太平洋、米中攻防の最前線 親中キリバスがPIF脱退表明

太平洋、米中攻防の最前線 親中キリバスがPIF脱退表明
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM116GI0R10C22A7000000/

『【スバ(フィジー)=松本史】太平洋の島しょ国とオーストラリア、ニュージーランド(NZ)が参加する太平洋諸島フォーラム(PIF)の首脳会議と関連会合が11日にフィジーで始まった。開幕直前、キリバスがPIFを脱退すると表明した。PIF側はキリバスの席を用意して翻意を促すが、同国に近い中国の意向がはたらいている可能性がある。この地域が米中攻防の最前線になる様相だ。

「キリバスがPIFから即時脱退する主権に基づく決断をしたと伝えたい」。キリバスのマーマウ大統領はPIFのプナ事務局長宛ての9日付の文書でこう主張した。脱退の理由としてプナ氏選任の手続きを巡る疑念や、14日までの首脳会議の日程がキリバスの独立記念日と重なることへの不満をあげた。

プナ氏は2021年5月、事務局長に就任。太平洋の島しょ国はミクロネシア、ポリネシア、メラネシアの3地域に分かれ、任期3年の事務局長は各地域の持ち回りで選ぶ「紳士協定」があるといわれる。21年はミクロネシア地域が自分たちの代表を就任させようとしたが、実際にはポリネシア地域のクック諸島出身のプナ氏が選ばれた。ミクロネシア地域のキリバスは納得していなかったもようだ。

米政府高官は記者団に「キリバスがPIFからの離脱を決めたとの報道を懸念している。PIFは結束した方がより強力で、この組織の目的の一つだ」と指摘した。

NZメディアはキリバス脱退の背後に「中国の存在があるとの疑いが募る」と伝える。キリバスは19年、台湾と断交し、中国と国交を結んだ。その後、米軍が駐留するハワイから約3000キロのキリバス領で中国が老朽化した滑走路の改修事業を支援することが決まった。

PIFはキリバスを含め18カ国・地域が太平洋の安全保障や経済協力を話し合う枠組みだ。年1回をめどに首脳会議を開く。米国が豪州やNZを通じて影響力を発揮している。キリバスが脱退すれば中国の利益になるとみられる。

キリバスとほぼ同時期に中国と国交を結んだソロモン諸島は4月、中国と安保協定を締結した。中国軍の駐留や艦船の寄港を認める内容だとみられ、今回の首脳会議の議題の一つでもある。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は5月、キリバスも同様の安保協定を中国と結ぶことを検討中だと報じていた。

5月に就任した豪州のアルバニージー首相は中国の動きに懸念を強める。豪州のコンロイ国際開発・太平洋相は6月下旬にフィジーの大学向けに実施したオンライン講演で、「豪太平洋防衛学校」を設立して太平洋島しょ国の国防・治安維持の関係者らに訓練を施す構想を披露した。

コンロイ氏は講演で、島しょ国の関心が高い気候変動問題に取り組む姿勢も強調。「豪州の前政権は気候変動問題に適切な対応を取らなかった」と述べ、「太平洋気候インフラ融資パートナーシップ」という枠組みを新たに設ける方針を示した。これを通じ、豪政府が気候変動関連のインフラ整備のため助成金やローンを提供する。

島しょ国は一枚岩でない。ミクロネシア連邦のパニュエロ大統領はソロモンと中国の安保協定に「深刻な懸念」を表明した。ナウルの大統領も12日現在で参加していない。表向きの理由は新型コロナウイルスの感染回避だが、これまでにPIFの事務局長の選出過程には不満を表明していた。

NZメディアはマーシャル諸島のカブア大統領も国内の事情で首脳会議を欠席すると報じた。

中国は1990年にPIFの「対話パートナー」となり、首脳会議には代表団を派遣してきた。今年はこのまま派遣を見送る方針だとされたが、最終日の14日に国交を持つPIF加盟の10カ国にオンライン会議を呼びかけたとの報道もある。』