[FT]物価高に憤るインド国民、与党はヒンズー至上で懐柔

[FT]物価高に憤るインド国民、与党はヒンズー至上で懐柔
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB019U10R00C22A7000000/

『豆から医薬品まであらゆるモノの価格が高騰するなか、年金暮らしのフィロメナ・アマラさん(70)はこれが誰のせいなのか、ほぼ確信している。インドのモディ首相率いる与党・インド人民党(BJP)が悪いのだ。

野菜の価格は5月に前年同月比18%以上上がり、すでにコロナ禍の影響を受けた貧困層には大きな打撃だ=ロイター

商都ムンバイの市場で一番安い商品を探し回りながら「彼らは大金を稼いでいる。自分たちのことしか考えていないのよ」と憤慨した。

インドの貧困層はすでに新型コロナウィルス対策の厳重なロックダウン(都市封鎖)によって最も大きな犠牲を強いられた。そして今度はロシアのウクライナ侵攻で世界中の商品価格が大幅に上がるなか、食料品の値上がりの影響をまともに受けている。

モディ政権にとってリスクはこれまでにないほど大きい。タマネギの価格が選挙結果を決めると言われるこの国では、インフレの抑制は極めて重要だ。実際、1980年の選挙ではタマネギ価格の急騰による政権批判が高まったこともあって、インディラ・ガンジー氏が再び首相に返り咲いた。

インドの消費者物価指数(CPI)は4月に前年同月比7.79%と8年ぶりに高い上昇率を記録した。5月は若干落ち着いて7.04%になったが、それでもまだ中央銀行の目標の上限である6%を上回っている。野菜は5月も18.26%値上がりした。

インドの物価上昇率は4月に8年ぶりの高さに上昇した (出所)FT Data: Andy Lin/@imandylin2

米金融大手ゴールドマン・サックスはリポートで「食料インフレには上振れリスクがある」と指摘した。

一段と増える財政負担

モディ政権は燃料税を引き下げ、インド準備銀行(中央銀行)はほぼ4年ぶりの利上げに踏み切った。だが、さらなる物価上昇を食い止めるには遅すぎたとアナリストはみている。

英投資調査会社TSロンバードでインド調査を担当するシニアディレクター、シュミタ・デベシュワル氏は「中銀も政府も少し慢心していたと思う。(経済)成長だけに焦点が当たっていた」と言う。

インフレの高進は折しも、新型コロナの感染拡大期に中銀が講じた救済措置の打ち切りや、小麦の生育を阻む熱波の襲来と時期が重なった。

中銀は今年度(2023年3月まで)の経済成長率の予想を2月時点の7.8%から7.2%へ引き下げた。

食料価格の上昇と小麦の不作に対応し、インド政府は小麦の輸出を停止した。砂糖の輸出も制限するほか、低所得世帯向けには料理用ガスの補助金を支給すると発表した。

燃料費や衣服代、食料費の価格の上昇が特に大きい (出所)FT Data: Andy Lin/@imandylin2

英金融HSBCでは、ガソリンとディーゼル燃料に対する政府の物品税の引き下げで物価上昇は直接的には0.2%、間接的には0.5%和らぐはずだと試算する。

もっとも燃料税引き下げの財政負担は大きい。HSBCによると、政府の逸失収入は1兆ルピー(約1.7兆円)に上る。政府は農家支援のため肥料の補助金を2倍に増やす考えも表明しており、財政負担が一段と増す。

すべてを合わせると、新たな財政措置は2兆ルピー、少なくとも国内総生産(GDP)の0.5%の規模になると多くのエコノミストは推計している。

野村グループで日本を除くアジアを担当するチーフエコノミスト、ソナル・バルマ氏は、政府にとって「間違いなく厳しい綱渡りだ」と話す。
与党への支持は衰えず

この財政出動はシタラマン財務相が2月に発表した22年度予算案とは別のものだ。予算案ではインフラ投資によって資本支出を3割強増やし、約1000億ドル(約13.7兆円)にすることを打ち出した。

食用油や野菜の価格が5月は10%以上上昇した (出所)FT Data: Andy Lin/@imandylin2

国内の主要経済団体インド工業連盟(CII)のサンジブ・バジャジ会長は、政府と中銀は「現実的」な方法でインフレに対処していると語った。「卵を産む金のガチョウを殺したくないから、成長とインフレのバランスを取らなければならない」

もっともCIIの最近の調査では、通貨ルピーが今年、対ドルで最安値を更新し続けていることで、回答者の半数が輸入コストの増大を懸念材料の一つに挙げた。

産業界が直面している最大の問題は「インフレと国際的な不確実性だ」。バジャジ氏はこう述べる。

しかし従来、有権者は物価に極めて敏感に反応してきたが、今回はBJPへの支持離れは起きていないとニューデリーの政治評論家ニージャ・チャウドゥリ氏はみる。

ヒンズー至上主義の言動と手厚い福祉政策のおかげで、コロナ禍にもかかわらず、党の人気は衰えていない。BJPは今年、一連の州議会選挙で勝利を収めた。

とはいえチャウドゥリ氏はこうも話す。「国民の忍耐力には限界がある。だから政府はガソリン税を引き下げた。この状況にどう対処するかによって今後、支持がどうなるかが決まる」

野菜の購入をすでに減らしているアマラさんのように、一部の有権者は我慢の限界に達したようにもみえる。彼らは政府から見捨てられたと感じている。これはモンスーン(雨期)が到来したときに強まる心理だ。通常、その時期はたとえ物価が落ち着いていても食料価格の上昇を招く。

「これはすべて政治家のせいよ」とアマラさんは言う。「彼らは物価高騰に目を向けてさえいない」

By Chloe Cornish, Andrea Rodrigues and Benjamin Parkin

(2022年7月10日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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