中国の一帯一路構想に関する疑問(スリランカコロンボ通信)

中国の一帯一路構想に関する疑問(スリランカコロンボ通信) : タフツ大学フレッチャースクールにて国際関係を考える(Thinking about International Relations at Fletcher school of Tufts)~経済産業官僚の日記~
http://blog.livedoor.jp/bostoninter2/archives/28595133.html

『人生初のスリランカからお届けいたします。Colombo Villaというインテリアが素敵なホテルに宿泊して、インドで働いているフランス人の英語の先生と2時間ほど会話しながら朝御飯を食べ終えたところです。新しい人に会えるのが旅の醍醐味です。

今回は、私の卒業論文とも関係がある「一帯一路」構想に関してです。大学の先輩かつ広い意味での職場の先輩から以下の質問をいただきましたので、考えていきたいと思います。

1.中国のインフラ開発プロジェクトは採算性があるのか?

2.中国にとってもホスト国にとっても継続性が期待できる事業なのか?

3.どのぐらいホスト国である中国がプロジェクトの管理に対して口出しをできる余地を残せるのか?

1.中国のインフラ開発プロジェクトは採算性があるのか?

1に対するシンプルな回答は、「採算性が無かったとしても中国が損切りをすることはない」 というものです。中国のインフラ開発は、日本のインフラ開発=「面による開発」に似ているといわれます(これに対してヨーロッパや国際機関は点による開発を指向)。以下、中国のインフラ開発の底本「チャイナズ・スーパーバンク」から引用します。

アフリカ諸国は西側の援助を効率的に使い始め、政治的にも民主化が進みつつあった。次のステージは、インフラの整備と産業の工業化に対する需要の高まりである。しかしアフリカにはインフラを整備する技能がないし、西側諸国にもない。西側諸国はその手の投資には何年も前に背を向けていた。「西側には短期間で大規模な都市化の建設プロジェクトを完成させた経験がない。彼らは、道路を一本通すだけでも十年はかかると言うだろう」とユーは言ったそうだ。(中略)

中国のアフリカヘの援助は1956年に始まったが、それは発展途上国の旗手になりたいという毛沢東の野心から生まれたものだ。1970年代は国家解放運動の支援が中心であるが、70年代半ばには中国は米国のアフリカ向け援助プロジェクト数を上回るほどになっていた。ところが1980年代になるとアフリカの重要性は縮小してしまったが、1989年の天安門事件後は、途上国とアフリカは中国の政策にとって以前にも増して重要になった。「中国のアフリカ援助の特徴はヒモ付きではないこと。内政干渉ではないこと。そしてインフラの建設に的を絞ることである」と中国商務省の外国援助部の副部長だったワン・チョンアンは、中国の外国援助方針に関する方針を一字一句違わずに引用してくれた。

(中略)

陳元が三峡ダムプロジェクトで学んだことは、ダムがあれば電気ができるし、できた電気は売れるのだ。2011年2月にコンゴにおいて、中国開銀は道路網と鉄道網、さらに鉱業、エネルギー、農業および製造業の改善に関する合意書に調印した。このようにプロジェクトをパッケージ化することによって、中国開銀は融資が成功する条件を創りだすことができるのだ。もしひとつのプロジエクトがうまくいかなくても他のプロジェクトで補える。陳元が中国の地方政府融資に関して「パッケージ型融資はキャッシュ・フローを調整し、特定されたリスクを軽減することを狙ったものだ。そして、良いプロジェクトをさらに良くし、是正しなければならないプロジエクトを改善するためのものだ」と言っている。

(チャイナズ・スーパーバンク ヘンリーサンダースン P180-182)

一帯一路というのは、中国が個別の途上国に対して過去におこなった開発事業をパッケージ化して今後の方向性を示したものだと多くの識者が指摘しています。そういうわけで、一帯一路というバズワードに踊らされることなく、そもそも中国のインフラ開発の在り方を知る必要があります。

上の例以外にも、道路網や鉄道網の単体開発で問題になるのが、土地収用になります。鉄道は鉄道単体ではなく、周囲の土地収用とセットでおこなうのが中国の特徴です。鉄道の近くの地価上昇も見越して地域の面的開発を目指します。これも日本に見習った知恵で、日本も鉄道会社は運送事業のみではなく、駅ビル事業や不動産事業から多くを稼いでいます。これに関しては、ODAに詳しいJICAの山田審議役(2015年当時)の言葉をお借りしたいと思います。

