[FT]中米コスタリカ 4月のランサム攻撃の後遺症

[FT]中米コスタリカ 4月のランサム攻撃の後遺症
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 ※ 今日は、こんなところで…。

『中米コスタリカ政府のデジタルガバナンスを統括するホルヘ・モラ氏は4月、部下の1人から報告を受けた。「(サイバー攻撃を)抑え込めませんでした。サーバーを暗号化されたため、全体を遮断しています」

コスタリカ政府へのサイバー攻撃に対し、チャベス大統領は緊急事態宣言を発動した=ロイター

悪名高いロシアのランサムウエア(身代金要求型ウイルス)の攻撃集団「Conti(コンティ)」による大規模なサイバー攻撃について、モラ氏は状況の最新報告を受けているさなかだった。攻撃は財務省から始まって連鎖的に広がっていき、最終的に数週間で27の政府機関が巻き込まれた。

政府のセキュリティーリスクが浮き彫りに

「規模の点で目を見張るような攻撃」(ある西側当局者)だった。ハッカーは通常、単一のシステムに不正アクセスするが、コスタリカのケースは国のIT(情報技術)インフラ全体のセキュリティーが弱い場合のリスクを浮き彫りにした。コンティは数週間、あるいは数カ月かけて、1つの省から別の省へと移りながら政府のシステム内を掘り進んでいた。

コンティ側は、最高2000万ドル(約27億円)の支払いと引き換えにデータを返すと持ちかけた。だが、コスタリカ政府は身代金の支払いを拒否した。新大統領に就任したロドリゴ・チャベス氏は緊急事態宣言を発動し、「裏切り者」さがしに乗り出すとともに、米国やスペインなどITに強い同盟国の支援に頼った。

「我々は戦争のさなかにある。これは誇張ではない」。5月半ばの大統領就任の数日後、チャベス氏はこのように述べ、テロに匹敵する混乱の全容を隠していたとして前政権を非難した。

コンティとのにらみ合いが続く中、コスタリカのデジタルインフラは数カ月にわたって部分的にまひし、オンライン徴税ができなくなったほか、公共医療と公務員の給与支払いに混乱が生じた。

その一方でコンティ側も、ウクライナ紛争で火がついたハッカー界の地政学的対立が波及して立ち行かなくなった。コンティが2月24日のロシアによるウクライナ侵攻への支持を表明した後、ウクライナ人とされる雇われハッカーの1人が裏切り、報復行為としてツールキットや内部のチャットなど秘密情報をインターネット上に流出させた。

英サイバーセキュリティー会社ダークトレースで脅威の分析を統括するトビー・ルイス氏によると、コスタリカがサイバー攻撃による影響への対処を続ける一方、コンティの大部分は情報流出後に瓦解したという。

ロシアのウクライナ侵攻で消えた攻撃集団

「2022年初めの時点では、今年もコンティのような集団が跋扈(ばっこ)してかなりの金を稼ぐ1年になる見通しだった」とルイス氏は言う。「それがロシアのウクライナ侵攻で全て終わった。ビジネス的に見て、ロシアを支持したのは最悪の判断だった」

コンティの過去最大規模の攻撃は、その最後の攻撃となった。セキュリティー調査専門家らによると、コンティがコスタリカなどの被害者をあざ笑っていたホームページと、(匿名性の高い闇サイト群の)ダークウェブ上にあった交渉サイトは6月末までに閉鎖された。

攻撃が広がっていく中で、モラ氏のチームはハッキングが他の政府機関に広がるのを遅らせるためにほぼ1カ月の間、毎日4時間睡眠で対応にあたったと同氏は語る。スペインからは、同国の国立暗号化技術センターが開発したランサムウエア対策用の保護ソフトウエア「マイクロクローディア」が届けられた。

米国は支援チームを派遣するとともに、マイクロソフトやIBM、シスコシステムズのソフトやノウハウを提供した。米国務省はコンティやその支援者を裁きにかけるべく、最高1500万ドルの賞金を出すと発表した。

