴え****
バイデン米大統領は9日、米紙ワシントン・ポストへの寄稿で自身のサウジアラビア訪問に批判の声があることについて、人権問題を議題にすると説明し、80年来の戦略的パートナーであるサウジと関係を断絶せずに新たな方向に導くことが狙いとした。(中略)

寄稿で「サウジ訪問に反対の人が多いことは知っている。人権に関して私には明確かつ長年変わらない見解があり、基本的自由は外遊で常に議題になる」とした。(後略)【7月11日 ロイター】
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人権や民主主義といった価値観を“棚上げ”するにしても、手ぶらでは関係が冷え込んだムハンマド皇太子から石油増産に向けた協力は引き出せないので“お土産”の検討も。

しかし、人権や民主主義といった価値観を重視する与党民主党左派だけでなく、9.11への関与が疑われるサウジアラビアには野党共和党内にも根強い反発があります。

****米政権、サウジへの攻撃兵器売却解禁を議論中=消息筋****
バイデン米政権は、サウジアラビアに対する攻撃用の兵器売却禁止措置を解除する可能性について議論している。ただ最終的な決定はサウジがイエメン内戦の停戦に向け、軍事介入を打ち切る姿勢を明確にするかどうかに左右されるとみられている。事情に詳しい4人の消息筋が明らかにした。

バイデン大統領は今週、サウジを訪問する予定。これに先立ち消息筋の3人は、サウジ側がここ数か月の米国との数回にわたる政府高官レベルの協議で、サウジに防衛用と見なされる兵器のみ米国が売却するという方針の撤回を迫っていたと語った。例えば消息筋の1人によると、サウジの防衛副大臣が5月にワシントンを訪れた際、サウジ側が売却制限をなくしてほしいとの要望を出していた。

ただ、2人の消息筋によると、米政権内の議論は非公式で初期的な段階にあり、すぐに決定が出ることはない。サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は11日の記者会見でサウジへの武器売却制限解除の検討について問われ、「現状では具体的なものはない」と発言している。

それでもバイデン氏は今回のサウジ訪問を前に、同国との緊張関係の「リセット」を探っているとのシグナルを送っている。背景には世界的なエネルギー需給ひっ迫の折、米国としてペルシャ湾岸諸国に原油の供給拡大を望んでいることや、イランに対抗する上でイスラエルとアラブ諸国が安全保障上の連携を強めてほしいと考えているという事情がある。

一方、米議会スタッフらによると、サウジへの攻撃兵器売却を認めれば議会の反対を招くのは間違いない。与党・民主党だけでなく野党・共和党の議員もずっとサウジを声高に批判している。消息筋らは、今週のバイデン氏のサウジ訪問中に関連の発表がある見込みはないと強調した。

バイデン氏も昨年の初めの就任早々、サウジに厳しく接する外交姿勢を選択。サウジが主導する有志連合軍によるイエメンの親イラン武装組織フーシ派への軍事攻撃で多数の民間人犠牲者が発生していることや、サウジの反体制派記者殺害などの国内人権侵害問題を受け、バイデン氏は歴代米政権が承認してきた攻撃兵器売却の停止を昨年2月に宣言した。

ところがロシアのウクライナ侵攻以降、バイデン氏のサウジに対する強硬姿勢は和らぎ、米国をはじめとする西側諸国も世界最大の石油輸出国であるサウジにロシアの穴を埋める形で供給を増やしてほしいと働きかけるようになった。

サウジが6月上旬、国連が仲介したイエメンでの休戦協定を2カ月延長することに同意すると、米政府はこれを称賛。米国はこれが恒久的な停戦につながる展開を期待している。【7月12日 ロイター】
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【サウジ・ムハンマド皇太子 事前に関係国を訪問し、存在感を高める】
上記にあるように、サウジアラビアが軍事介入しているイエメンでの戦闘が一時的ながら停戦状態にあることも、バイデン大統領のサウジ訪問を可能にした要因です。