我が国の大都市では鉄道や地下鉄が整備され、多くの市民が通勤や通学に利用をしている。軌道系の鉄道は都市の骨格と言えるもので、その沿線開発によって都市が発展する。日本では50万人都市となったら地下鉄の整備が当たり前のようになされ、都市の渋滞緩和や沿線の住宅開発を行ってきた。そうした意味で日本の鉄道投資は、沿線の開発などを事業効果と捉え、都市の発展の骨格を作るといった長期的なビジョンに立って投資される。

同じ考えで、我が国はアジアの都市圏における鉄道整備を進めてきた。アジアの大都市では人口が500万人であっても軌道系の公共交通手段を持たない都市が多い。円借款においてはソウルの地下鉄1号線の整備に始まり、ジャカルタのジャボタベック(首都圏)の鉄道整備、マニラの通勤線、バンコクの地下鉄に対して継続的に円借款を供与してきた。最近ではインドのデリー、ムンバイなどの主要都市での地下鉄、ジャカルタ、ハノイ、ダッカなどでのMRT (都市鉄道などの大量高速輸送)の建設が続いている。

これに対し、世界銀行のエコノミストは、「鉄道への初期投資は、財政状況の良くない途上国政府にとっては多大な負担を強いる」としてその整備に反対した。筆者がジャカルタの都市交通を担当していた1980年代当時のことである。鉄道は初期投資に大規模な資金が必要であるが、途上国の公共交通では乗客から高額の運賃を取れないので初期費用を回収できないというのだ。また、「鉄道の運営・管理は高度な技術が必要で、そうした技術は途上国にはない」とも言う。今から考えればインドネシアに失礼な話である。その代わり推奨されるのが、建設費が鉄道に比べ半分以下で整備できるBRTと呼ばれるバス専用レーンの整備である。確かに建設費は鉄道の半分以下で済む。しかしながら、問題はその輸送力である。鉄道の輸送量が1時間に一方向で3万人から5万人とされるが、BRTは1万人から2万人がせいぜいである。

これに対しては、筆者は「確かに運賃だけでは初期投資は回収できない。しかしながら、沿線の住宅開発や駅前広場の商業施設など、長期的に考えれば、経済全体にプラスであり、有効な投資だ」と反論した。日本の私鉄会社も運賃だけでは赤字の場合が多く、沿線の不動産やターミナル駅のデパートなどで収益を上げている。

その時の議論は平行線で終わった。結局、米国ワシントンDCで車通勤しか経験していない世界銀行職員、特に米国出身者には、アジアの大都市における鉄道の役割が皮膚感覚として分からないのだと、思ったことが印象に残っている。しかし、世界銀行も最近では鉄道の社会的なインパクトに気づいてきている。2015年には世界銀行の都市交通エコノミストが、東京や香港での鉄道開発の事例を紹介し、沿線の土地の値上がりや利用価値の増大によって鉄道開発の資金を賄うという発想に転換してきている。(新興国のインフラを切り拓く 戦略的ODAの活用山田順一 P14-21)

上記の例は、かつての国際機関と日本の開発姿勢の違いを述べたものです。現在では両者とも鉄道の沿線の土地開発が現地の利益に結びつくように企画提案をしています。しかし、中国の場合は沿線の土地を含めて自国の資産にする土地収用は必要不可欠という考えなので、インドネシアの新幹線事業では沿線の住民の反対によって土地収用が思うように進まずに、新幹線の事業の着工の遅れが生じるという事態が生じています。ミャンマーでも本来は既にガス/石油パイプラインが通っている昆明⇔チャオピュー間に、鉄道を敷設したいと中国側は考えていましたが、ミャンマー側が近隣住民の理解が得られないということで反対したため実現していません。

このようなわけで、中国は決して損が出るような形で事業を実施することはないと思います。

2.中国にとってもホスト国にとっても継続性が期待できる事業なのか?

私も「継続性(sustainability)」というのは研究の1つのキーワードにします。「継続性」というのはケインズの言う不況時に穴を掘って埋めるというような後の世代に役に立たない一時的な経済・雇用効果しかない単発の短期事業ではなく、効果が持続するような長期事業になります。例えば、スリランカのハンバントタ港(Hambantota port)はShort-term projectで継続性が期待できないとして(アメリカ、ヨーロッパ、日本、国際機関等の)批判を集めています。しかし、この「継続性」という言葉は先進国の押し付けがましい概念であることがポイントです。途上国が、効果が持続しない短期事業を求めている場合にも、先進国は途上国のニーズを無視して「継続性」がないという理由のもとに切り捨ててきたのが実態です。

