民主主義の弱み見透かすプーチン氏 分断へ長期戦辞さず

民主主義の弱み見透かすプーチン氏 分断へ長期戦辞さず
ウクライナ侵攻が裂く世界㊤ 編集委員 坂井光
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK015Y10R00C22A7000000/

『欧州連合(EU)、主要7カ国(G7)、北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議が6月下旬、欧州を舞台に相次いで開かれた。いずれも対ロシアで結束を確認した。しかし、ウクライナ侵攻の「出口」を巡っては温度差も生じている。そんな思惑のずれをプーチン大統領は見逃さない。

プーチン氏も首脳外交

西側首脳による一連の会議の一方で、プーチン氏も首脳外交に奔走していた。

6月23日、中国、インドなどと構成する新興5カ国(BRICS)首脳会議にリモート参加すると、25日にはベラルーシのルカシェンコ大統領をサンクトペテルブルクに迎えた。そして28日からは侵攻後初の外遊となるタジキスタン、トルクメニスタン訪問を開始した。

戦時中にもかかわらず「通常モード」のように振る舞う背景はなにか。

制裁を受けてもエネルギー収入は増加し、通貨ルーブルは上昇している。目先、経済が破綻することはないという余裕がうかがえる。

国内では戦死者が増えていることや徴兵されることへの不安が広がりつつある。そのうえ物価が上昇し、西側の商品や情報が手に入りにくくなるなど不満も多い。それでも、強権で抑え込める程度だ。今のところ反プーチン運動が盛り上がる気配はない。

西側の「支援疲れ」見越す

戦闘が長期化すれば、制裁で経済的苦境に陥るロシアが先に音を上げると思われたが、そうともいえなくなった。むしろプーチン氏は長期戦も辞さない構えのようだ。西側の「ウクライナ支援疲れ」を促し、戦争に有利な条件を最終的に手に入れようという思惑がうかがえる。
ウクライナの農地もミサイルの被害にあっている(6月22日、東部の小麦畑)=ロイター

そのための「武器」がエネルギーと食料だ。ロシアはいずれも需給逼迫に拍車をかけ危機をあおっている。日本に対しても三井物産などが出資するロシア極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」で揺さぶりを掛け始めた。

「われわれの責任ではない」「ウクライナが降伏すれば解決する」。世界的なエネルギー・食料危機をあざ笑うかのような発言がロシアから相次ぐ。

プーチン氏が見透かすのは、選挙という洗礼を受ける民主主義陣営の限界だ。

ドイツ、フランス、イタリアのいずれの政権も物価高騰やウクライナ支援問題などで求心力が低下し始めている。

そして最大の支援国、米国は11月の中間選挙を前にバイデン大統領の不支持率が支持率を上回るなど民主党の苦戦は必至の情勢だ。

主要国首脳は対ロシアで結束するが、エネルギー・食料危機の問題に翻弄されている(6月28日、ドイツでのG7サミット)=AP

制裁にも強権で立ち向かうプーチン氏と、国内世論の突き上げを受ける西側リーダー。双方の我慢比べの様相だが、どちらがしたたかに振る舞っているかは一目瞭然だ。厭戦(えんせん)ムードが先に広がるのは西側の可能性が高い。

その兆しはすでにある。距離の面でロシアに近いバルト諸国やポーランドは、クリミア半島の奪還も含めてロシアを徹底的な敗北に追い込むまで支援することを主張するが、それは少数派だ。

マクロン仏大統領は6月上旬の現地紙とのインタビューで「ロシアに屈辱を与えてはいけない」と発言した。できるだけ早期に停戦合意し、ウクライナに一定の譲歩を迫るのもやむを得ないという考えをにじませた。ドイツやイタリアもそれに近い立場とみられる。

西側がそのようにかじを切るとウクライナはつらい。戦闘継続は西側からの支援にかかっているからだ。

ロシア支配、5分の1に

プーチン氏にとって戦況は当初思い通りではなかったが、今では支配地域はウクライナの5分の1に達した。同氏が見定めているのは西側陣営の支援疲れを誘い、占領地をさらに拡大し、戦果とすることだろう。

ロシアは支配地域を拡大している(6月12日、ウクライナの南部メリトポリで)=タス共同

「何も変わっていない。どのくらい続くかには答える必要はない」。6月29日、記者団に侵攻の目的と終わるメドについて問われたプーチン氏はこう言い放った。

国内を強権で抑え、世論を気にする必要がないプーチン氏にどう立ち向かうのか。民主主義陣営の覚悟と真価が問われているともいえる。

◇ウクライナ侵攻を巡る最新情勢、今後の展望について、地域に精通する編集委員、欧州総局長による解説を3回連載でお届けします。

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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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分析・考察

ウクライナ情勢を入念にウォッチしている人が内心そのように思っていても実際はなかなか口にできないことが、そのまま書かれている。「制裁で経済的苦境に陥るロシアが先に音を上げると思われたが、そうともいえなくなった」「厭戦(えんせん)ムードが先に広がるのは西側の可能性が高い」といった部分が重要。ロシアは資源国の強みを活かして米欧を揺さぶる。資源価格上昇はロシアの戦費を潤沢にする。プーチン大統領は長期戦覚悟のようで、早期の休戦協議再開は難しい。ウクライナ「非ナチ化」=ゼレンスキー政権転覆を目指すとプーチン最側近のパトルシェフ安全保障会議書記が5日の会議で強調したと、読売新聞がけさ1面トップで報じている。

2022年7月7日 7:38

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渡部恒雄
笹川平和財団 上席研究員
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分析・考察

先日、ロシアのジャーナリストと話をする機会がありましたが、ロシア人は外部から攻撃を受ければ、結束してきた歴史があり、ウクライナ戦争でロシアを包囲するほど、プーチン大統領の求心力が高まるということを、西側はよく理解していないと嘆いておりました。とはいえ、プーチン大統領も2024年に選挙を控えています。独裁国家の難しいところは、民主主義国家のように容易に指導者を代えることができないことです。西側としても、プーチン大統領も困るが、それ以外の予測不能な指導者が現れて、ロシアが混乱することも望んでいないはずです。そのあたりに、ウクライナの停戦の落としどころがあると思います。

2022年7月7日 7:35 』