米国・サウジ「盟約」限界 バイデン氏、原油求め訪問へ

米国・サウジ「盟約」限界 バイデン氏、原油求め訪問へ
石油と安保巡る戦略的互恵、脱炭素で見直し急務
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB290KT0Z20C22A6000000/

『米国のバイデン大統領が15~16日、サウジアラビアを訪問する。ウクライナに侵攻したロシア包囲網強化へ、ほぼ唯一原油の増産能力を持つサウジの協力を引き出したい立場だ。人権を重視する米国内のリベラル派からの圧力も強まるなか、77年続いた石油と安全保障を巡る「盟約」は書き換えを迫られている。

ムハンマド皇太子㊧とバイデン大統領はお互いを必要としている=AP

「今回も何か嫌がらせを企てているのでは?」。米政府関係者が気をもむのが2016年のオバマ大統領訪問時の光景が再現される可能性だ。

6年前、首都リヤドの空港に降り立ったオバマ氏を迎えたのは地元知事とひとにぎりの関係者。サルマン国王も現皇太子のムハンマド王子も姿をみせなかった。対立するイランへの制裁を解除したオバマ氏への不満を露骨な冷遇で示した。

サウジは、蜜月と呼ばれたトランプ前政権時代と打って変わり、人権問題に厳しい目を向けるバイデン氏に不信感を抱いている。

18年に起きた政府批判の記者殺害事件に皇太子が関与した(サウジ側は否定)ことを念頭に大統領候補時代のバイデン氏はサウジを「パリア(のけ者)として扱う」と発言していた。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、皇太子は21年9月、サウジを訪れたサリバン米大統領補佐官との会談で、記者殺害事件が話題にのぼるや声を荒らげて怒り、増産要請を突っぱねたという。米当局者は報道を否定したが、関係者によると「会談は友好的とほど遠いものだった」。

「皇太子に会いに行くのではない。国際会合に出る。そこに彼が参加する」。国内のガソリン価格引き下げのため皇太子に増産を頼み込むのではないか。そんな批判を意識するバイデン氏はあくまで地域機構の首脳会議の席で皇太子と会うと主張する。会談の形式をめぐる調整、駆け引きが続いている可能性がある。

米欧の反サウジ感情の根強さを示したのが、男子ゴルフの新ツアー「LIV招待」だった。サウジの政府系ファンド、パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)がスポンサーとなり、6月に英ロンドン郊外で始まった。

総額2億5500万ドル(約350億円)という破格の賞金で、22年は世界各地で8大会を予定している。猛反発したのが日程をぶつけられた米PGAツアーだ。
サウジがスポンサーとなったゴルフのLIV招待は批判を招いた(6月11日、英ロンドン郊外)=ロイター

コミッショナーのジェイ・モナハン氏は「お金のためにわれわれに背を向けた」と、LIV招待に参加したフィル・ミケルソン選手(米国)らのPGAツアー参加資格を停止すると発表した。

米英の著名なスポーツキャスターや選手が、記者殺害事件や人権問題を蒸し返した。事件で地に落ちた評判を回復させようとしたサウジのイメージ戦略は、まったくの逆効果となった。

投資規模5000億ドルの巨大都市建設や英サッカークラブの買収――。ポスト石油時代を前に民間主導の経済づくりを目指すはずだった皇太子の改革は、派手なイベントやメガプロジェクトばかりが目立ち、混迷を深めている。

「あり得ない組み合わせの結婚」と評される米サウジ同盟の始まりは、1945年、ルーズベルト大統領がヤルタ会談の帰路、初代アブドルアジズ国王と会談したことにある。

民主主義のリーダーと閉鎖的な王制国家のあいだの、石油と安保をめぐる戦略的な互恵関係は77年続いた。石油の時代の終わりが近づくなか、矛盾をはらんだ関係は見直しを迫られる。

英王立国際問題研究所のニール・キリアム氏は「米国にとってサウジの価値は個人的な好き嫌いを超える重要性を持つ」と指摘する。

中間選挙を前にインフレ対策に躍起のバイデン氏と、次期国王としての威信を取り戻したい皇太子。ウマの合うはずもない両者は結局、お互いを必要としている。

混迷するサウジの改革を本来の軌道に戻し、民主主義陣営に取り込むための同盟の書き換え。それはサウジと地域、世界にとっての利益となる。

(編集委員 岐部秀光)

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