モラ氏は、攻撃後の自分たちの懸命な努力と協力がなければ「財務省と同様の攻撃が50件起きていたはずだ」として、チャベス氏の批判を退けた。

ITシステム復旧はさらに複雑な状況に

だが、コンティが崩壊したことでコスタリカのITシステムの復旧努力は一層複雑な状況となっていた。捜査状況について説明を受けた西側のある当局者は、2000万ドルから100万ドルの間で揺れ動いた身代金の支払いにチャベス氏が応じていたとしても、「向こう側に誰がいたのか定かではない。6月までに、いわば誰も電話に出ない状態になっていた」と語る。

イスラエル企業サイバーイントのセキュリティー研究者シュムエル・ギホン氏は、「コンティはコスタリカで名を残そうと最後の必死の試みに出たような状況だった。なんとか評判を得ようとしていた」と語る。

これまでコンティは推計約400人のハッカーに加え、ツールキットを貸す不特定多数の協力者がいるとされ、21年には少なくとも600の標的から合計数億ドルの暗号資産(仮想通貨)を得ていたが、コスタリカへの攻撃から数週間で人員はたちまち数十人まで減った。
だが、別の形で再編成している形跡もある。その1つは、勃興から数カ月間で50の組織をサイバー攻撃した「BlackBasta(ブラックバスタ)」と呼ばれる集団だ。セキュリティー専門家らは、その攻撃スピードから、コンティから離脱した要員が攻撃対象のITインフラに関する情報を持ってブラックバスタに流れているようだとみている。

一方、コスタリカは4月のサイバー攻撃による影響への対処を続けている。ランサムウエア攻撃が成功した場合は全てそうであるように、ハッカー側から鍵をもらう以外にデータの暗号化を解除する方法はなく、ほとんどのシステムは、ウイルスに感染していないことを確認したバックアップデータで最初から作り直さなければならない。このプロセスは数カ月、場合によっては1、2年かかる可能性もある。

紙とメールでの作業を余儀なくされた通関業務

先ごろまでコスタリカは通関業務を紙と電子メールに頼らざるを得ず、全体に遅滞が生じていたと話すのは、輸出入関連サービスを提供する企業グルポ・デサカルガのモニカ・セグニニ社長だ。

「これはつまり、何年も使われていなかった保管スペースにコンテナが何日も滞留し、追加の費用を払わなければならないということだ」。そう説明するセグニニ氏の会社は法人税を自主的に納付しているが、管理されていない状態だという。「私たちはグレーゾーンで活動している」

政府高官は、通関や給与支払いを含めて、現時点で財務省のシステムの多くは復旧していると話した。

認知症にかかっているアレハンドラさん(65)の夫がインタビューで語ったところでは、コスタリカ国民への医療も滞っている。アレハンドラさんの場合は医師らが磁気共鳴画像装置(MRI)による以前の画像にアクセスできず、可能になるまで待たなければならないという。

理科の教師で低所得地区にある技術専門学校のアドバイザーを務めるスルマ・モンヘさんは、システムが時間外勤務を処理できなくなっているために給料が40万コロン(約8万円)少なくなっているという。

モンヘさんは貯金を取り崩して2人の子供の学費と、2つ目の学位取得を目指す自分の授業料を支払っている。「こんなことは今までなかった。遅れている給料がいつ支払われるのか、(財務省は)私たちに答えを示していない」

アルバラド・ブリセーニョ科学技術・通信相は、サイバー攻撃の再発防止に向けた取り組みも全て順調であるわけではないことを認める。

「Hive(ハイブ)」と呼ばれるハッカー集団は、コスタリカの社会保障サービスにサイバー攻撃を仕掛けた。スペインから供与されたセキュリティーソフトは2万セットのうち13セットしか実装されていない。

「大統領は不安を隠さず、非常にいらだっていた。我々はすでに攻撃を阻止するツールを少なくともいくつか入手し、攻撃は起きなかった」とアルバラド・ブリセーニョ氏は語った。「我が国はこれまで、この問題を必要なレベルで重大に受け止めていなかった。学んだ教訓は何か? 全ての機関に必要なサイバーセキュリティーを完備する出費を惜しむなということだ」

By Christine Murray & Mehul Srivastava

(2022年7月9日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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