イスラエルとアラブ諸国、対イラン「防空同盟」が浮上

イスラエルとアラブ諸国、対イラン「防空同盟」が浮上
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『【カイロ=久門武史】イスラエルとアラブ諸国の一部で、イランに対抗する防衛協力の議論が持ち上がっている。イスラエルが「防空同盟」の存在を明かし、ヨルダンのアブドラ国王は中東版の北大西洋条約機構(NATO)構想に支持を表明した。バイデン米大統領の13日からの中東歴訪は安全保障も議題になる見込みで、イスラエルとアラブ諸国がさらに接近する可能性がある。

イスラエルのガンツ国防相は6月、イランのミサイルやドローン(無人機)に対処する「中東防空同盟」を米国主導で構築したと国会で説明した。「既に運用されておりイランの攻撃の企てを阻止した」と述べた。他の参加国は不明だが、アラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンなど国交を持つアラブ諸国との3月の外相会議で、防空協力が提起されたという。

ガンツ氏は「バイデン大統領の中東訪問中にさらに前進することを望む」とも語った。バイデン氏はイスラエルに続き16日までサウジアラビアを訪れ、湾岸協力会議(GCC)とエジプト、イラク、ヨルダンの首脳会議に参加する予定だ。

中東諸国はドローンによる攻撃を差し迫った脅威とみなしている。2019年にサウジ東部の石油施設にドローンが突っ込み、今年1月にはUAEの首都アブダビへの無人機攻撃で3人が死亡した。いずれもイエメンの親イラン武装組織が自らによる犯行だと主張した。21年にはイスラエル系企業が運航するタンカーがオマーン湾で攻撃され、イスラエルはイランの犯行と断定した。

防空同盟が注目された6月下旬、ヨルダンのアブドラ国王は米CNBCのインタビューで「私は中東のNATOを支持する最初の一人になる」と述べた。枠組みや仮想敵には言及しなかったが、ヨルダンは隣国シリアでのイランの活動を警戒しているとの見方がある。

前後して米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、イランのミサイルやドローンに対処するため、米国がイスラエルやアラブ諸国と軍高官レベルの秘密会合をエジプトで開いたと伝えた。サウジ、カタール、ヨルダン、エジプト、UAE、バーレーンが参加したという。

中東で米国と防衛協力がある国々を束ねる構想としては、トランプ前米政権が「中東戦略同盟(MESA)」を唱えたことがある。アラブ版NATOと呼ばれたが、実現していない。ヨルダンのイスラエル研究センターのアブドラ・スワルハ所長は「バイデン氏はイランをけん制する同盟を中東につくり、イスラエルを組み入れたがっている」とみる。中国に対抗するため中東への関与を減らしたい米国の国益にはかなう。

しかし多くのアラブ諸国にとっては、パレスチナ問題で対立し国交のないイスラエルと公に手を組むのは現実的でない。サウジはこの件について沈黙を保っている。アラブ諸国間でも安保問題で一枚岩ではなく、エジプトは湾岸諸国ほどイランを敵視していない。エジプトのシュクリ外相は6月末「新たな同盟は大いに協議が必要で、提案されてもいない」と火消しに回った。湾岸諸国同士でも勢力争いがある。

一方で、対空防衛システム「アイアンドーム」などイスラエルの軍事技術は湾岸諸国にとって魅力的だ。イスラエルメディアは同国がレーザービームでドローンなどを撃ち落とす新兵器「アイアンビーム」をアラブ諸国に輸出できるようバイデン氏と調整すると伝えた。4月にこの兵器の実験成功を受け、当時のベネット首相は「SFのように聞こえるが現実だ」と強調した。

イランへの警戒心から近年、イスラエルとアラブ諸国が静かに近づく流れが続いてきた。イスラエルが20年に国交を正常化した国々とは防衛協力が公然と進む。イスラエルはバーレーンにおいては同国に司令部がある米海軍第5艦隊との連絡将校を常駐させている。イスラエルとUAEの国営の軍事関連企業は無人水上艦の共同開発に合意している。』