[FT]オデッサ港に不気味な静けさ 黒海封鎖解けず

[FT]オデッサ港に不気味な静けさ 黒海封鎖解けず
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB101170Q2A710C2000000/

『黒海に面したウクライナ南部オデッサ港では、そびえるクレーンは立ち尽くすばかりで、海岸沿いのカフェやレストランに客の姿はほとんどなく、日が暮れると船影も全く見えない。

ロシアのミサイル攻撃で破壊されたオデッサ地域の集合住宅=ロイター

プーチン・ロシア大統領による侵攻はウクライナ全土に殺りくをもたらしているが、にぎやかな海上ターミナルや観光客の往来で知られる港湾都市オデッサには不気味な静けさが漂っている。

ロシアが2月に侵攻を開始して以来、オデッサ地域は度重なるミサイル攻撃の標的となっており、1日には娯楽施設と集合住宅が攻撃を受け、21人が死亡した。

ロシアはオデッサをはじめとする黒海の港湾封鎖を柱に、ウクライナの経済インフラをまひさせる戦略を強化しており、7月に入って穀物貯蔵施設もミサイル攻撃で破壊された。

近郊のピブデンニ港でターミナルを運営するトランスインベストサービスのアンドレイ・スタブニツァー最高経営責任者(CEO)によると「オデッサには、港湾運営、入港する商品を売る卸売市場、観光客という3つの収入源がある」が、「この3つは完全に途絶えている」という。

今回の戦争前、ウクライナは世界の穀物輸出の約15%を占める農業大国となり、オデッサは輸出拠点として重要な役割を担っていた。港は月500万トンの農産物の取り扱いが可能だった。

ロシア人富裕層好みの観光地

戦争前の人口が100万人を超えていたウクライナ第3の都市オデッサは、とりわけロシア人富裕層の間で主要な観光地の1つでもあった。宿泊施設のテレビには今でもロシアの番組が流れており、ロシア語は依然としてウクライナ語よりも一般的だ。

戦闘が勃発する以前、この地域では国内観光客も含めて年間400万人の訪問者を当てにできた。2014年にクリミア半島がロシアに併合され、立ち入りがほぼ不可能になると、国内からオデッサを訪れる人の数は増加した。

かつて人気を博したデリバシフスカ通りのバーは現在、地元民を呼び込もうと全力を挙げているが、客足は少ない。有名な「ポチョムキンの階段」をはじめ、オデッサの風光明媚(めいび)な観光名所の多くは、厳重な警備が敷かれた立ち入り禁止区域となっている。
観光客が不在であるばかりか、多数のオデッサ住民が逃げ出し、入れ替わりにウクライナ東部の猛烈な砲撃戦を逃れてきた避難民が流入。この地域では7万人以上が難民として正式登録されているが、当局によると実際の数は40万人にのぼる可能性がある。

オデッサにとって今回の戦争は大きな衝撃となっている。この都市はロシアと文化的に深いつながりがあり、当初は侵攻を支持する住民が無視できないほどいたと当局が認めている。だが「壊滅的な」戦争がそうした幻想を打ち砕いたと語るのは、地元の行政当局で対内投資・観光担当の責任者を務めるロマン・グリゴリシン氏だ。

同氏はかつてビジネス界のリーダーとのオンライン会議を取り仕切る日々を送り、30年開催の国際博覧会(万博)をオデッサに誘致する構想を描いていた。いまでは防弾チョッキの確保という任務が課され、戦争が招いた大きな変化に対処する方法を他の地元住民とともに学んでいる。「私たちの姿勢はこれまでとはまったく異なっている」と同氏は話す。
6月、収穫中のオデッサ地域の大麦畑=ロイター

スイス南部ルガノで最近開かれたウクライナ復興国際会議において、ウクライナは自国経済の再建にかかる費用を少なくとも7500億ドル(約100兆円)とする試算を公表した。だが、戦争もその影響分析もまだまったく終わっていない。

