[FT]チュニジア新憲法案が大統領に許す「不名誉な独裁」

[FT]チュニジア新憲法案が大統領に許す「不名誉な独裁」
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『チュニジアは、2011年の中東・北アフリカの民主化運動「アラブの春」の後、民主主義への移行を遂げた唯一の成功例としての地位を固めたようにみえた。同国が前に採択した憲法は、2年間の公の議論を経て法改正された。

元法学教授のサイード大統領は政党に所属していない政界アウトサイダーだ=ロイター

それから8年たった今、チュニジア国民の承認を待ち受けている新憲法案は、議会を停止するために戦車を送り込んだ大統領の下、20日足らずで作成されたものだ。

サイード大統領は昨年9月から強権で国を支配し、司法の独立を守る評議会を解散し、自ら任命した人物を選挙委員会に据えた。野党の政治家は、7月25日に国民投票にかけられる新憲法はチュニジアが一層の権威主義に陥っている新たな兆候だと話している。

先週公表された憲法改正案は大統領権限を大幅に強化する内容で、サイード氏に選ばれた法律の専門家によって非公開の会議の場で起草された。一部の専門家は今、新憲法案からは距離を置いている。

「不名誉な独裁体制」につながる可能性

新憲法の起草委員会を率いたサドク・ベレイド氏は3日、地元メディアに対し、憲法改正案は6月20日に自分が大統領に提出した文書とは似てもいないと語った。さらに改正案を「危険」だと指摘し、「不名誉な独裁体制」につながる可能性があると述べた。

提案されている新憲法は、政府と司法に対する究極の権限を大統領に与える。大統領は議会を解散できるようになり、国家に対する差し迫った危険を理由に、現行法で許されている2期(1期5年)を超えて大統領の座にとどまることも認められる。また、大統領が取った行動を「問いただすことは許されない」とも記されている。

「2014年(の憲法改正)は健全なプロセスで、インクルーシブ(包摂的)で透明性があり、全世界に称賛された」。現行憲法を起草した民選議会(制憲議会)のメンバーだったネジブ・チェビ氏はこう話す。「現在の行程は法律と憲法に関する国際基準に反している。今、この国は政治的、経済的な危機を抱えており、こうした危機は国民投票では解決できない」

同氏などの一部の政治勢力は7月25日の投票をボイコットするよう呼びかけている。サイード氏は以前、政党を支持せず、強力な大統領制の方が好ましいとの考えを明確にしている。「これまでの経験から、2014年憲法はこの国に合っていないことが証明された」と語ったと伝えられている。一部には、14年憲法はもともと大統領と議会に権力を分散させることにより、膠着状態を引き起こす可能性が高かったと主張する人もいる。

元法学教授で、政党に所属していない政界アウトサイダーのサイード氏は、19年の地滑り的な勝利で大統領に選出された。この大統領選の結果は、小競り合いを繰り返すチュニジア政界に対する非難と見なされた。弱い連立政権が相次ぎ誕生し、いずれも深刻化する経済危機に対処できなかったからだ。

21年、サイード氏がシステム全体を一掃したことは、破綻しかけた経済と対立が絶えない政治家にうんざりした国民から幅広い支持を得た。カーネギー中東センターのハムザ・メッデブ研究員は、大統領はその後、「人気を若干失った」可能性が高いと言う。経済はまだ危機から脱しておらず、若年失業率は38.5%に上り、ロシアのウクライナ侵攻によりインフレ率は7.8%にまで達したからだ。しかし、同氏やその他の識者は、国民の不満は民主主義を取り戻そうとする大規模な運動に発展していないと指摘する。

ワンマン支持する声も

街頭では、民主主義の恩恵が限られていることへの不満がよく聞かれる。

首都チュニスの臨海地区クラムでは、引退した運輸労働者のハメド・ベンハモウダさんが物価急騰について嘆きつつ、「我々は10年間、政党を試したが、何の成果も生まず、分裂と争いが起きただけだ。私は大統領を信頼し、問題を解決してくれるのを待っている」と語った。

クラムで買い物をしていたハナン・マルゾウキさんは「たとえワンマン支配を復活させたとしても、大統領はやはりいい人です」と話している。

メッデブ氏は、サイード氏の政党批判によってあおられた「アンチ政治感情」がはびこっていると指摘し、「政治は今、日和見主義と恩顧主義に等しいものとして多くの人から拒絶されている」と話す。「もしこの国が独裁政治へ戻るようなことになれば、大きな失望を招く。民主主義を改めることができたはずだ」

チェビ氏のように対話を呼びかける人もいるが、サイード氏はチュニジアの政治家を疎外し、対話することも妥協することも拒んでいる。「サイード氏は頑固で、取引をするような人ではない」とメッデブ氏は言う。

今年3月に独立組織の最高司法評議会を解散した後、サイード氏は6月初旬、汚職に手を染めたり、テロリストを守ったりしたと批判して57人の判事と検察官を解任した。解任を受けて司法がストライキに踏み切り、3日に終了するまで4週間も続いた。大統領が解任の決定を覆さなければ、さらにストを実施する構えだ。

「法の支配が保たれていない」

チュニジア判事協会の副会長を務めるアイシャ・ベン・ハッサン氏は、解任された検事らが標的にされたのは、サイード氏の政敵を訴追することを拒んだためだと話す。「我々は大きな不安を抱えている。(大統領の)狙いは今、政敵を排除するよう判事に圧力をかけることだからだ。11年の革命後に司法が確保した自由がどうなるのか我々は心配している」

昨年のサイード氏の権力掌握以来、サイード氏の政敵はさまざまな制限と断続的な抑圧について不満をこぼしてきた。身柄を一時拘束されたり自宅に軟禁されたりする人もいれば、移動を阻止された人もいた。元閣僚で、停止された議会で穏健派イスラム政党アンナハダの議員だったサイダ・ウニシ氏は、6月に旅行しようとした時に空港で止められた。自分に対する訴訟は思い当たらないと言い、これは「威嚇を狙った」行政判断だったと考えている。

アンナハダは11年の革命前に政治活動を禁止され、党員は抑圧され、拷問にかけられ、投獄された。今ではサイード氏の最大の標的で、多くのチュニジア国民は同党の政治工作が政府の機能不全の原因だと考えている。ウニシ氏は最大政党であるアンナハダはチュニジアの民主主義の失敗について自党が果たした役割を検証する必要があると述べつつ、党のメンバーは抑圧の復活を懸念していると語った。

「これは私たちが体で感じることだ」と同氏は言う。「現状は法の支配が保たれていない。すべてが恣意的で、相手を追い詰められるようになっている」

政治家とアナリストは、低い投票率を見込みつつ、新憲法が採択されることはまず間違いないと話している。

そして、サイード氏にとって本当の課題は経済だと指摘する。チュニジア政府は数週間内に、緊縮政策が条件となる融資について国際通貨基金(IMF)との協議を始めるとみられている。

「チュニジアがIMFと合意するにせよ、しないにせよ、サイード氏にとっては厳しい状況だ」とメッデブ氏は言う。「政治的な支持は減退するだろう」

By Heba Saleh

(2022年7月5日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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