[FT]LNG大国カタール、天然ガス逼迫で影響力を高める

[FT]LNG大国カタール、天然ガス逼迫で影響力を高める
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『中東のカタールは20年以上前に液化天然ガス(LNG)の輸出を開始して以来、小国ながら世界の商品市場で大きな役割を担う存在になった。

カタールの港に停泊するLNG輸送船=AP

そして今、ロシアのウクライナ侵攻と一連の新たなガス田開発契約を経て、世界のエネルギーの流れに及ぼす影響力はさらに高まろうとしている。

国営石油・ガス会社カタールエナジーは、この数週間で世界の石油大手5社と総額290億ドル(約3兆9000億円)規模の共同開発事業で合意したと発表した。「ノースフィールド・イースト」と呼ばれる巨大プロジェクトだ。

2026年までにカタールの年間輸出能力を7700万トンから1億1000万トンに増強する計画で、実現すればオーストラリアを追い抜いて米国に次ぐ世界2位のガス生産国となることに貢献する。

初輸出先は日本

英シェル、米エクソンモービルと同コノコフィリップス、仏トタルエナジーズ、イタリア炭化水素公社(ENI)との交渉は数年越しで、ロシアとウクライナの戦争を受けてエネルギーの代替供給源の確保を急ぐ動きが広がった結果ではない。

だが、欧米のエネルギー大手がこれほどプロジェクトに参加したがったのは、ガス超大国としてカタールの重みが増していることの証しだ。「カタール進出は我々にとって大きな節目だ」とENIのクラウディオ・デスカルツィ最高経営責任者(CEO)はフィナンシャル・タイムズ(FT)紙に語った。

ペルシャ湾のカタール半島北東に位置し、イラン領にまたがる世界最大級のガス田「ノースフィールド」は1971年に発見された。初めてLNGを輸出したのは96年で日本向けだった。

英調査会社ウッドマッケンジーによると、カタールは2010年まで世界最大のLNG供給国だった。同年の生産量は5500万トンだった。

世界首位の座を豪州、米国と10年間争った後、ロシアのウクライナ侵攻に伴う混乱でカタールは再び重要性を取り戻したと、英コンサルティング会社クリストル・エナジーのキャロル・ナフルCEOは言う。

「非ロシア産ガスに対する需要急増が新たな景色を作り出している」と同氏は指摘する。「(米国での)シェール革命の後、カタールは最大級の存在というイメージが薄れたが、国際舞台に戻るチャンスが訪れている。ガス市場の重要なプレーヤーであると同時に、欧米との関係改善を通じて政治的得点を稼げるという観点からだ」と話す。

第2段階の「ノースフィールド・サウス」により、カタールは27年までに輸出能力を年間1億2600万トンまで高められる。

人口わずか300万人のカタールは長い間、地域大国のサウジアラビアとイランから自国を守る手段として、多様な2国間関係を維持しようと努めてきた。サウジは陸続きで国境を接する唯一の国だ。

19世紀からサーニー家が支配するカタールは2000年代初め、地域司令部を含む米軍の駐留を受け入れた。バイデン米大統領は5月、カタールを北大西洋条約機構(NATO)非加盟の主要同盟国に指定した。

1990年代に最初のノースフィールド開発プロジェクトのために巨額の借り入れをして以来、カタールはガスによる収入を政府系ファンドのカタール投資庁(QIA)に流している。QIAは11年に仏サッカーチームのパリ・サンジェルマンを買収するなど、話題になる投資でカタールの国際的な存在感を高めている。

ガス収入は11月に開催されるサッカーワールドカップ (W杯)カタール大会の運営費用にも充てられる。中東でのサッカーW杯開催は初めてだ。

長期契約には買い手の抵抗感も

ウッドマッケンジーのLNG専門家フランク・ハリス氏によると、カタールは長年、LNGの大部分を長期契約でアジアの電力・ガス会社に売り、信頼できる供給元として「抜群の定評」を確立している。このことは、エネルギーの調達先を産油国ロシアから別の国に切り替えようとしている欧州各国の一部にある懸念の緩和につながり得る。

英調査会社エナジー・アスペクツによると、カタールの長期契約による輸出の約3分の2がアジア向けだが、ノースフィールド・イーストではバランスを取り、半分ほどを欧州に振り向ける意向だ。

「今はカタールと米国の長期的な覇権争いだ」とハリス氏は言う。

エナジー・アスペクツのアナリスト、レオ・カブーシュ氏は地理的な条件からカタールは米国よりも欧州とアジアへの供給に適していると指摘する。

ロシアに代わるガス調達先を模索する中でドイツは5月、カタールエナジーとドイツ企業の協議がまだ進行中だが、カタールとエネルギーに関する基本合意を交わしたと発表した。欧州最大の経済国ドイツにとって「扉を開く」ものだとしている。その数日後にQIAは英国への100億ポンド(約1兆6000億円)の投資を約束し、カタールと英国の関係が深まっていることを示した。

欧州の買い手にとって1つの難点は、カタールが仕向け地固定の長期契約を伝統的に好んでいることだ。米国の生産者は買い手側がガスをどこにでも運べる柔軟な契約をしており、欧州では一般的に後者が好まれる。

欧州の買い手は、最長25年間の契約を結ぶことにも抵抗感が強いとみられる。ほとんどの指導者が脱炭素化すると期待する将来の世界でガスが果たす役割が不透明だからだ。

エクソン、トタル、ENIなどの国際パートナーの極めて重要な役割は、増産分の販売を助けることにある。カタール側は共同事業契約に調印するまで少なくとも3年間待ち、5つの共同開発全体で25%の権益を与えただけだ。

ウッドマッケンジーのハリス氏は「ノースフィールド・イーストはパートナーを持つことの価値を示しているが、カタールが支配権を握っていることは非常にはっきりしている」と話し、カタールは温暖化ガス排出量の削減にも「大きな努力を傾けている」と語った。
顧客側がこれから50年までの間に二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロに減らすとしても、カタールエナジーはガス市場を確保できるように、CO2回収技術でLNG関連施設からのCO2排出量を35年までに35%減らす計画だ。

「現在、特に欧州などで明らかになっているようにエネルギーの移行には時間がかかり、LNGはつなぎの燃料になる」とエナジー・アスペクツのカブーシュ氏は言う。「その意味において、欧州であれアジアであれ、企業や輸入業者には規則正しく信頼できる供給が重要になる」

By Tom Wilson and Simeon Kerr

(2022年7月6日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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