ピブデンニ港のスタブニツァー氏によると、穀物やヒマワリ油、鉄鉱石などの原料を含む1000億ドル相当の物資が、黒海封鎖によって足止めされているという。オデッサとその周辺の港では、数十隻の船舶がウクライナの海域から出られない状態だ。ウクライナの農家が作物を収穫しても、世界市場に簡単に届けられる代替ルートはないため、この数は増えるとみられる。

地場の物流サービス会社タリー・ロジスティクスのパートナー、アンドレイ・ソコロフ氏は「大混乱をきたしている」と話す。同社はルーマニアとの国境に近いレニ港などドナウ川の港で輸出業者の船腹予約を支援している。

ドナウ川にあるウクライナの小さな港は取り扱い能力を増強しているが、規模の大きい海上ターミナルを通っていた貿易量には及ばない。オデッサの南に位置するこうした港につながる鉄道は、ロシアのミサイル攻撃ですでに運行を停止しており、今や道路も攻撃の標的になっている。

ウクライナ議会で社会政策委員会のトップを務める地元当局者のスタニスラフ・ノビコフ氏は、外国の原材料や卸売品に依存する産業も黒海封鎖で機能不全に陥っていると指摘する。

同氏によると。地元企業の40%程度が部分的ないし全面的に稼働を停止している。東欧有数の鋼索・鋼線メーカーであるスタルカナトのオデッサ工場は、生産能力のわずか4分の1で稼働しているという。

「誰もが商品を売ったり原材料を仕入れたりする自信をなくしている。人材も不足している。多くの人が国を守ろうと戦闘の前線に向かったからだ」

オデッサは依然として、プーチン氏のミサイルやロシアの征服の標的になっている。軍事アナリストによると、ロシアが南部ミコライウ州の沿岸に執拗に砲撃を加えているのは、東部ドンバス地方と、隣国モルドバで親ロ勢力が実効支配する沿ドニエストル地方を結ぶ陸橋を築くため、ロシア軍を西に進軍させる作戦の一環かもしれないという。オデッサはその邪魔になる。

島奪還で封鎖解除の希望も

オデッサでは、少なくとも港湾については最悪期が過ぎ去ると希望を持ち続ける向きもある。ウクライナ軍が黒海西部の重要拠点ズメイヌイ(スネーク)島を先ごろ奪還したことで、黒海封鎖は解かれるとの期待が膨らんでいる。輸出業者の間では、トルコと国連が仲介する協議によって、ロシアに封鎖解除を迫れるのではないかと期待する声もある。

スタブニツァー氏は、沿岸防衛用に敷設された機雷が撤去される前であっても、ほとんどの港湾は封鎖が解除されれば数週間以内に操業を再開できるとみている。「私たちは機雷の敷設場所も、それを避けて通る方法も分かっている。みんな働きたくてたまらないので、操業再開は容易だろう」

だが、懐疑的な見方もある。ロシアがここ数カ月間と同様、商船を砲撃しないことに同意したと仮定しても、海軍の艦船が周辺海域を脅かし続ければ、商業輸送の保険料は法外に高くなる可能性がある。

港湾当局の元関係者、オレクサンドル・シチェンコ氏は「港湾封鎖を解除する方法を知りたいか」と問いかけた。「ロシアの艦隊を壊滅させればいい。それ以外の方法は彼らに理解されないだろう」

By Derek Brower

(2022年7月8日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2022. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

【関連記事】

・ロシア、国籍取得を簡素化 ウクライナ全住民に拡大
・数日内にトルコで会合か 黒海封鎖巡りWFPトップ
・ウクライナ軍、南部ヘルソン奪還作戦へ 住民に避難指示
・ウクライナ東部にミサイル ロシア、軍事施設攻撃と主張
・商品高、世界に追加コスト5兆ドル 石油危機に迫る負担
・「ロシアの盗難穀物船を解放」ウクライナ、トルコに抗議 』