日欧が米軍を奪い合う日 平時の友、有事は「ライバル」

日欧が米軍を奪い合う日 平時の友、有事は「ライバル」
本社コメンテーター 秋田浩之
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD101FR0Q2A710C2000000/

『米国と同盟を結ぶアジアと欧州の国々が、かつてないほど接近している。米欧の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)が6月29日、スペイン・マドリードで開いた首脳会議。日本とオーストラリア、韓国、ニュージーランドが初めて参加し、結束を誓い合った。
これに合わせ、NATOは向こう10年の指針となる戦略概念をまとめ、中国を秩序の破壊者と位置づけ、友好国と対抗していくことも決めた。

日欧連帯の大切さに着目し、種をまいたのが安倍晋三元首相である。2007年1月、ブリュッセルのNATO本部を訪れ、日本の首相として初めて演説、連携の道筋を敷いた。

それから約15年。日米豪や英仏がインド太平洋で共同演習を重ねるなど、地道な協力はすでに進んでいる。この連帯がさらに深まれば、中国とロシアの強硬な行動を抑止するのにも役立つ。
中国の軍拡進み、厳しく

ただ、NATOとアジアの米同盟国は、競合のリスクも抱える。平時には外交や安全保障で協力する仲間だが、いざという事態になれば、米軍の戦力を奪い合う「ライバル」に転じかねないのだ。

米国は米ソ冷戦中、2つの大きな紛争が起きたとき、同時に対処できる体制を保った。しかし、オバマ政権は12年1月の国防戦略指針で、この二正面作戦を断念してしまった。

中国の軍拡が進み、米軍の状況は近年、さらに厳しくなっている。アジアと欧州を同時に危機が襲えば、米国は片方を優先せざるを得ない。その時、できるだけ多くの米軍戦力を自分たちに呼び込もうと、欧州と日豪韓はしのぎを削ることになるだろう。

米欧の間にも似たような火種がくすぶる。6月27~29日、ブリュッセルで開かれた米欧対話「ブリュッセル・フォーラム」で、その一端がうかがえた。参加したのは主に米欧の閣僚や議員、識者。論争の一つになったのが、どこまでNATOが中国問題に精力を振り向けるべきなのか、である。

ロシアによるウクライナ侵略が続く今も、米側は中国が最大の懸念だという立場を変えていない。米国の対中戦略にNATOから協力を得たいとも思っている。討論ではそんな期待がにじみでた。

米下院議員は「ロシアは問題だが、中国への対応も忘れてはならない」と力説。米上院議員も「米欧が一緒に中国に対抗すべきだ」と呼びかけた。
放置すべきではない火種

ところが、ロシアの脅威に直接さらされる欧州側は、納得しない。対中戦略は大切だが、まずはロシア対応を最優先すべきだと考える。欧州の元首脳は「ウクライナ侵略が続いている。ロシアこそ最大の問題だ」と言い切った。

参加者らにたずねると、米欧のズレはよりあらわになる。米民主党幹部は台湾有事の際、欧州側の支援を得たいと明かし、「今から、米欧の共同行動計画をつくる必要がある」と話す。

この点を聞くと、欧州の元閣僚は「NATOはメンバー国の安全を守るのが、最大の役割だ。台湾有事は日米などが中心に対処する危機であって、NATOが介入する戦争ではない」と退けた。

このような対立の火種を米国と欧州、アジアの米同盟国は放置すべきではない。西側諸国を分断する格好の材料を中ロに与えることになってしまうからだ。

互いの軍事戦略をすり合わせ、連携するほどの信頼関係が中ロにあるとは思えない。ただ「連携」があるかのように装い、中国がアジア、ロシアは欧州で同時に挑発を強めることはあり得る。そうなっても米国と欧州、日豪韓が結束を保ち、十分に対応できるよう、今から準備しておくに越したことはない。

アジアと欧州の二正面で危機が起きたとき、米軍はどのような戦力が足りなくなるのか、同盟各国はどう不足分を補うのか……。具体的には、こうした課題について米国と同盟国側が話し合い、対応を練ることが大切だ。

欧州で紛争になれば、主に陸上戦力、アジアでは海空の戦力がそれぞれ必要になる。だが偵察機や輸送機、輸送艦、弾薬、ミサイルなど両方に欠かせないモノも多い。これらをどう融通するのか、米安保専門家の間では、すでに議論が熱を帯びつつある。

むろん、二正面の事態にならないよう各国が連携し、アジアと欧州の両方で危機を封じ込めていくことが最善だ。それにはNATOと日豪韓が共同演習やパトロールといった目に見える協力を増やし、中ロの両方に抑止力を強めることが第一歩になる。
語られる悲観的シナリオ

さほど、ゆっくりはしていられない。欧州では、日本からは想像できないほど、対米同盟に悲観的なシナリオが語られている。

24年秋の米大統領選で、トランプ氏ないしは親トランプ的な候補が勝ち、米国はNATOからの脱退に動く――。欧州の当局者や識者の中には半ば本気で、心配する向きがある。

米国には「前科」がある。米報道によれば、トランプ大統領は18年、NATO脱退をいったん検討した。だからこそ欧州は今のうちに最大限、NATOを強め、米軍を引き留めようとしている。

アジアは米軍が戦力をシフトしようとしている地域であり、欧州とは事情が異なる。ただ、24年以降、米政界で何が起きても大丈夫なように、同盟の耐震度を強めておくべき点では変わらない。

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