「分断」深めた剛腕の3年 ジョンソン英首相辞任へ

「分断」深めた剛腕の3年 ジョンソン英首相辞任へ
欧州総局長 赤川省吾
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR07BEZ0X00C22A7000000/

『ジョンソン英首相が7日、辞任を表明した。3年間の在任中、英国は半世紀ぶりに欧州統合の枠組みから抜け、対ロシア・対中国で強硬路線に転じた。一方、英北部スコットランドでは独立運動に火が付いた。英国と欧州の分断を深めた政権として戦後英国史に刻まれることになるだろう。

6月の主要7カ国(G7)首脳会議で、ジョンソン氏の発言が波紋を呼んだ。「いま問題を解決しようとすれば状況はさらに不安定になる」。こう言って、ロシアとウクライナの仲介に意欲をみせるフランスのマクロン大統領をたしなめたという。

対ロシアで団結すべき舞台で、あえてフランスとの溝をみせたジョンソン氏。G7を主導していると演じ、足元の不祥事から有権者の視線をそらしたい――。なりふり構わぬやり方に、欧州各国の高官は眉をひそめた。

分断で求心力を高める「剛腕」がジョンソン氏の十八番(おはこ)だった。最大の「功績」はなんといっても欧州連合(EU)からの離脱だ。欧州から抜け、世界に羽ばたこうとする「グローバル・ブリテン」構想に英保守層は拍手喝采した。

英国は古い社会構造が温存され、階級、所得、地域の格差が大きい。くすぶる不満の矛先をEUなどの「仮想敵」に向ける手法は、米国のトランプ前大統領に似る。

副作用は大きい。民主主義陣営が結束すべき局面で2つの分断を残した。

まずEUとの対立。離脱後の英国が合意済みの通商ルールを一方的に変更しようとするなどの挑発を繰り返した結果、信頼関係が根底から損なわれた。

次は国内の亀裂。強引なEU離脱の反動で親欧派が多いスコットランドで独立機運に再び火がつき、国家解体のリスクが忍び寄る。

こうした分断は次期政権に持ち越され、内政を揺さぶり続ける。EU離脱に伴う人手不足と物流混乱などが庶民生活を直撃し、皮肉にも政権批判となって返ってきている。

G7を見渡せば仏与党は下院選で敗北し、秋の中間選挙を控えた米政権には逆風が吹く。イタリアは来年の議会選で極右政党が第1党になる勢いだ。民主主義陣営の内向き志向はロシアを利する。強権国家との我慢比べは、まだ始まったばかりだ。来年、G7議長国の日本が果たすべき役割は大きい。

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伊藤さゆり
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究理事
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ひとこと解説

不満の矛先を「仮想的」に向ける手法は、ロシアのプーチン大統領とも通じる。ロシアによるウクライナ侵攻で社会の空気が変わり、嘘をものともしないジョンソン首相の個性が許容されなくなった。
英国の深刻なインフレ、人手不足はEU離脱とも関わりがあるが、離脱を推進し、成果を強調したいジョンソン首相は負の側面を認めることができなかった。高技能人材重視の移民政策で、社会を支える単純労働力の不足を放置するなど、問題への対処が遅れた。
日本にとっては、インド太平洋重視を加速し、強調したジョンソン首相は心強い存在だったが、国内の不満、隣接するEUとの関係悪化を放置する政権の行き詰まりは時間の問題だった。
2022年7月8日 7:25 (2022年7月8日 7:54更新)

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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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ひとこと解説

EU加盟で発言力が低下し、大英帝国の「埋没」に不満を募らせる英国民は、意外に多かったのだろう。そこに登場して英国のEU離脱(ブレグジット)を達成した個性ある政治家がジョンソン氏だったのではないか。とはいえ、その政治スタイル、続出する不祥事と説明の拙さは、アンチを増やすことにもつながった。そして、長年の盟友も含めて閣僚らが次々と辞表を提出してきた末の退陣表明という、屈辱的な流れである。振り返ってみると、ブレグジットが成就した時点で勇退していれば、ジョンソン氏にとってベストだったのかもしれない。新型コロナウイルス感染拡大への初期対応の失敗も印象的。最後はウクライナ訪問時にしか喝さいを浴びなかった。
2022年7月8日 7:56 』