米国の台湾への「戦略的明晰さ」と中国の焦り

米国の台湾への「戦略的明晰さ」と中国の焦り
岡崎研究所
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/27138

『6月15日付のTaipei Times紙の社説が、シャングリラ会合での中国の魏鳳和国防相による攻撃的発言と、台湾海峡は国際水域ではないとする中国側の発言をとらえ、中国封じ込めが唯一の選択肢である、と主張している。
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 Taipei Timesが、最近の中国の台湾をめぐる激しい言葉の恫喝に対しては、米国の軍事力を背景にして、中国を封じ込める以外ないのではないか、との趣旨の論説を掲げている。Taipei Timesの本論説は、台湾海峡や周辺海域の現状を一方的に変えようとする中国の威嚇的行動を非難するもので、台湾の危機感を示すものである。

 Taipei Timesが最近の中国の極端な台湾攻撃の好例として挙げるのが、(1)シンガポールでの「シャングリラ対話(Shangri-La Dialogue)」における中国の主張と(2)さらには、台湾海峡は中国の「内水」であり、国際法の適用がある国際水域ではない、との中国外務報道官の主張である。

 シャングリラ対話において、中国の魏国防相は「これだけははっきりさせておきたい。台湾を中国から切り離そうとする者に対しては、誰であれわれわれはひるむことなく、あらゆる代価を払っても最後まで戦う。これは中国にとっての唯一の選択肢である」と述べた。

 この発言の前日、シャングリラ対話の場で、オースティン米国防長官は、中国が台湾海峡の「現状維持」を一方的に変更しようとしていることに対して警告した。「米国の政策は全く変わっていない。しかし、残念なことに中国の政策はそうではなく、現状を変更しようとしている」と述べた。

 シンガポール会議の前月には、バイデン大統領が、訪問中の東京で、米国は台湾の防衛に「コミットしている」との趣旨の発言を行い、これは「失言ではないか」などという反応を引き起こしたばかりであった。シンガポールでの魏の発言の背景にはこのバイデン発言も当然影響を与えたと見るべきだろう。

 最近、中国は米国が台湾の地位について、「戦略的曖昧さ」ではなく「戦略的明晰さ」へと変わりつつあるのではないか、との危惧の念を持ち始めているのかもしれない、というのがTaipei Timesの論説の趣旨でもある。』

『中国が仕掛けてきている「法律戦」の新説

 ごく最近、中国外交部の王報道官は、台湾海峡について「台湾海峡は中国の主権下にある『内水』のようなものである」と述べ、国際海峡のように、他の国々が勝手に「無害通航」することは出来ない、と指摘したが、これは今までに中国が公然と主張したことのない新説ともいうべき主張である。

 Taipei Timesはこのような中国の主張を新たな「法律戦」と呼び、これを全くの「たわごと」(poppycock)であると一蹴しているが、中国側のこのような言説には、警戒が必要である。

 このような「法律戦」は、台湾海峡のみならず、東シナ海、南シナ海の海域を自らの主権の範囲内とする一方的な領土拡張の覇権主義に繋がっており、尖閣の領有権のことを考えれば日本としても断じて看過することは出来ない主張だろう。

 振り返れば、1998年、江沢民下の中国は、台湾北部沖合と南部沖合に対し、ミサイルを発射し、台湾を威嚇したことがある。台湾が初めて民主主義に基づく総選挙を行い、李登輝総統を選出した時である。

 この時、クリントン政権下の米国は、2隻の空母を台湾海峡に急派したのに対し、中国はなすすべなく後退したことがあった。この「台湾海峡危機」においてさえ、台湾海峡が、中国の内水である、などという主張を中国は行ったことはない。

 その後の中国の防衛費増額などを考えれば、軍事力強化の今日と25年前との違いは歴然としている。そして、最近中国が建造した第3隻目空母「福建」には、台湾対岸の省名がつけられており、中国の台湾侵攻を狙う特別の思いさえ感じることが出来る。

 中国の「法律戦」のようなフェイク・ニュースに惑わされることなく、日本としては台湾海峡の平和と安定の重要性を堅持する姿勢を貫く必要があることについては、多言を要しないだろう。』