「長期視点で経済改革」 米識者に聞く安倍氏の功績

「長期視点で経済改革」 米識者に聞く安倍氏の功績
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN08FIA0Y2A700C2000000/

 ※ アベノミクスの「三本の矢」とは、

 1、長期金利の引き下げ(金融政策 → お金を借りやすくして、経済活動を活性化する)

 2、成長が見込まれる分野に、公共事業予算を厚く配分する(財政政策 → 民間が参入して来やすくして、新規事業の立ち上げを促進する)

 3、構造改革(これまでのしがらみ・行きがかりから、ガチガチの規制がなされているものを、「規制緩和」して、新規事業が可能なようにする)

 という構想だった…。

 しかし、現実には

 1 → 日銀が頑張って、「異次元緩和」を続けたが、「マイナス成長」からの「脱却」が、精一杯のところで、「リフレ(2%程度の物価上昇)」状態までには、もっていけなかった…。そこへ持って来て、ウクライナ事態に起因するエネルギー価格・食料価格の上昇が襲って来て、海外中央銀行との「金利差」に起因する「円安」も重なって、「悪いインフレ」に見舞われそうになっている…。

 2 → 最初のうちこそ、それなりに「予算が潤沢についた」が、いつのまにか「尻すぼみ」になって、「元の木阿弥」の「均衡・緊縮」財政に戻ってしまった…。
 財務省の「財政健全化にも、ご配慮願います。」の声が、通ったんだろう…。

 3 → 「規制緩和」の意欲はあったが、現実には困難だった…。

 幼保一体化(幼稚園は、文科省管轄で、保育園は厚労省管轄というのを止めて、一元化した仕組みを作る)、獣医師をもっと増やす(加計学園スキャンダルで、ポシャった)、諸悪の根源とされる電波免許制に入札制度を導入するべく「電波オークション」を実施する案も、いつの間にか尻すぼみとなった…。
 菅さんが、強力に旗を振った、「ケータイ・スマホ料金値下げ」がやや実現したくらいか…。
 カジノを含むIRも、ワイロ取った国会議員が出たりして、世論の非難を浴びた…。
 
 まあ、そういう感じか…。

『8日に死去した安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」の評価について、米国の識者に聞いた。

高い伝達能力で国民に安心感

日本経済に詳しいコロンビア大のデービッド・ワインスタイン教授

デービッド・ワインスタイン氏(コロンビア大教授)

「アベノミクス」を非常に効果的な政策にした理由のひとつに、安倍晋三元首相の伝達能力がある。3つの目標を明確にし、日本の抱える問題をあぶりだすとともに、道筋を明示することで国民にある種の楽観を与えた。安倍氏は多くの卓越した経済学者と交流し、自身が学び、政策に生かした。アベノミクスは単なるスローガンではなく、注意深い経済的な分析から生まれた。

金融政策について、日本はデフレの収束へ対策が打てていないと批判されてきた。安倍氏が2度目の首相に就任後すぐ、日銀総裁に黒田東彦氏を指名したことは重要な分岐点だ。期待通りの物価上昇率とはならなかったが、長年苦しんできたマイナス圏からは抜け出した。

財政政策については消費税の扱いも含め非常に難しいかじ取りを迫られた。財政危機を懸念する声も上がったが、そうならなかった。3本目の矢(成長戦略)は最も重要かつ難しい目標だった。構造改革はひとつの政策では終わらないからだ。女性活躍が経済を活性化させる「ウーマノミクス」は機能したと思う。内閣にも多くの女性を起用した。

初めて安倍氏と面会したのは、1度目の首相辞任後すぐだったと記憶している。うまく物事を回せなかったことを振り返る率直さに驚いた。次はもっとよい仕事をしようと学んでいた。

第2次政権下で面会した際、安倍氏は「いかに迅速に国を変えられるかには限界がある」と打ち明けた。改革を推し進めたいが、急ぎすぎることもできない。選挙で負けてしまうからだ。彼は一夜にして日本を変えるのではなく、規制改革などを通じて長期視点で変えたいと考えた。

安倍氏がいなくなることは、海外の投資家に大きな影響は及ぼさないとみている。既に首相の座を退いており、安倍氏の政策による恩恵を享受しているためだ。日本の政治が世界各国と比べて極めて安定していることも理解している。

