「アラブの春」逆行止まらぬチュニジア カギ握る労組

「アラブの春」逆行止まらぬチュニジア カギ握る労組
横田勇人
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB011YF0R00C22A7000000/

『2011年に中東各国を揺るがした民主化運動「アラブの春」で唯一の成功例とされた北アフリカのチュニジアで、民主化に逆行する動きが止まらない。21年7月に首相を解任して議会も停止し、国政を掌握したサイード大統領は自身への権力集中を一段と進める。大統領は民主化の集大成といえる「2014年チュニジア憲法」の改正を目指して7月25日に国民投票を計画しており、反対派との攻防は激しさを増している。

反大統領派のデモが散発的に続くチュニジアで6月初め、裁判官らがストライキを起こし、全国で法廷での審議などがストップした。異例の裁判所でのストのきっかけは、サイード大統領が6月1日に「腐敗し、テロリストを擁護している」として裁判官57人を解任したことだ。裁判官の組合はその後も約4週間にわたってストを行った。

大統領の司法への介入はこれが初めてではない。2月にはチュニジアでの「ジャスミン革命」後に司法の独立を確保するために設立された監視組織「最高司法評議会」を解散させ、代わりに暫定司法評議会を設立して裁判官の解任権も手にした。

大統領との対決姿勢強める労組

サイード大統領は21年7月、経済低迷に対応できない議会に対する国民の不満を背景に、自身に「例外的権限」を付与し、議会を停止して国政を掌握した。民主化に逆行する動きにもかかわらず、議会に愛想を尽かしていた国民の多くはこれを歓迎した。回答者の87%が議会停止に賛成したとの世論調査もあった。大統領は議会を正式に解散し、自身の息がかかった司法専門家を集めて憲法改正案を準備させるなど、議会制から実質的な大統領制への移行へ向けて着々と動きを進めてきた。今年12月には議会選を予定しており、4月には選挙管理委員会のメンバーの過半を入れ替えた。

サイード大統領は自らに権力を集中させている=ロイター

大統領が6月30日に公表した憲法改正案は、政府の監督権限を議会ではなく大統領が持ち、優先的な法案提出権や予算の編成権、閣僚の任命権や解任権を大統領に与えるなど権限を自身に集中させている。任期は5年2期までと規定しているが、「国家の危機」を理由に延長も可能だ。これに対して改憲案の起草を担当した憲法委員会のベライド委員長が「我々が大統領に提出した草案とは違う。恥ずべき独裁体制につながる」と強く批判するなど、その内容に懸念が広がっている。

今後の動きでカギを握るのが、この国で大きな存在感を持つチュニジア労働総同盟(UGTT)だ。UGTTはチュニジア民主化に貢献したとしてノーベル平和賞を受賞した4団体の一つ。フランスからの独立時に大きな役割を果たした歴史的経緯から国民からの信頼も厚く、全国に100万人を超す組合員を抱える組織力は他を圧倒する。ジャスミン革命でもその組織力がベンアリ政権打倒の決め手となった。

UGTTは当初、サイード大統領による国政掌握を容認したものの、その後は曖昧な姿勢に終始してきた。4月にサイード大統領と会談したヌーレッディン・タブビ事務局長は、危機から脱出する道筋を描くのに「パートナーシップ」が必要だとの認識で合意したと語った。
経済悪化が命取りにも

ただ、ここへきてUGTTは大統領との対決姿勢を強めている。6月16日、UGTTは大規模ストを決行し、空港が閉鎖され、公共交通機関が止まって政府庁舎が閉まるなど大きな影響が出た。

UGTTへの支持を表明するため集まった人々(6月16日、チュニスのUGTT本部前)=ロイター

ストはサイード大統領が国際通貨基金(IMF)との協議で受け入れた賃金凍結と補助金カットへの反対が理由だが、独裁色を強める大統領をけん制する狙いは明らかだ。ある組合のトップは「政府はUGTTと相談することなしに改革を進めてきた」とサイード大統領の姿勢を批判した。

憲法改正案についてUGTTは「大統領に幅広い権限を与えて他の組織の役割を縮小しており、民主主義を脅かすものだ」と批判したものの、組合員の国民投票への参加は容認する構えを見せている。

大統領が全く妥協する姿勢を見せないのは、機能不全の議会に憤っていた国民から今も支持されていると信じているからだ。確かにこれまでのところ、反大統領デモは広がりを欠いている。ただ、大統領が一連の改革について国民の信任を得ようと実施したオンライン調査は参加した人が有権者の10%に満たず、思惑が外れた。6月4日からは大統領の呼びかけで「国民対話」が始まり、初会合には一部政党や経済団体、女性団体の代表などが参加した。しかしUGTTや主要政党は会合をボイコットした。

その一方、インフレ率が8%近くに達して食料品が手に入りにくくなるなど経済状況は深刻さを増している。サイード大統領が3月、食料不足について「間違ったニュースや情報」を流せば罪に問える大統領令を出したのは現状に対する危機感の表れといえる。

議会の経済無策を批判して国政を掌握した大統領にとって、経済のさらなる悪化は命取りになりかねない。予定通りに国民投票で改憲の承認を受け、大統領の思惑通りに議会選に進めるかは不透明感も漂っている。

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