市場揺るがす米国の分断 レイ・ダリオ氏の警告に現実味

市場揺るがす米国の分断 レイ・ダリオ氏の警告に現実味
ニューヨーク 宮本岳則
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN30BPP0Q2A630C2000000/

『5月に米ビバリーヒルズで開かれた国際会議「ミルケン研究所グローバル・カンファレンス」。米金融界トップや著名投資家、富豪たちは公式会合や取材の場でロシアを非難し、ウクライナへの連帯を表明していた。一方、非公式会合では悲観的なシナリオも語られていた。戦争が長期化するほど、インフレなどで国民の不満が高まり、民主主義国家は不安定化する。対ロシアの結束は揺らぎ、プーチン大統領が有利になる――といった内容だ。

西側陣営は6月にドイツで開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)で強い団結をアピールした。ところが各国首脳の国内基盤に目を向けると、必ずしも盤石ではない。同19日に投開票されたフランス国民議会(下院)決選投票で、マクロン大統領率いる与党連合が、議席を減らし過半数割れした。物価高騰への不満が逆風になった。ウォール街も徐々に悲観シナリオを意識せざるをえない。

世界秩序への影響度を考えた場合、米国の国内政治リスクはフランスなど他の民主主義国家に比べてはるかに重大だ。11月の米議会中間選挙を前に、米国内では不穏な空気が流れている。きっかけは米連邦最高裁が6月24日、人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年の判決を覆したことだ。共和党・民主党の支持者間で意見が分かれており、政治・社会の分断が一段と進む。

「2024年の大統領選挙で未曽有の政治的暴力が起き、憲法の危機をもたらすことが心配だ」。世界の政治リスク分析に定評のあるイアン・ブレマー氏は6月27日のメモでこう記した。トランプ前大統領の支持者が大統領選の結果を覆そうと米連邦議会議事堂を占拠した21年1月の悪夢がよみがえる。

実際、最高裁の方針が事前にリークされた5月以降、ブレット・カバノー最高裁判事の暗殺未遂事件が起きたほか、中絶権利反対派の中絶・妊娠相談センターが約30件の攻撃を受けているという。世論調査によると最高裁への信頼度は過去最低水準まで落ち込んでおり、政治的安定の土台が揺らいでいる。

世界最大規模のヘッジファンドを創業したレイ・ダリオ氏は歴史家の顔を持つ

かねて米国の「内戦」リスクを警告してきた人物がいる。世界最大規模のヘッジファンドを創業した著名投資家レイ・ダリオ氏だ。歴史家の顔を持つ同氏は2月の投稿で国家の興亡には6つ段階があると主張した。過剰な財政支出や格差拡大が、ひどい金融環境と激しい闘争をもたらし、やがて内戦や革命に至るとしている。

ダリオ氏は11月の中間選挙で民主・共和両党の穏健派が議席を失い、ポピュリスト(大衆迎合主義者)議員が増えると予想する。インフレがもたらす格差拡大や、最高裁の判断などを巡り、左派と右派が24年の大統領選まで激しい闘争を繰り広げる可能性がある。ダリオ氏は「内戦に至る典型的な道筋と一致する」と指摘する。

ウォール街で内戦突入を想定している人はほとんどいない。一方でダリオ氏の予言が少しずつ現実味を帯びてきていることも事実だ。11月の選挙後に米国社会が不安定化すれば、ウクライナ支援に影響する可能性がある。中国のような強権国家を勢いづかせるに違いない。金融市場がこうした地政学リスクを織り込み始めれば、日本の投資家にとっても「対岸の火事」ではなくなる。

[日経ヴェリタス2022年7月3日号掲載]
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尾河真樹
ソニーフィナンシャルグループ執行役員兼金融市場調査部長
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貴重な体験談

米ヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツの創業者であるレイ・ダリオ氏が2019年に出版した書籍「Principles(プリンシプルズ)人生と仕事の原則」を拝読したことがある。600ページの大作でかなり読み応えがあるが、歴史家でもあるダリオ氏の言葉は示唆に富んでいる。中でも「現実がどう機能するかを学ぶために、自然を見よう」は心に残っている。人間の営みも自然界の法則に従っているわけで、自然の観点で物事をみる、大きな視点で現実を俯瞰することの大切さを説いている。ダリオ氏の米国内戦に関する予想は的中してほしくないしそこまでにはならないと思うものの、警鐘には耳を傾けるべきかもしれない。

2022年7月6日 10:02

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伊藤さゆり
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究理事
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分析・考察

ウクライナ戦争での残虐な行為、ロシア軍の多大な犠牲、西側の厳しい経済制裁、強権的な政治手法などへの国内からの批判でプーチン政権が崩壊し、終戦に向かうというのが、西側が期待したいシナリオかもしれない。
しかし、ロシア国内の世論調査ではプーチン大統領の支持率は侵攻後、80%を超え、6月時点でも不支持率を差し引いたネット支持率は67%。
https://www.levada.ru/en/ratings/
他方、G7で、ネットの支持率がプラスはイタリアのドラギ首相のみで、その支持も低下傾向。英国のジョンソン首相に至ってはマイナス42%という状況だ。
https://morningconsult.com/global-leader-approval/
ウクライナ戦争で、ロシアの弱体化だけでなく、西側の民主主義がさらに揺らぎ、経済が疲弊することも懸念している。

2022年7月6日 8:04 (2022年7月6日 8:54更新) 』