今の日本を取り巻く環境は安倍氏の首相在任中と大きく変わった。深刻なエネルギー危機に見舞われている。安倍政権時代、経済安全保障は今ほど重要な問題ではなかった。ロシアや中国、北朝鮮と日本の近隣諸国の環境は厳しさを増す。こうした課題への対処が岸田文雄政権の重要な部分を占めるだろう。

(聞き手はニューヨーク=大島有美子)

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自由貿易の推進、日本への認識変えた

ピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン所長

アダム・ポーゼン氏(米ピーターソン国際経済研究所所長)

アベノミクスは実に画期的な政策だった。安倍氏は民主的に選ばれた指導者が多様な利害関係者に対し短期的に反応するのではなく、長期的な視点に立って政策を展開することで再選を勝ち取れることを実証した。人々の日本に対する認識も変わった。米国や英国など他の高所得の民主主義国家が外に目を向けることで何が可能かを示したという意味でも、並外れた変化をもたらした。

人口減の問題を抱える日本にとって、女性の才能を生かし、労働参加を進める「ウーマノミクス」は最良の方法だった。包括的・先進的環太平洋経済連携協定(CPTPP)を通じて農業をはじめとする産業を開放し、日本が他国との結びつきを強めたのも大きな成果だ。経済外交では米国との同盟関係を強化しつつ、中国とも経済的に敵対することがないようにする強力なリバランスに動いた。

積極的な財政・金融政策でデフレから(物価が上昇に向かう)リフレに導くというコミットメントもあった。これは完全に成功したとは言いがたい。ただ、もしそれまでと同じ政策を続けていれば日本経済はもっと悪くなっていただろう。安倍政権時に進んだ円安については、日本の物価上昇や経済に与える影響は小さく、それは今の円安局面でも証明されている。

安倍氏の死去で影響が大きいのは金融政策だろう。首相在任時は黒田東彦総裁と関係を築き、首相辞任後も緩和姿勢を後押ししてきたが、黒田氏は来春に退任する。岸田文雄首相は新しい総裁や政策委員を任命する際に金融政策の方向性を変えるチャンスを持つが、あまり極端に政策を変えるべきではない。日銀が今の政策を続ければ、おそらく日本は2%のインフレ目標を達成できるだろう。

財政政策はあまり変わらないとみるが、変化は可能だ。米国ではケネディ大統領が暗殺されたあと、後任のジョンソン大統領は積極的な財政政策や公民権政策をとり、自らの政治課題を推進した。

安倍政権以後のここ10年を振り返ると、日本の経済状況は他の先進国と比べ良かった。国内総生産(GDP)の変動は小さく、失業率は低く、デフレは進まなかった。ただ改善の余地も大いにある。働く女性をさらに平等にし、日本への海外投資を増やし、企業統治を改善する。CPTPPで他国をリードし、留学生や外国人労働者の受け入れも進めるべきだ。

(聞き手はニューヨーク=斉藤雄太)

女性の地位向上、政策で道筋

サード・アロー・ストラテジーズ創業者のトレイシー・ゴパール氏

トレイシー・ゴパール氏(コンサルタント会社サード・アロー・ストラテジーズ創業者) 日本の企業統治やダイバーシティー(多様性)向上のために私が代表を務める団体は、安倍晋三元首相が進めた経済政策の柱である「3本の矢」にあやかって名付けた。サード・アロー(3番目の矢)の中心は女性の地位向上だ。

企業の取締役や幹部への女性の登用は、2020年時点でも日本政府が定めた目標に達していない。しかし、企業の幹部や女性社員と話すたびに、日本でも着実に改革が進んでいることがわかる。日本企業のダイバーシティーは大きく改善し、ペースは年々速まっている。安倍元首相による3つの矢の政策が目標達成への道筋を作った。

ESG(環境・社会・企業統治)の向上を通じて日本企業の価値を高めようという我々の活動を説明する際には、必ず安倍氏の政策に言及する。私のライフワークは安倍氏の提唱した改革の中身を推進することで成り立っているといえる。安倍氏の政策が今も生きており、日本経済の活性化につながっていると信じている。

(聞き手はニューヨーク=伴百江)』