EUエネルギー政策、現実路線に 30年55%排出減に前進欧州議会、原子力・ガス「持続可能」支持

EUエネルギー政策、現実路線に 30年55%排出減に前進
欧州議会、原子力・ガス「持続可能」支持
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR05DP30V00C22A7000000/

『【ブリュッセル=竹内康雄】原子力と天然ガスは「持続可能」で、地球温暖化対策に貢献するという欧州連合(EU)の方針が固まった。民間投資を呼び込み、エネルギー供給と気候変動対策を両立させねばならない現実論を踏まえた判断だ。

「エネルギー移行、特に原子力への投資に長期的な確実性を与えるものだ」。EUのブルトン欧州委員(域内市場担当)は6日の欧州議会で「タクソノミー」に原子力と天然ガスを含める案を支持したことを受け、ツイッターに書き込んだ。

世界各国でもタクソノミーに似た基準づくりは進んでおり、4億5千万人の人口を抱えるEUの方針は世界標準になりうる。EUは他国に先んじて基準を定めることで、世界の投資マネーを呼び込む狙いだ。日本にとっても、進んでいない原発の再稼働に追い風になる可能性がある。

EUタクソノミーでは、原子力は生物多様性や水資源など環境に重大な害を及ぼさないのを条件に2045年までに建設許可が出された発電所を持続可能と分類する。50年までに、原発から出る高レベル放射性廃棄物の処分施設の具体的な計画をつくることも必要だ。

天然ガスでは、30年までに建設許可を得た発電所は1キロワット時あたりの二酸化炭素(CO2)排出量が270グラム未満といった条件に加え、35年までに低炭素ガスに切り替える計画を立てることなどを求めた。

欧州委案に反対論が根強かったのは、持続可能という点で原子力とガスに短所があるからだ。原子力発電所は運転中にCO2を出さないが、処分方法が難しい放射性廃棄物が出る。天然ガスは石炭よりは少ないものの、一定のCO2を排出する。

短所を認めつつも、欧州委が原子力とガスを持続可能と分類したのは足元の現実を見据えたためといえる。20年のEUのエネルギー構成をみると、再生可能エネルギーは17%にとどまり、化石燃料が7割弱を占める。

EUは30年に90年比55%排出減を実現するのに原子力とガスは欠かせないとみる。将来は再生可能エネルギーにほとんど転換するとしても、当面は原子力を増やし、石炭からガスへの移行を促して排出減を後押しする。

EUのマクギネス欧州委員(金融サービス担当)は5日、エネルギー供給への不安から「石炭火力発電所を再稼働させる加盟国も出ている」とけん制。再生可能エネルギーへの移行期間として原子力とガスを活用するのは理にかなっていると強調した。

原発の新増設はエネルギーの自立に貢献し、ロシア産エネルギーへの依存解消にも役立つ。ガスを持続可能とするのは「ロシアからのガス購入が増えかねない」(ある欧州議員)との批判も出るが、欧州委はロシア以外からのガス輸入を増やすため、液化天然ガス(LNG)基地などへのインフラ投資が必要だと主張する。

加盟国の意見のバランスをとった面もある。原子力はフランスや中・東欧諸国が推進し、ガスはドイツやギリシャなどが支持している。

ただ一部の加盟国や欧州議員にはなお反対論がある。オーストリアのゲウェッスラー環境相は6日「原子力とガスは気候変動対策に貢献しない」として法的手続きをとると表明。他のEU加盟国にも同調を働きかける考えを示した。


タクソノミー(taxonomy) 欧州連合(EU)が、どんな事業や商品が「持続可能」な経済活動かどうかを示す基準。英語で「分類法」を意味する。一部は2022年から適用が始まっており、自動車には1キロメートルの走行当たりの二酸化炭素(CO2)排出基準を、鉄鋼製品には1トンあたりの生産で出るCO2の量を定めている。
ある事業が「持続可能」に分類されなかったからといってEU内で事業そのものが禁止されるわけではない。ただESG(環境・社会・企業統治)への関心の高まりを背景に、投資家などが「持続可能」でない事業に資金を投じることを敬遠する可能性は高く、事業のハードルはあがる。EUが持続可能と認めていれば、投資家は安心して投資できる。』