イエメン停戦だけでなく、サウジアラビア・ムハンマド皇太子の側もバイデン米大統領のサウジを前に、関係国との関係を調整して、世界有数の産油国としての経済力もテコに、自らの存在感を高めようとしています。
ムハンマド皇太子は6月21日~22日、エジプト、ヨルダン、トルコの中東3カ国を歴訪しています。

****エジプトとサウジ、77億ドルの投資協定に調印****
エジプトとサウジアラビアは21日、経済関係を強化するための総額77億ドルの投資協定に調印したと発表した。サウジの実力者ムハンマド皇太子がエジプトの首都カイロを訪問し、エジプトのシシ大統領と通商や投資、安全保障について会談。投資協定でも合意した。

投資は再生可能エネルギーから石油関連、食品、フィンテックなど14分野に及ぶ。両国電力企業による15億ドルの風力発電プラント建設計画や、エジプト・ディムヤート港の多目的施設整備のほか、エジプト製薬業界によるサウジでの1億5000万ドルのプロジェクトなどが盛り込まれた。

サウジがエジプトで300億ドル規模の投資事業を主導するとの共同声明も出された。

2014年のシシ氏の大統領就任以来、サウジは同国に計数十億ドル規模を経済援助。エジプト大統領府によると、シシ氏とムハンマド氏は、バイデン米大統領が来月に就任後初めて中東を訪問して参加するサウジでの地域首脳会談も議題にした。

ムハンマド氏はエジプトに続きヨルダンとトルコも訪問する。同氏の湾岸地域以外の外遊は3年以上ぶり。【6月22日 ロイター】
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****サウジアラビア皇太子がトルコ訪問 和解演出、経済関係も強化へ****
サウジアラビアの実力者であるムハンマド皇太子は22日、トルコの首都アンカラを訪問し、同国のエルドアン大統領と会談した。ロイター通信が伝えた。

2018年にトルコ国内で起きたサウジ人記者殺害事件で両国関係は悪化したが、昨年から修復の動きが進んでいた。事件以来となる今回の訪問は関係正常化の「総仕上げ」とみられる。

会談後に発表された共同声明などによると、両国は今後、経済的結びつきも強める方針という。積極的な動きの背景には、バイデン米大統領による7月中旬のサウジ訪問やトルコの厳しい経済状況がある。

人権重視のバイデン氏は21年の就任以来、記者殺害事件の黒幕とされるムハンマド氏とは距離を置いてきた。しかし、ロシアのウクライナ侵攻などによる原油高と物価高騰への対策が喫緊の国内課題となり、産油大国サウジとの関係修復にかじを切った。ムハンマド氏としては、事件の舞台となったトルコへの接近でイメージ改善を狙い、バイデン氏訪問の地ならしを図った模様だ。

一方、来年半ばに大統領選が想定されるエルドアン氏は、低迷する国内経済の回復へ向けて、サウジからの投資や両国貿易の拡大をもくろむ。今年4月にはサウジの商都ジェッダを訪問し、サルマン国王、ムハンマド皇太子と会談していた。今回の共同声明によると、両者は「エネルギーや防衛といった分野での投資について協議した」という。【6月23日 毎日】
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なかなかに入念な下準備です。
石油増産についても、6月初旬段階で“対米関係改善のシグナル”とも見られる動きがありました。

****サウジ、対米関係改善のシグナル送る 「OPECプラス」増産合意****
石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の産油国の連合体「OPECプラス」は2日の閣僚級会合で7、8月の原油増産ペースを引き上げることで合意した。バイデン米政権は歓迎する意向を表明、サウジアラビアが合意の取りまとめに貢献したと評価した。

露のウクライナ侵攻後、露産原油の禁輸制裁を打ち出したバイデン政権は、市場安定のため産油国に増産を求めてきた。しかし、サウジや友好国のアラブ首長国連邦(UAE)は露とウクライナの間で中立を維持し、米国の要請にも応じてこなかった。(中略)

