ロシア産ガス禁輸、調整急ぐ欧州 「日本外し」の現実味

ロシア産ガス禁輸、調整急ぐ欧州 「日本外し」の現実味
ウクライナ侵攻が裂く世界㊥ 欧州総局長 赤川省吾
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR0606D0W2A700C2000000/

『欧州連合(EU)、主要7カ国(G7)、北大西洋条約機構(NATO)と続いた6月下旬の3つの首脳会議で、焦点のロシア産ガスの輸入禁止は見送られた。だが「実現するはずがない」とみるのは早計だ。欧州では水面下で「脱ロシア」の準備が進む。日本がロシア産ガスにこだわり続ければ「抵抗勢力」とみなされ、議論から取り残される恐れがある。

広がる禁輸容認論

ガス禁輸に踏み込むべきか。首脳会議の直前、英首相官邸関係者に質問をぶつけると即答した。「もちろんだ。ロシアの戦意をくじく」。それでも結論は出なかった。エネルギーをロシアに依存する欧州が及び腰――。日本ではそんな見方が広がる。

確かに表向き欧州勢は「時期尚早」との立場をとる。だが実際にはロシア産ガスの依存度が5割に達するドイツですら、じわじわ禁輸容認論が広がる。

ドイツ与党・社会民主党(SPD)もこれまでのロシア融和策を転換した(写真はベルリン市内の党本部)

「過渡期が終わればドイツも欧州もロシアからガスを買うつもりはない。ロシアは石油・石炭・ガスで収入を得ている。それに歯止めをかける」。じっくり話を聞こうと国会の議員食堂で記者とテーブルを囲んだ与党・ドイツ社会民主党(SPD)の外交担当、シュミート議員は断言した。あまりの率直さに、発言内容を再確認しても臆するところはない。それだけ決意は固い。

変化した潮目

シュミート氏は「ロシア依存度が高いからガスはやっかい」と認める。脱ロシアには「時間がかかる」とも説明を加えた。それでも潮目が変わったのは明らかだ。SPDは戦後ドイツの対ロシア融和策をけん引したが、いまはロシアとの断絶を覚悟する。

もともと対ロシア強硬派で連立与党の一角を占める自由民主党はさらに手厳しい。「長年にわたってロシアにだまされた。過ちを認め、少しずつ関係を断ち切っていく」(外交担当のレヒテ議員)。ドイツ政界は、もはや禁輸の是非ではなく、「いつ禁輸するか」を念頭に置く。ベルリンで取材を重ねると、そんな印象を受ける。

ほかの国も似たり寄ったりだ。ガス禁輸に踏み切らなくても、ロシアのほうが供給を止めるかもしれない。「脱ロシアを見越して政策を考える」。オーストリア政界の重鎮は、政治家が集うウィーンの老舗カフェ・ラントマンでご当地コーヒー「メランジュ」をかきまぜながら語った。

ロシア産ガスが途絶すれば物価急騰は避けられない。低所得者向け補助金(社会保障政策)、企業向け減税(財政政策)、インフレ対策(金融政策)などを組み合わせるポリシーミックスの検討に入るという。
イタリアのドラギ首相(中央)はG7サミットでガス価格の統制を訴えた=ロイター

ドイツで開かれたG7サミットでもガス禁輸を意識した議論があった。サミットは石油価格の抑制策で合意したが、イタリアのドラギ首相はガス価格も統制すべきだと訴えた。物価高騰は極右勢力の追い風となる。来年の議会選をにらみ、先手を打とうとした。

サミット会場で取材した欧州の複数の政府高官によると、事務レベルで突っ込んだ話し合いがあったという。例えばロシア産ガスを運ぶ船舶を制裁したり、保険の対象から外したりすることを検討した。来年の20カ国・地域(G20)議長国インドにも根回しし、「反対しない」ことを確認した。

ただ議長国ドイツは法整備の難しさに尻込みした。船舶制裁を科せば海運国ギリシャが反発し、EU内の亀裂が深まりかねない。それゆえ「ガス価格統制」を首脳宣言に盛り込むのは見送られたが、実現可能性がなくなったわけではない。
「日本が最も強く反対した」

気になるのは「日本が最も強く反対した」と複数の欧州政府筋が記者団に漏らしたことだ。

日本は欧米ほど物価高騰への切迫感がないにもかかわらず、脱ロシアの機運に乏しい。ロシアが極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」で揺さぶりをかけると、萩生田光一経済産業相は「引き続き(エネルギーの)安定供給が守られるよう官民一体で対応したい」と述べた。

初めてNATO首脳会議に参加し、開催国スペインのサンチェス首相(左)と握手する岸田首相(マドリード)=共同

それでも欧州で表立った日本批判がないのは、足元の対立構図を「ロシアVS欧米先進国」に矮小(わいしょう)化したくないとの意識があるからだ。このためG7では日本に配慮し、NATOでは日韓などを招いた。「日本はアジアにおける民主主義の守り手」。6月、ショルツ独首相の側近は番記者との懇談で日本を持ち上げた。

米国が11月の中間選挙後も内向きにならずにロシア強硬路線を貫けば、それに欧州も同調し、さらに脱ロシアの議論が加速する。欧州流の妥協を重ねながらEUはなんとか域内をまとめようとするだろう。

来年、G7議長国となる日本は「蚊帳の外」になりかねない状況を自覚すべきだろう。ロシア産エネルギーにこだわり続ければ抵抗勢力と見なされる恐れすらある。将来起こりうる極東の有事もにらみ、強権国家に毅然と対峙すべきだ。民主主義陣営を支える柱としての日本の存在感を示すチャンスである。

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伊藤さゆり
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究理事
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分析・考察

ロシアから天然ガスを武器とする揺さぶりをかけられるEUの苦境を先例として、日本で、経済安全保障を含めた国家安全保障体制全体の見直しが加速することを強く願うようになった。
いったん対立関係になれば、相手方は、最も効果的なタイミングで、脆弱なポイントを攻撃して、行動を変えさせようとする。
日本は、防衛だけでなく、エネルギー、食料自給率、財政事情などの面でも欧州主要国より脆弱だ。欧州のように価値を共有する単一市場での相互融通もできない。
ウクライナ侵攻から「力による現状変更は経済的な利益に見合わないことが立証され、リスクは低下した」といった安易な結論を引き出し、脆弱さを放置すべきではない。
2022年7月8日 7:53 』