ハンバントタ港は、そもそも長期的な利益を生む商業港としてではなく、燃料補給港というShort-term projectとして作られたものです。このようなスリランカの要求に対して、 ADB、世銀、JICAは「継続性」が無いと言って融資をしなかったため、中国が唯一の支援元(donar)となってしまったのが事実です。中国はもともとハンバントタ港を海のシルクロードの地政学的要衝として狙っていてスリランカをうまく丸め込んでファイナンスをおこない、結果として99年の港の使用権を得たという陰謀説が流布しています。これは、あくまでも中国に敵対する国家に都合のいい情報に過ぎません。真実はスリランカが実施したい事業が始めにあって、それを中国しか受注しなかったというものです。そもそも国際機関か日本が融資を請け負っていたら、このような事態にもならなかったのです。

(情報元は、スリランカ人Thilini KahandawaarachchiのPolitics of ports China’s investments in Pakistan, Sri Lanka & Bangladeshという論文より。本論文は中国に敵対する欧米メディアによる中国の開発批判に対する反論を試みていて被援助国の立場を明らかにしている)
sha
(日経新聞2017年6月8日より)

3.どのぐらいホスト国である中国がプロジェクトの管理に対して口出しをできる余地を残せるのか?

退屈な模範解答は、「プロジェクトの開始時期、主体、動機により大きく異なる」というものです。

マダガスカルでJICAに勤務する友人からいただいた以下の情報が参考になります。

「途上国、特にアフリカ側から見ると、大統領の任期中にさっさと完成するインフラは助かります。その後債務に苦しむのはたいてい別の大統領ですから。残念ながら真面目に次世代のこと考えてる人は多くないですからね。短期と長期で何を大事にしたいかで、アフリカが誰を選ぶかは変わってきますよね。

それから、中国と一言でいっても政府資金なのか、マフィアのような民間が勝手にやってるのかは全然違うようです。マダガスカルでも中国政府として中国企業の動きは全部追いきれない、と、半ばため息気味でした。政府がグルなケースと勝手にやられてるケースと色々あるようで、その点中国政府も大変だなぁと横目で見てました…」

プロジェクト開始時の大統領/次の大統領、政府資金/民間資金、得票行為/継続的な地域の発展等の対立軸を準備すると中国のプロジェクトが見えやすくなってくると思いました。しかし、これは1つ1つのプロジェクトをつぶさに見ていかなくてはならないので、時間がかかります。例えば、スリランカのハンバントタ港の例ですと、中国交通建設集団(CCCG)がスリランカ政府の政策を実行する実施者(implementer)から政策決定に関与する政策影響者(influencer)になった変化や、2006年以降はCCCG本体ではなく中国港湾工程がプロジェクト推進主体になったことは見過ごせません。 (中国の一帯一路構想は「相互繁栄」をもたらす新世界秩序か? 榎本俊一P46より)

他方で、大きな傾向としては、中国政府も最近になって、上記のマフィアのような民間が勝手にやっている一部事業(不動産、ホテル、映画館など)への取り締まりを強化して、対外事業を積極的に管理していく方針を出しました(2017年8月18日付)。というわけで、今後は中国政府が主体的に管理する一帯一路構想上に位置付けられた事業が増える流れにあります。

<出典:JETRO通商広報 対外投資を奨励、制限、禁止の3分野に明確化(中国)より>

https://www.jetro.go.jp/biznews/2017/09/a5db0aa2bcb07742.html

というわけで、中国がプロジェクトに口出しできる余地は、プロジェクト毎に異なりますが、一帯一路上のプロジェクトに関しては政府が主体的に介入しようとする流れが出来つつあります。

個別プロジェクトの調査に関しては、是非とも霞が関の各省や政府系の独立行政法人殿に委託事業でおこなっていただいて、オンラインで調査結果を公表して欲しいものです。情報が限られているものが多いので困難だとは思いますが、多くの一帯一路構想研究者に便益があると思われます。AEI (アメリカンエンタープライズ)やCSIS(戦略国際問題研究所)も同様のことを進めようとしていますが、個別プロジェクトの詳細情報がまとまっていないのが現状です。私も現地の新聞情報やネット情報から以下のような個別プロジェクトの詳細情報を作ろうと思っていますが、 1人の作業では限界があるのが現実です。

Capstone Thesis Image

一帯一路構想や中国の個別プロジェクトに関して、意見・情報がある方は共有いただけますと幸いです。

See you soon from Colombo. 』