ロシアの原油生産量は米欧の制裁により日量100万バレル規模で減少しており、OPECプラスが決めた増産分では穴埋めできない。市場の反応も限定的だ。バイデン氏は中東訪問を通じてさらなる増産を働きかける狙いとみられ、米露の綱引きが活発化しそうだ。【6月3日 産経】
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【中東全域の安全保障や経済の協力関係拡大の期待も】
中東地域全体に関わる問題である“イスラエルでは、地域で拡大するイランの脅威に対抗するためイスラエルとアラブ諸国の連携拡大を模索する。”【前出 毎日】という件に関しては、アラブ側からアメリカのイスラエル重視を改めるよう求める声も。

****「米の政策転換なければアラブの安定望めず」 エジプト元外相補佐官****
バイデン米大統領の中東訪問を機にエジプトのフセイン・ハリディ元外相補佐官(74)が産経新聞の取材に応じ、「米国がイスラエル寄りの姿勢を変えない限り、中東地域の永続的な治安の安定は望めない」という考えを述べた。

ハリディ氏は「バイデン氏はイスラエル訪問で同国の治安維持に関与し続けると表明する」と推測した上で、「イスラエルの治安維持戦略は中東で常に軍事的優位を保つことだ。だからイランの核保有は決して許さない。この戦略が続く限り、アラブでも不安定と治安の懸念は続く」との見方を示した。

バイデン氏はサウジアラビア訪問を通じ、イスラム世界に大きな影響力がある同国とイスラエルの国交正常化を働きかけるとみられる。ハリディ氏は、イスラエルがパレスチナ人が多数住むヨルダン川西岸の占領を続け、レバノンやシリアに攻撃を行っている限り、イスラエルとサウジの間では「段階的な正常化は別として、完全な国交正常化が実現するとは考えにくい」と持論を語った。

また、議論が高まっている北大西洋条約機構(NATO)をモデルとする中東の軍事同盟創設構想に関しては、「イスラエルとアラブは(4度の戦争を行うなどして)長年対立してきた。軍レベルで協力するとは思えない」と、実現に否定的な姿勢を示した。【7月12日 産経】
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軍事面での中東の軍事同盟創設構想の他にも、経済面での中東地域の共同市場形成という話もあるようです。

****イスラエル、サウジ含む中東共同市場構築に期待 バイデン氏訪問を機に****
イスラエルのリーベルマン財務相は11日、今週予定されるバイデン米大統領の中東歴訪が、サウジアラビアを含む中東地域の共同市場形成につながることを期待していると語った。

バイデン大統領は13日にイスラエルを訪問し、15日にサウジに向かう。米ホワイトハウスは、中東地域の経済や安全保障の協力関係拡大がバイデン氏の歴訪の目的という認識を示している。
イスラエルとサウジは外交関係がない。

リーベルマン財務相は「イスラエル、サウジ、湾岸諸国、ヨルダンなど、中東に新たな共通の市場を構築する時だ」とし、「安全保障と経済双方における現実が大きく変わるだろう。バイデン氏の訪問中に重点が置かれることを期待する」と述べた。

また、イスラエル、ヨルダン、サウジ、バーレーン、アラブ首長国連邦のアブダビやドバイなどを結ぶ道路や鉄道の建設といったビジョンを描いているとも語った。

イスラエルのフラタ国家安全保障顧問も、バイデン氏訪問という枠組みにおいて「中東地域の市場拡大の可能性を巡る協議を開始する公算はある」と指摘。さらに、バイデン大統領がイスラエルから訪問後、直行便でサウジに向かう計画は「偶然ではない」とした。

バイデン大統領がイスラエル・サウジ直行便の開設を発表する可能性があるかという質問に対し、ロール副外相は「バイデン氏がサウジ訪問後に(イスラエル・サウジの)正常化に向けたニュースをもたらすと期待する」と応じた。【7月11日 ロイター】
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あくまでもイスラエル側の“期待”ということですが、サウジアラビアにしてもイスラエルにしても、アメリカの中東「再関与」にいろいろ期待するものが多いようにも見えます。

いろいろ注目点の多いバイデン大統領の中東訪問です。』